第2話 えーっとあのアプリなんだっけ、えーっと。

 それを思いついたのは、いつも通り適当に用意した朝飯を喰い、健康の為に10年ほど続けている近所の山へウォーキング、つまりは散歩中であった。


 当初はランニングだったのだが、気付けばウォーキングになってはいるが、俺が大病に罹らなかったのはこれのおかげだと思っている。

 ……ランニング続けていたらなんかこう、マラソン大会とかに出てもうちょっと違う人生だったかもしれないが、過去は変えられないから仕方がない。

 後悔は後からしかできないのだ。


 でもさ、ずっと散歩続けてるだけ偉いと俺は主張したい。

 見てよほら、ちゃんと1万歩は歩いてるんだぜ?


 犬でも連れていれば格好はつくのかもしれないが、流石に格好つける為だけに生き物を飼う訳にもいかない。

 最近の犬や猫は普通に10年は生きるみたいだし、独り身でいつ死ぬか分からないようなオッサンが飼うのはちょっとね。


 あ、勘違いしてほしくないんだけど、犬猫は好きだよ。

 いいよね、犬猫。

 何がいいって、言葉をしゃべらない所がいいよね。


 おっと、いかんいかん。

 また話が脱線した。


 平日の朝にぼーっと散歩をする不審者ではあるが、幸い朝は人通りも少なく通報される確率は低い筈だ。

 小学生の登校時間にカチ合わないようにしないとな。

 最近は何かと物騒だからな、気を付けねば。


 ……オッサンってつくづく悲しい生き物だね。

 かなしいね。


 なんとか小遣い程度でも稼いで、不審者に見られない程度に身だしなみを整えるべきかなあ?


 と、そんなことをつらつら考えながら歩いていたのだが、「小遣い」というワードに引っかかるものがあった。


 そう言えばつい先日見たネットニュースで、俺と同年代が隙間時間に副業としてバイトしてるって記事見たな。

 その時は「そんなに仕事が好きかねえ?」とか思ってたけど、俺みたいなタイプの人間なのかもしれないな。

 動画配信とかで稼ぐっていう手もあるけど、あれはあれで間違いなく才能がいるし。


 つまり、隙間時間のアルバイトというのは遊ぶ金程度でもちょいと稼ぐのに最適では?と思いついたのだ。


 今の世の中、金が無くてもまぁ何とか生きてはいけるが、折角縁があってこの世に生を受けたんだ。

 少しは楽しく生きたいというのは贅沢ではないだろう。

 数千円でもちょっといい飯は食えるし。


 未経験の仕事でも、どうせ一度しか行かない場所なんだ。

 多少失敗して、恥をかいても気にしなくていいだろう。


 名案だって思ったね。


 思い立ったが吉日、それ以降は全て凶日!

 急いでポケットのスマホを取り出し、アプリをダウンロードするために操作をして……───





 ……なんて名前のアプリだっけ?




 ド忘れである。



 若い人には分からないかもしれないが、オッサンには間違いなく憶えているはずの言葉が全然出てこない事があるのだ!

 中途半端に思い出して気持ち悪くて、後で確認すると全然違ったりもする。


 加齢です、加齢によるものです。

 でも、みんないつかそうなる日が来るんだよ。

 だから馬鹿にするのは止めてね?


 こういう時は素直に関連ワードをぶち込んで調べるのだ。

 恥も外聞もなく、ふわっとしたまま検索しても意外と当たりが出る。

 オッサン豆知識ね。


 最近の検索機能は凄いよね。

 まぁ、『スポンサー』ってついてるのがずらっと並ぶのはちょっとアレだけどさ。



 ……お、出た出た。


 そう、そうだよ〇イミーだ!

 あー、すっきりした。


 すっきりしてブラウザを閉じようとして我に返る。


 違う、閉じるな!

 俺はそれを使って小銭を稼ぐんだ!


 名前が分かったのなら、アプリ検索で……っと。

 指先ですっすっと操作して検索欄に入力する。


 ……おっと、ちょっと打ち間違ったけど大丈夫だろ。


 今時の検索機能は凄いので、多少間違えても勝手に正解を導いてくれるのだ!


 予想通りぱっと探していたアプリらしきものが表示される。


 うん、多分これだ。


 昔は1文字違ったら「無ぇよ」って返って来てたものだ。

 懐かしい。

 更に前は検索さえなく、URL直打ちしてたからな。

 めんどくさいったらありゃしない。


 昔を懐かしみながら、表示された犬の様なキャラクターの描かれたアプリをダウンロードする。


 容量は大したことが無いのか、すぐに落ちてホーム画面に表示された。

 すぐに起動し、現れた説明を流し読みしながら登録していくと、物凄い細かい文字で書かれた契約書のようなものが表示された。


 ……これ、きちんと読んでる人いるのかね?

 拡大してもまだ小さい。

 老眼ではないが、流石に細かい文字はあんまり読みたくはない。


 もし説明文に変なのあっても多分誰も気づかないよなあ……と思いながら、斜め読みしていく。

 うん、うん。

 変な事は書いて無さそうだ。


 序盤でそう判断して、同意を押す。







 スマホが、黒く光った気がした。






 ……?

 気のせいかな?

 いかん、俺も歳だな。


 目をこすりながらそう思い、最後まで登録した。


 


 この時ちゃんと色々確認するべきだったんだ。

 アプリの名前とか、契約書とかさ。



 いやまぁ、実を言うと同意を押しちゃったこの時点で手遅れでだったんだけど。

 あのクソ長契約書の一番最後に一番大事な事を書くのって、流石にちょっとズルくない?


 だって普通気付かないだろ?


 俺がダウンロードしたのが「〇イミー」じゃなくて「ダイ・ミー俺を殺してみろ」なんてさ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ◇完全に一発ネタです。

 思いついちゃったんだから仕方がないだろ!


 ◇明日初〇イミーです。

  頑張るよ……。

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