第7話 おつかれさまでした。


 気付けば、意識を失ったあの部屋に戻ってきていた。


「……戻って来れたのか」


 ややぼんやりとする頭を振りながら呟く。



 相変わらず、窓もない四方を白い壁に囲まれた圧迫感のある部屋だ。

 唯一存在するのは、壁に貼られた小さなQRコードのみ。


 改めて観察するに、やはりこれは普通のものではない。

 何らかの……そう、言うなれば魔法陣のような物ではないだろうか?

 我ながら普段なら思いつかない発想だと思う。


 だが、さっきまでの経験は夢ではない。


 ……と思う。

 つい数秒前まで圧倒的な現実感を持っていた記憶が、どんどん曖昧になっていく。

 もしかしたら、熱中症か何かになった自分の捏造された記憶であるような気もしてくる。




『無事戻ってくれたんですね、お疲れ様です』




 急に後ろから声がした。


 振り向くと、俺をここに案内した派手な色の髪をした女が立っていた。

 チシャ猫のような、ニヤニヤとした笑いがそこに浮かんでいる。


 ……今こいつ、「」と言ったか?


 ならば、こいつは知って……いや、当たり前か。

 勿論、彼女は俺がそれに気づく事を分かった上でそう言ったに違いない。


 様々な疑問が浮かんでくる。


 あの場所は一体なんなのか。

 どうやってあそこに飛ばしたのか。

 そして、あの犬人間達はあの後どうなったのか。



 だが、俺は全ての疑問を飲み込み、頷くだけにとどめた。



 この女に聞いても俺が納得する答えは返ってこない、そんな確信があったからだ。



『……ふゥん? 聞かないんだ? じゃあ、アプリでその読み込んでくれる?   それで時間終了扱いになるから』


 少しだけ意外そうな表情を浮かべ、今度は作り笑いではない笑顔を浮かべる女。



 魔法陣て。

 こいつ、もう隠す気無いだろ!?



 ……また飛ばされたりしないだろうな?と思いつつも、素直に従ってアプリで魔法陣を読み込む。

 すると今度は飛ばされたりすることも無く、「お疲れさまでした」という表示が出てめでたく仕事完了と相成った。


「……じゃあ、帰っていいんですかね?」


「いいよー、お疲れー」


 そう言ってひらひらと手を振る女。


 俺は黙って頭を下げ、扉に手を掛ける。


『ねえ』


 と、女が俺の背に向けて声を掛けてきた。


『よかったらまた来てよ。あなたの仕事の評価、かなり高かったからさ』


 ……そう、か。


 振り返らずに、答える。


「……気が向いたら、来ます」




 帰りに少し高いビールを3本買って、帰った。


 うまかった。

 勝利の美酒とは、きっとこういうモノを言うのだろう。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 翌朝、朝食を取った後にようやく思い出した。


 そうだ、俺が行ったのは小銭稼ぎだった。

 なんか満足してたけど、報酬を見すらしてなかったわ。


 金は払われた筈だし、ちょいと確認してみるか。


 アプリを開こうとすると、アップデートを要求された。


 ……なになに?

 文字化け対応のアップデート?


 うん、結構酷かったし仕方がないな。

 でもこれどう考えても普通のアプリじゃないよな……。


 そこでようやく気付いた。



 っておい、なんだこれ。

 〇イミーじゃなくで、ダイ・ミーじゃねぇか!

 なんだよ、その物騒な名前のアプリは!


「俺を殺してみろ!」とか、どこの豪傑だよ。

 魏延か何かか、俺は!



 ……あー、もしかして色々な偶然が重なって俺はあの場所に行く羽目になったのか?

 アプリ作った所にメールでもしてみるかな……。


 そう思いながら操作し、昨日の仕事のタブを開く。



『認定戦士の称号が届いています』


 なんだよ、それ!?

 でもまあ、戦士と呼ばれるのは悪い気もしない。



 報酬 5,300G



 ……ん? G?



 円じゃない、だと?


 Gってあの世界の通貨か何かか!?

 いや、確かに金かもしれないけどさ!?


 それがどれくらいの価値で、あの世界の金をどうやって使えっていうんだよ!?


 あれだけの事をやって、収入ゼロかよ!

 あんまりじゃねぇか!



 ……お、報酬の下に『G→日本円両替サービス』のボタンがある!

 まぁそうだよな、無いと困るもんな!

 あって当然のサービスである。



 ぽちり。





 5,300G → 530円(手数料込)



 ……やっす!


 あれだけ働いて、530円!?

 帰りに買ったビール3本の値段以下なんですけど!?



 がっくりしてアプリを消そうとすると、『カタログ』というタブがあることに気付いた。

 なんじゃろ、カタログって。


 開いてみる。




 そこにはこう書いてあった。


『Gのみで買える マジックアイテムのカタログです』


 興味をひかれた俺はラインナップを見てみる。



 ・どんな傷も飲めばすぐに治る魔法のポーション 300,000G

 ・どんな病気も治る魔法のポーション 1,000,000G

 ・若返りのポーション(5年) 12,000,000G



 ……ヤバすぎねぇか、これ。 






 だが、これはチャンスだ。

 とてつもないチャンスだ。

 もちろん偽物かもしれない。


 が、あの体験をした俺は嘘と断じることが出来ない。



 ならば。






 俺は、笑った。


 初めて己に内に宿った野望の炎を感じながら、笑った。


 なるほどね。


 うん。





 さぁ、次の戦場へ行こうじゃないか。



 おわり


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ◇おしまいです。

 気が向いたら続きを書くかもしれないけど、とりあえずはおしまい。


 ◇短編でしたが読んでくださってありがとうございました!

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ダイ・ミー!隙間時間で異世界防衛! ~よく見たら違うアプリやんけ!~ みかんねこ @kuromacmugimikan

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