第24話 宇宙の真理と感情の波紋

創造神は、光り輝く宇宙空間に浮かぶ壮大な神殿の大広間中央に立っていた。そこは無限に続くかのような漆黒の宇宙に、銀河や星々が神殿の周りで輝きを放っていた。壁も床も透き通る純白の光に包まれ、創造神が一歩踏み出すたびに、光の波紋が広がっていく。天井には無数の星がきらめき、創造の力がその場に脈動しているかのようだ。


この神聖な場所は、どんな物質的なものとも無縁であり、創造神の中に宿る宇宙全体の真理と共鳴していた。ここに立つだけで、創造神は宇宙のあらゆる存在と繋がっていることを感じる。


創造神は、自らが彩子の一部であり、同時に彩子でもあることを深く理解していた。彼女の中には、宇宙全体の真理が宿り、彼女自身が星々の繁栄を願う存在であると同時に、創造の力を持つ存在でもあった。


「私が彩子である限り、私の感情を無視することはできない」と創造神は呟いた。彼女は、宇宙の生命たちとの繋がりを感じながら、自身の感情が創造という力に変わることを望んでいた。


「感情を受け入れることで、新たな力を得ることができるのだろうか?」と創造神は自問した。バングルが輝き、彩子の感情が流れた。彩子は、このままでは上手く共存できないかもしれないと不安になった。彩子が彩子自身でいるためにも、大切な記憶や感情が必要だった。


地球で天命が尽きて、輪廻の輪に戻り自然に少しずつ記憶が薄れていったのなら、ここまでの執着はなかっただろう。しかし、異世界に記憶を持ったまま若返って転生した。


見知らぬ異世界でリオもいたけれど、地球での思い出が彩子を支えてくれた。今更、邪魔だからと捨てきれるものでもなく、納得できるわけがなかった。


ふと、(私って都合よく利用されただけなんじゃないの?大いなる力が森羅万象だなんて知らなかったし、森羅万象を受け継いで力を開放するのに感情とか記憶とかが邪魔になるとか知らなかったし!知っていたら、知っていたら………私、どうしたのかな……)


しかし、何故か無償に腹が立つ。空間がユラリと揺れ、世界が電流が流れているようにビリビリしていた。


三人の女神たちが慌てて空間の広間に飛んできた。「落ち着いてください!世界が荒れています。」と太陽の女神、ソルが叫んだ。


彩子はハッとし、(危ない、危ない。深呼吸、深呼吸)とゆっくり深呼吸をした。星の女神アストライアーが「どうなされたのですか?」と心配そうに尋ねた。


月の女神、ルナが「感情に影響されたのですね?」と聞いた。彩子は何度も頷いた。「何故か無償に腹が立ってね。」


「とにかく落ち着いてください。世界が荒れます。」とソルが重ねて言った。


その時、空間に渦を巻いたトンネルが現れ、中から一人の青年が現れた。青年はニコニコしながら彩子の前まで来ると、「やぁ!彩子げん………………」


突然、彩子はその青年を力いっぱいひっぱたいた。バシッと心地良い音がすると、青年は頬を押さえて、「な、なんでよ〜」と泣いた。


あッと思い、殴った右手を見た。「せっかく、新しい魔導具を持ってきたから喜んでくれると思ったのにぃ」と涙目で訴えられた。


そして、青年は彩子をじっと見つめると、「彩子なの?」と聞いた。彩子は頷き「リオ?」と聞き返した。リオは空間トンネルを使って何度もこの世界に来ている。新しい技術や不具合があった箇所の修理や修正で村にも何度も行っている。


始めはリオが人間になったとは直ぐには信じてくれなかったが、時間が経つにつれて受け入れてくれて、今ではこの世界での故郷になっている。


だが、人間になる時も、そしてこちらに渡って来た時も彩子と会えなかった。もう二度と会えないのかもしれないと心の中では思っていた。それがこうして会えた。嬉しいが、何故殴られたのだろう。


リオは頬をさすりながら「彩子会えて嬉しいけど、なんで殴るのよぉ」と文句を言った。彩子はニッコリと笑顔で「うん、腹が立ったから。」と答えた。


リオは彩子の返事に訳がわからないような顔をして「なんでよ〜」と言った。


「だって、考えてみたらさ〜私リオに強制的に転生させられて、それで大いなる力なんて言われて神羅万象を手に入れちゃったじゃない?それなのにさ、今更になって感情だとか記憶だとかが邪魔だからってね〜それなのによ、リオは私からとっとと離れて好きな女のところに行っちゃうし。それも人間になってなんてずるい!」口を尖らせてリオを睨む彩子にリオはあたふたしていた。


「いや……ごめん。強制的だったのは認めるよ。でも僕も本当に知らなかったんだ。森羅万象の理とか真理とか…だから、、、それから離れてごめん………。その…精霊王になれば近くにはいられたかもしれないけど、ごめん。」俯いて、だんだん小さな声になっていくリオを見て彩子はおかしそうに笑った。


彩子は自分が殴ったリオの頬をそっと撫でて、「殴ってごめん。意地悪言ってごめん。」と謝った。「わかってるのよ。あの時点ではあなたにも分からなかったのでしょう?だから仕方ないのよ。それに………リオは優しいからね。私が私でなくなるのが見ていられなかったんだよね。だから結局私から離れて静香さんのところに行くことにしたんだよね。静香さんのこと好きだったしね。話し方も違うし。男の子らしくなったよ」


「静香が男の子らしいほうがいいって言うから………」


「あれ?やっぱりムカつく?」



「彩子〜〜〜」リオの悲痛な声に笑いながら彩子は続けた。「ごめんごめん。嘘だよ。それに、これも運命かな、と思う。静香とは他人じゃないし。」


「え?」リオが聞き返した。「あれ?言ってなかったっけ?静香は私の子孫だよ?ほらほら、指輪のルビーナを私の指にはめた孫娘がいたじゃない。あの子の直系の子孫が静香よ。」


「でもすごいよね〜私が亡くなってから、地球の感覚では何千年よ?」リオが聞き返した。「でもあの世界は地球じゃないよ?地球には魔素がないんだ。あの世界には満ち溢れている。それに地球には妖精も精霊もいなかった。でも今の僕の時代には妖精も精霊もちゃんといるよ?」





「それはね〜、簡単に言うとね、何千年も経つうちに、地球の科学が非常に進歩して、科学以外の力を受け入れる余地が少なくなってしまったの。」


「小説や映画などの娯楽作品も、科学的な視点から解釈されることが多くなり、この世界では科学で解明できるものがほとんどだと考えられていたわね。」


「確かに、その時代の科学は驚くべきもので、映画や小説の中の夢物語が現実になった冬眠医療や空陸車が普及して、一般の航空機はほとんど見られなくなったの。」


「自動運転の車が当たり前になり、子供たちは学校に通う必要がなく、親も自宅で仕事ができるようになったのよ。ただ、すべての人がその変化を受け入れたわけではなく、意見が分かれることもあったの。多様な考え方が存在したけれど、社会全体がそれを十分に理解しきれなかった部分もあったのよ。」



「静香の先祖は、私の子孫でもあるのだけれど、私たちの不思議な物語が御伽噺として広まって、大ヒットしたの。」


「私が火葬されたときに指輪が消えてしまったけれど、その指輪が天の力によって魂になり、おばあちゃんと一緒に世界を旅しているという話が生まれたみたい。」



「その物語は大切に受け継がれてきたけれど、一部の人々には理解されず、迫害された人たちもいたの。そうした人たちは新たな希望を求めて地球を離れ、他の星でも生きていけると信じて新しい世界を探しに行ったのかもしれないね。」



リオはなんとも切ない顔をしていた。直接には関係ないかもしれないけど、原因の一端はあるような気がしていた。彩子は「リオのせいではないわ。」けれども時代は移り変わっても人間は………と少し苦々しく感じる。


「ともかく、そんな事情で地球から離れたけど運が良かったのね。無事他の星に移住できたのよ。更にその星は魔法が存在する世界だったと言うわけよ。それから今の魔法と科学の共存する世界になったのね。多分だけど、静香がルビーナをすんなり受け入れられたのも、御伽噺として伝わっている物語のおかげかもね。」


「あら?でもそれはルビーナ自身で、?まあ、いいわ。それがということよ。」

リオもうんうんと頷いた。大体わかった。


しかし、そんな事があり得るのだろうか?彩子を後継者と決めたのは、偶然だと思っていたが、それは必然だったのかもしれないとリオが考えに耽っていると、彩子が言った。「もう時間切れみたい。また、いつか会いましょう。元気でね、リオ。」その言葉を残して彩子は消えた。


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