第14話創造神と神々の集い~リオの決意と未来の記憶~

思いのほか静かな夜明け。彩子は黙ってエーテルに向かった。リオが心配そうに声をかける。



「彩子?どこに行くの?」



彩子はニッコリ笑うと答えた。



「神々の集いよ。創造神として、これからのことを指示しなくてはね。精霊王も集めましょう。」



そう言うと、彩子はエーテルの中に入っていった。エーテルが光を放ち、そこから現れたのは創造神だった。リオは恐る恐る声をかける。



「彩子?なの…?」



創造神は彩子の声で答えた。



「そうよ。でも、今だけよ。」



「これから神々の集いに行くわ。リオはここで待っていてね。あなたを連れてはいけないの。」



そう彩子は言った。リオはため息をつく。



「そうよねぇ……精霊王様たちがいる場所に、ただの精霊がいたらおかしいわよねぇ~。」



彩子も頷きながら答える。



「そもそも、すべてが普通ではありえないことなのよ。指輪だったルビーナが精霊になることも、人間の私が森羅万象を手に入れることも。ミリディアの力が巨大だったこともあるけどね。でも、これらは何一つ偶然でも突発的な出来事でもないのよ。必要なことなのよ。特にね、リオ?あなたはこれからの再構築には、なくてはならない存在なのよ。」



そう言って彩子はウインクした。リオは泣きそうな声で叫ぶ。



「……そんな姿で、やめてよぉ~!」



彩子はおかしそうにケラケラと笑った後、真面目な顔に戻って続けた。



「今はまだ詳しく言えないわ。だけど、本当のことなのよ。ねぇ、リオ?あなたは知っているわよね?遥か先の未来、余りにも遠い未来の魔法と科学が融合した世界のことを。」



リオは驚いたように彩子を見た。



「まぁ、そういうことよ。」



「とにかく、今はこの世界をなんとかしなければね。」



そう言うと、彩子は「行ってくる」と言い残し、姿を消した。



リオは、彩子が消えた場所をしばらく見つめていた。彩子には話していないが、「森羅万象の力があれば、わからないことなんてないわよねぇ」と、一人で納得していた。リオ自身も、いろいろ不思議だと感じていたことがあるのだ。



自分が指輪だった頃には、ミリディアの大いなる力が森羅万象だとわからなかったこと。精霊になった途端に、ミリディアとの会話が記憶に蘇り、すべてが理解できたこと。(ミリディアがわざわざそんなことをする必要はないはずなのよねぇ。だって、普通、指輪が精霊になるなんて思わないわよ?)リオは、何かしら見えない力が働いているような気がしていた。



そして……新しい世界の構成。「魔法と科学の世界」。聞いたときには驚いたけど、知っていたのなら納得だわね。リオは、指輪だった頃の旅を思い出していた。



リオがルビーナだった時、ミリディアが亡くなり、後継者探しの旅に出た。魔力を使って、あらゆる世界、あらゆる場所に行った。もともとミリディアから預かっていた魔力は莫大だったから何の問題も無かった。さすがにすべてを解放してくれたわけではないけれど、かなりの力は使えるようにはしてくれていた。探しても探しても後継者は見つからず、自分がどこにいるのかもわからなくなり、後継者探しも諦めていた。(あのまま、どこかに流れてしまってもいいと思ったのよね)



そんな時にたまたま辿り着いたのが、遥か未来の知らない世界だった。今にして思えば、それも不思議な話だ。(今、行けと言われてもいけないわぁ)どこの世界だったのか、どれだけ先の未来なのかもリオにはわからない。(ありえないのよぉ)



そうだ。魔力であちこちに行った。行った先がわからないはずはない。けれども、いくら考えてもわからない。あの夢のような世界……。人にとって良いのか悪いのかは、リオには分からないし、どうでもいい。ただ、ルビーナの頃にはとても素晴らしい世界に思えた。そしてリオとなった今も、その思いは変わらない。リオはあの世界で過ごした10年を懐かしく思い出していた。



地球とは異なるあの世界では、科学と魔法が融合し、極めて発展した社会が築かれていた。電気は空間から魔法で集められ、無限に供給される。一方、ガスは存在せず、すべてが魔法によって賄われている。生活水準は彩子がいた地球をはるかに超え、トイレは魔法による浄化システムであり、移動は「ゲート」によってどこへでも瞬時に可能だ。まるで有名な「ど◯で◯ド◯」のような存在だ。




  この世界での、新しい生命の誕生は「魔法ドーム」と呼ばれる特別な空間で行われる。生命の誕生とは言っているが、実際には魔法の力を用いた独特の方法で新しい命が育まれる。一つの魔法ドームの中に複数の育成空間があり、そこから生まれた子どもたちは互いに兄弟と呼ばれる。子どもを育てたい夫婦は厳選な調査や厳しい検査を受け、無事に通過した夫婦だけが子どもを育てる事が出来る。


身体的な負担はなく、すべてが魔法によって行われる。自然な方法での生命誕生はほとんど昔ばなしのようなものである。



7歳まで両親が愛情をかけて育て、情緒教育は7歳までに両親によってなされる。教育は7歳から始まり、基本的な生活魔法やこの世界の原理、ルール、法律などを学ぶ「睡眠教育」が行われる。8歳になると、それぞれの興味に応じた専門の道に進むため、両親とは別れ、家族という概念がなくなる。医療は「魔法プセル」によって、ほとんどの病気や怪我が治癒され、科学による分析が行われる。



この世界に、指輪のルビーナが紛れ込んだ。指輪は意思を持ち、異なる世界から流れ着いたものであった。ある少女がその指輪を拾い、意思の疎通に成功した。指輪はこの世界で10年をかけて新たな知識と魔法を習得し、目的を果たそうとしていた。それは、異世界での大魔女の知識を次の後継者に渡すことだった。しかし、指輪の今の主である少女静香は、この世界でも重要な役職についており、指輪の力を引き継ぐことはできない状況にあった。魔法の力で言うならば、この世界の魔法は大魔女の魔法より強いが、指輪はこのままではどうにもならないと考えていた。



静香は指輪の苦悩を理解し、旅立ちを応援することを決めた。再会を約束し、指輪の新たな使命のために見送った。指輪は新しい知識と魔法を持ち、さらに強力な後継者を探し続ける旅に出ることになった。




暫く、昔の思い出に浸っていたリオは、ふと思った。(彩子と静香なんだか似てるのよねぇ。仕草というか雰囲気というか……あら?名前もなんだか似てるような?)懐かしい思い出にリオは心が温かくなっていた。指輪の時には感じられなかった思い。(静香はルビーナが精霊になったと知ったら驚くかしらねぇ。)と考えたら少し可笑しくなって小さく笑った。





リオはエーテルの光が天に昇るのを眺めながら、自分の役割について考え始めた。彩子が言ったように、自分がこの世界の再構築に必要だということは理解したが、具体的に何をすればいいのかはまだわからない。リオは、あの未来の世界で得た知識や経験が役立つのではないかと考えた。


あの未来の世界では見たこともないような技術が存在していた。リオは、10年分の知識と記憶をこの世界に持ち帰っている。それが彩子の手助けになるのではないかと考えた。10年間、ただの指輪に過ぎないルビーナに真面目に魔法や科学について語り合い教えてくれた。


リオにとって静香との出会いはとても大きな意味を持っていた。リオを理解し、旅立ちを応援し励ましてくれた。リオは、出来ることなら、静香と再会したいと心から願っていた。



リオは決意を新たにし、彩子が戻ってくるまでの間、自分にできることを考え始めた。まずは、あの未来の世界で得た知識を整理し、この世界でどのように活用できるかを考えることにした。リオは、自分がこの世界の再構築にどのように貢献できるかを見つけるために、全力を尽くそうと思った。


そして、リオはエーテルの光が輝き瞬くのを見つめながら、未来への希望を胸に抱いていた。彩子と共に、この世界をより良い場所にするために、自分の力を最大限に発揮することを心に誓ったのだった。



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