第17話 対峙する影

コロンボは、ダグラス・スコットの死に関する調査が進む中で、その音楽に隠された暗号が一つの糸口に過ぎないことを感じていた。音楽に潜む危険なメッセージの真意を解き明かすためには、次の鍵となる人物に接触する必要があった。コロンボは、スコットのビジネスパートナーであり、音楽業界で影響力を持つ**デヴィッド・ハーヴェイ**に会うことを決意した。


デヴィッド・ハーヴェイは業界の巨頭として、数々のアーティストを成功へと導いてきたが、その裏ではダークな噂も絶えなかった。スコットが彼と長年のビジネス関係にあったことから、彼が事件の背後にいる可能性が高いとコロンボは睨んでいた。


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ハーヴェイのオフィスは、ロサンゼルスの高層ビルの一角にあり、贅を尽くした豪華なインテリアで飾られていた。コロンボはレインコートを直しながら、受付を通り抜け、冷たいガラスのドアを開けた。オフィスの奥には、ハーヴェイがゆったりとしたソファに腰掛け、コロンボを待っていた。


「どうもどうも、コロンボ刑事。ダグラス・スコットの件でお会いするとは思っていませんでしたよ。」ハーヴェイは、にこやかな表情を見せながらも、その目は何かを隠しているようだった。


「ええ、どうもお邪魔しますねぇ。」コロンボはいつもの飄々とした態度で、ハーヴェイの前に腰を下ろした。「スコットさんが突然亡くなられたのは、非常に不幸なことですよねぇ。彼の死に、何かおかしな点があるように感じていましてね。」


ハーヴェイはわずかに眉をひそめたが、その微妙な変化は見逃されなかった。「確かに、彼の死はショッキングでした。しかし、彼は非常にストレスを抱えていた。事故であってもおかしくないでしょう。」


コロンボは軽く頷き、ハーヴェイの言葉を聞き流しながら、核心に迫る準備をしていた。「そうかもしれませんねぇ。ただ、スコットさんの最後の音楽に、何かメッセージが隠されているようなんですよ。」


ハーヴェイの表情が一瞬硬くなった。コロンボはその変化を見逃さず、さらに話を続けた。「実はねぇ、私、スコットさんの最後の曲を聞いてみたんですが、その中に奇妙なノイズが混ざっていたんです。暗号のようなものがねぇ。」


ハーヴェイは静かに立ち上がり、窓の外を見ながら答えた。「コロンボ刑事、音楽には多くの意図が込められています。創作の過程で、様々な要素が混ざることもあるでしょう。だが、あなたが言うような『暗号』など、スコットが仕込むとは思えません。」


コロンボは微笑みながら、少し頭をかしげた。「でもねぇ、どうも彼が何かを隠そうとしていた気がしてならないんですよ。それに、彼が最後に残したメモには『危険』という言葉が書かれていました。ハーヴェイさん、何か心当たりはありませんか?」


ハーヴェイは一瞬だけ、言葉を失ったように見えた。彼は再びソファに腰を下ろし、冷静さを取り戻すと、低い声で答えた。「スコットは…一部の音楽業界の裏側について知りすぎていたのかもしれません。しかし、彼の死は事故です。あなたが言うような陰謀など存在しません。」


「そうですかねぇ。」コロンボは静かに答えながら、ハーヴェイの顔をじっと見つめた。「でもねぇ、スコットさんは何かを恐れていたようですし、それを音楽に隠した。それが、彼の死に繋がったんじゃないかと思ってるんです。」


ハーヴェイはその言葉に反応せず、ただ静かに窓の外を見つめていた。彼の表情は硬く、何かを隠していることが明白だった。コロンボはその沈黙の中で、事件の全貌が徐々に明らかになっていくのを感じていた。


「まあ、まだ調査中ですけどねぇ、音楽ってのは不思議なもので、真実を隠すのも暴くのもできる。スコットさんが残した音、ちゃんと聞いてみる価値があると思うんですよ。」


コロンボは最後にそう言い残し、立ち上がった。彼の目には、次の一手をすでに考えている光が宿っていた。


「またお話を聞きに来るかもしれませんねぇ。お忙しいところ、ありがとうございました。」


ハーヴェイは静かに頷いたが、その目は冷たく鋭く、コロンボを見送った。彼が何を隠しているのか、コロンボにはまだ全貌は掴めていなかったが、確実に何かが裏に潜んでいることは感じ取っていた。


コロンボがオフィスを後にしたその瞬間、彼の頭の中で事件のピースがゆっくりと繋がり始めた。スコットが知ってしまった音楽業界の秘密、それがハーヴェイにまで関わっている可能性が高い。だが、その秘密が何であるのか、まだ答えには届いていなかった。


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次回予告


デヴィッド・ハーヴェイとの対話によって、コロンボはダグラス・スコットの死に隠された真実に一歩近づいた。しかし、音楽業界の裏に潜む陰謀はまだ深い闇に包まれている。次回、コロンボはさらに真実を追い、危険な真相に迫る!


次回、「音楽業界の闇」。

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