第3話 あれれ、おかしいな?

 登録するだけ登録して満足した俺は、その日はアプリを開くことも無く一日を終えた。


 無職は何故か、1日1ターンの行動になりがちである。

 いや、人によるんだろうけどさ。

 俺の場合はそうである。


 なんとなく「今日はこれをやったぞ」という事で満足してしまうのだろう。

 仕事してた時はそれなりに忙しくしてたはずなのに、実に不思議である。

 まぁ、俺の場合はカネは欲しいが、明日欲しいとかではないという部分が大きい気もするが。

 とにかくアプリを入れたこと自体を忘却し、なんとなく動画配信のサイトを開いてしまい、いつものように無為な一日を終えた。


 我ながら駄目すぎる。



 翌日。



 いつものように茶碗一杯の米、みそ汁、目玉焼きで朝食を終えた俺は、どうせやることもないし散歩にでも……となってようやく昨日導入したアプリの事を思いだした。


 そうだ、小遣いを稼ぐんだった。

 このままだとまた無為な一日を過ごすことになりかねない。


 その可能性を危惧した俺は、慌ててアプリを開いて操作する。

 UIはなかなかわかりやすく、説明なしでもなんとなく理解できる。

 オサレに振り切っていないのは高評価だ。


 暫くあちこちを見て回り、絞り込み方法などを学ぶ。



 なるほど、完全に理解した。(適当)



 確かにこれは仕組みとしてよくできているな。

 考案者は俺の10倍は賢いに違いない。


 トラブルも多そうだけど、人手不足に悩む側にとっては実に便利な代物だろう。

 色々と問題も思いつくが、それはまぁ俺が悩む事ではないので気にしない事にする。


 さっそく近所で絞込を掛けてみると、10km圏内にぽつぽつ求人があることが分かった。

 結構な田舎だから、募集が無い可能性も危惧していたので正直驚いた。

 無かったらとても悲しかったに違いない。


 すぐに幾つかの案件に目を通し、良さそうなものをピックアップする。


 ……これなんか良さそうだな。


『ゴル譁?ュ怜ガ南門』 10:00~16:00 5,300■ 7km


 なんか一部が文字化けしてるけど、時間的にも金額的にもまぁまぁである。

 

 まぁ、一番の決め手は近い事なんだけどな!

 場所は5kmほど先にある倉庫地帯で、徒歩でも自転車でも行ける距離だ。

 うん、交通費で報酬が吹き飛ぶこともなさそうだ。



 作業内容は『軽作業』。



 俺、知ってる!


 こういう『軽作業』って、いわゆる『楽な仕事』って意味じゃないって知ってる!

 軽作業ってのは、「誰にでも覚えやすい簡単な作業」って意味なんだぜ。



 つまり、多分これは結構疲れる仕事だ。



 場所が場所だけに、梱包とか積み込みそういった類の仕事だろう。

 添付されている写真も、なんか白っぽい作業着をきた人達らしき姿が映っている。

 オッサンには少々しんどい仕事と予想される。


 まぁでも、疲れない仕事なんてありえないわけだし。


 単純作業なら頭も使わず、色々考えなくて済むだろう。

 翌日か翌々日は筋肉痛確定だろうけどな!

 多分ビールは美味しくなる。

 悪くないな。

 帰りにでもちょっといい缶ビールでも買おう。


 そう考え、サクッと応募することにした。


 ワンタップで応募が出来る手軽さに驚く。

 こんなに簡単なの……?


 どうやら俺が募集定員の最後だったらしく、『締め切り』と赤で表示された。

 運がいいな。

 こういうささやかな事に幸せを感じる、そんな人生を過ごしたいものである。

 トータルで見ると運悪い方なんですけどね。



 ぴこん。



 驚いたことにすぐにチャットで申し送りが届く。

 早くない?

 ……いや、BOTで自動的に送られてくるのだろう。


 内容は何と言うか普通の内容で、当日体調不良の際は連絡下さいとかそういう内容だ。

 詳しい場所の地図も掲載されている。

 ……ふむ、やはり倉庫街の端の方か。

 流石に倉庫街には用がないので行ったことは無いが、そんなに複雑な地形でもなさそうである。


 当日の服装は「動きやすい恰好」で、か。


 普通だな。


 何々? 「使用する道具は貸与します」。


 つまりは、この身一つでいいという事か。

 まぁ、「軽作業」な訳だし当然といえば当然だな。


 ……ふむ、一応挨拶くらいはしておくか。

 BOTだとは思うけど、一応ね。


『よろしくお願いします』……と。





 ぽこん。





『こちらこそ』


 ……おぉう。


 ちょっとびっくりした。

 たまたま見ていたのかもしれんな。

 そういう事って稀によくあるものである。


 そう自分に言い聞かせ、アプリを閉じた。

 仕事は明日だ、今夜は深酒はしないでおこう。


 俺は僅かな違和感を振り払い、日課の散歩に出かける事にしたのだった。

 夜は缶のハイボール1本にしておいた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 翌日、朝9時。


 少し早めではあるが、遅れるより100倍マシと判断した俺はバイト先に向かう事にした。

 荷物は小銭だけを入れた財布と、汗をかく可能性を考えてタオルと着替え。

 そして飲み物とブロック型栄養補助食品である。

 まー、こんなもんだろ。


 最後に指差し確認し、「ヨシ!」と一声かけて出発する。


 見慣れた風景から初めて見る風景に切り替わり、同じような建物ばかりで少々手間取ったが目的地へたどり着くことが出来た。


 特に看板も見当たらず、あの文字化けしていた会社名が何だったのか確かめる機会はなさそうだ。


 ……もしかしたらあの文字化けしたと思ってた文字列の会社名かもしれん。

 俄然気になってきたぞぅ!?

 そう思い建物をぐるりと回るが、やはり会社名と思しきものは見当たらない。


 そんなことをやっていると、気付けば9時40分も過ぎようとしていた。

 こんなことをしていて遅刻するのはアホの所業である。


 俺は、あわてて事務所らしき場所の扉を叩いたのだった。



 コンコン



「はーい」


 若い女の声。


 ガチャリ


 扉を開け姿を現したのは、鋭い目つきのちょっと変わった翠色の髪の毛の女性であった。

 ……規則が緩い会社っぽいな。

 個人的にはちょっと怖いけど、まあ仕事の付き合いだろうし失礼な事を言わなければきっと大丈夫さ。


「あのぉ~……〇イミーのものですけどぉ~」


 ネットで調べたらこういえば間違いないと書いてあった挨拶をする。

 個人名ではなく「〇イミーさん」と呼ばれるらしい。

 コードネームみたいな物であろう。




「……あぁ、あなたが」


 すっと目を細める女性。


 ぞくり。


 何故か首筋が粟立つ。


「ようこそ、医&縺昴≧縺ェ繧オ繧へ」


 彼女はそう言ってにっこり笑った。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ◇これをみんなが読んでる頃、俺は〇イミーさんとして働いていると思われます。

 そんな作者に応援のお手紙を出そう!


 ◇俺の仕事が決まったらこのお話はそこで終わりになると思います。


 ◇次回、異世界へ。

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