銀髪の魔女

夢花音

第1話銀髪の魔女

中世ヨーロッパの静かな村に、平和を何よりも願う大魔女ミリディアが住んでいた。彼女は世界に名だたる強大な魔力を持ち、その知識と技術で多くの人々を救ってきた。だが、晩年に一つの不安が心を蝕んでいた。それは、自身の魔力と知識を継承する後継者が見つからないことだった。



ある夜、ミリディアは決心を固め、魔力を宿したルビーナという特別な指輪を作り上げた。彼女はルビーナに後継者探しの使命を託し、自らの最期を静かに迎えた。ミリディアが亡くなった後、ルビーナは異世界を渡り歩き、長い年月をかけて適任の後継者を探し続けた。しかし、望むような人物に出会うことはなかった。



年月が経つうちに、ルビーナは様々な世界を巡り歩き、そこで見聞きした魔力を吸収し、言葉はもちろんのこと、アレコレも覚えてしまった。ルビーナは異世界を渡り歩きすぎて、少し残念な指輪になってしまった。


ある日、ルビーナは科学が存在せず、すべてが魔法によって営まれる高度な魔力世界に辿り着いた。この世界に魅了されたルビーナは、10年の歳月をかけてその魔力と知識を吸収し、ミリディアの遺産に新たな力を加えた。


10年という月日が過ぎていく中で、ルビーナはこの世界の一人の少女と出会い、勇気づけられた。再び異世界への旅に出ることを決意したルビーナは、たまたま渡った地球での自らの失態のせいで、一人の老女、彩子の指に嵌り込むことになった。そして、彩子を後継者とした。大魔女ミリディアの遺志を継ぐべく、ルビーナは新たな主に大魔女としての訓練を急かすが、彩子はルビーナの願いを叶えてくれるのだろうか?その答えは、未来のどこかに待っている。




彩子は余命わずかとなり、寝たきりのままだった。病魔に冒されたあまり、もう言葉さえ発することができなくなっていた。



「おばあちゃん」



3歳のえり子が古びた銀色の指輪を持って、彩子のベッドサイドに駆け寄ってきた。



「ね、ね、庭で拾ったの!きれいでしょ?」



えり子は彩子の手を取り、その薬指に指輪を嵌めた。するとその指輪からものすごい輝きが放たれた。その光の中で、彩子の意識は徐々に遠のき、永眠の時を迎えた刹那、指輪から青白い光が放たれた。



「なぁに?...ぇ?蘇生の時なの?……でも、私自身の魔力が足りない!。駄目だわ、引き離すだけの力が足りないわ!」



「仕方ない、復活の魔法を発動しなくちゃ」



ふわりと彩子の魂が肉体から離れ、指輪の内部に収められた。この指輪は、かつて魔女ミリディアが作った魔力の器で、ミリディアは魔力と知識を宿した指輪にルビーナと名付け、後継者探しを命じていた。しかし、地球に魔力がないことを知らずに転移してしまい、魔力を使い果たしていた。彩子の指に嵌まった時、地球の生命力から、わずかに魔力を取り戻せた。その魔力は極少なく、十分とはとても言えなかった。一度嵌めると強力な契約となり、今の魔力では、彩子を切り離せなかった。彩子が死んでしまうと、指輪は何百年か眠りについて、新たな主を探すことが出来ない。焦ったルビーナは、彩子の魂を呼び込み蘇生の魔法を発動、大魔女の世界と繋げて魔力を補充し、その世界で転生させることにした。





「私は大魔女ミリディアの指輪ルビーナよ。主の魔力と知識を受け継ぎ、後継者を探してきたの。…ちょっとあなた大丈夫かしら?」



「えーと、新しい魂よ。今から魔法使いの訓練をしなさい。…この人ホントに大丈夫?誰よぉ?私知らないわよ~」



彩子は一人でブツクサ言う声に、良く喋るなぁと他人事に聞いていた。



「うーんと。彩子って言うの?…ヤッダぁ~平凡で面白くない人生ねぇ」



彩子はムッとして「随分失礼ね!」と言った。



「魔法使いにはなってもらうわよ!」ルビーナが宣言した。



「良く分からないけど、嫌よ!」彩子は即答した。十分に生きた。あの世でゆっくり休みたい。



「な!何て事を!大魔女ミリディアの力よ!」



「だから知らないし、わかんないの。私には魔力がないんでしょ?平凡でつまらない人生なんだから!どうして私なのよ?」



ルビーナは転移の経緯と、地球に魔力がないため起きた事態を説明した。



「素晴らしいでしょう?」ルビーナが誇らしげに言った。しかし彩子は「魔力がないのに、それができるわけがない。私にはなれないわ。なるつもりもないわ」と答えた。



「残念だけどそれは無理ねぇ。あなたの魂は既に指輪の中よぉ。蘇生魔法を発動したから転生しなきゃ。転生しないと、すぐに指輪の中で消滅するわ~。もちろんあの世にも行けないわよ~、消滅ですものねぇ」



彩子は大きくため息をついてこめかみを軽く揉んだ。(魂だけでも頭痛はするんだわ)とか、つまらない事を考えながらも消滅は嫌なので、転生することにした。かくして、ミリディアの魔力と技術を宿す指輪は、魔女を育てるという、長い路を歩み始めた。




老女彩子は15歳の少女に若返り、魔法の世界に転生した。しかし転生を望んでおらず、この新しい世界に拒絶的だった。取り敢えずは、ルビーナの助言で友好的な村に住まわせてもらえることになった。



この世界では髪色が魔法の系列を表し、彩子の銀髪はこの世界に無い色だった。また、魔力が多い者程、長髪だった。髪に魔力が宿ると言われているのだ。だからと言うわけでもないが、彩子の髪は肩先で切りそろえられている。魔法を使えなかったが、魔法に興味がないので構わなかった。しかし村人は彩子の異質さに戸惑っているようだった。魔法が使えない人間は見たことがなかったのだ。



ある日、村の広場で魔法の授業があると聞いた。彩子は魔法が使えず参加できないが、暇つぶしに、生徒が水の魔法を練習するのをぼんやり眺めていた。自分には関係ないが、この異世界での知識はこれから、ここで生きていく為には、必要だと考えていた。いつ、知らない世界に放り出されるかわからない。ルビーナのことを余り信じていない。確かに、拾って指輪を嵌めたのは孫娘だし、不可抗力と言われれば、そうかもしれない。けれども、それほど大事な使命なら、もっとちゃんと地球の事とか調べて考えるべきだったのでは?と思うのだ。そんなことをつらつら考えていると、彩子の指輪からルビーナの声がした。「私は大魔女の力を預かっていたのよ~。あなたがそれを受け継いだのよぉ。その力はもうあなたのものなのぉ。だから~訓練すれば、あの程度の魔法ならすぐ使えるはずよ~」ルビーナは、彩子なら魔法を使えると説得した。しかし彩子は興味がなかった。「私にはもともと魔力がない。無理に使おうとしてもろくな事はないわ」と首を横に振った。だがルビーナは諦めなかった。「あなたの中にはぁ、大魔女ミリディアの魔力と知識が宿っているのよ。その可能性を信じられないっていうの?」煩く騒ぐルビーナに根負けした彩子は、指輪の力を借りて水の魔法を試してみた。すると手のひらに小さな水球が浮かび上がった。魔法を使えて嬉しいが、生活が便利になるからといっても、彩子には心から訓練する気持ちは湧いてこなかった。しかし指輪の働きかけもあり、日々練習を続けるうちに、少しずつ魔法の世界に惹かれていった。転生当初は望んでいなかったが、大魔女の知識を継承できたことで、魔法への関心が芽生えてきたのである。魔法が使えるようになり、村の魔法の授業にも参加するようになった。火、水、風、土の基本の四大元素に加え、光、闇、時間操作、空間移動など多様な魔法を学ぶことができた。彩子は特に水と光の魔法に興味を持ち、熱心に練習した。ある日、彩子は水を操る魔法で大きな水球を作り出すことに成功し、それを天高く上げて雨のように降り注ぐことができるようになった。周りから拍手喝さいが送られ、彩子は初めて魔法の喜びを味わった。光の魔法の授業では、ルビーナの助言もあり、輝く光の球を一度にいくつも生み出せた。「素晴らしい!あなたは本当に魔力に恵まれているのね」と先生が賞賛した。このように日々の努力の積み重ねにより、彩子の魔力は着実に高まっていった。魔法への理解が深まるにつれ、ルビーナとの対話も活発になった。「私は、やっとあなたに、信じてもらえたのかしら~」とルビーナは言った。「あなたはぁ、間違いなく大魔女ミリディアの後継者で私の主様なのよぉ」彩子は指に嵌った指輪を不思議な思いで見つめながらも、自分の中に宿る大魔女の知識と魔力を実感するようになった。「そうね………正直あなたを恨んでいた時もあったわ」ルビーナが少し恨めしげな声で「知ってるわよ~かなり信用してくれてなかったわよねぇ」と答えた。彩子は苦笑いしながらも「謝らないわよ?」と言った。この新しい世界での生活に少しずつ馴染んでいった。


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