第13話
衝撃のあまり茫然…いや、混乱してしまった。
夢でも見ているんだろうか…夢なら早く覚めないかな…そう願いうが、覚めて欲しくない自分もいて自分の気持ちがよく分からなくなってしまった。
心ここにあらずだったリーゼだが、ウィルフレッドの息が首筋にかかった事で我に返った。その途端、ヒュッと息を飲み慌てて止めに入った。
「ちょっと待った!!ストップストップ!!本当に待って!!お願い!!」
「なんだ?言っておくが、今更止められんぞ」
不機嫌面で前髪を掻き上げるウィルフレッドは、控え目に言っても色気の暴力が半端じゃない。
「いくら団長様とは言え、無理矢理ことに及ぶのは許される事じゃありません!!」
「責任は取る。安心しろ」
「安心できるかァァァ!!!!団長様がそんなだから、私の気持ちが揺らぐんです!!」
リーゼの勢いで出た言葉に、ウィルフレッドは目を丸くして驚いた。その様子を見て、自分が何を言ったのかを察したリーゼは「しまった」と口を慌てて詰むんだ。
だが、もう遅い。
「俺がこんなだと、どうなるって?」
「えっと~…」
不敵な笑みを浮かべながら迫られ、目を泳がせながら言葉を探すが、こんな時に限って頭がまったく働かない。
「いい加減諦めろ。俺の事が気になるんだろ?」
「…………」
「くくくっ、素直じゃないな」
ウィルフレッドは笑いながら、軽く頬にキスをした。
何かウィルフレッドの掌で転がされている気がして、面白くない。
自分はこんなにも悩んで苦しんでいるのに、ウィルフレッドには自分の気持ちも全て見透かされているようで、そんな余裕な態度が無性に腹ただしい。
リーゼはウィルフレッドを思い切り突き飛ばした。
「ええ、そうよ!!」
床に落ちたウィルフレッドを、ベッドの上から見下ろしながら叫んだ。
「意地悪で自分勝手で、こっちの話はまったく聞かない最低な男だって分かってるのに、そんな男にドキドキしてる自分に腹が立つのよ!!」
完全に八つ当たりだって分かっているのに、口が止まらない。こうなったら全部吐き出してしまえと、リーゼはその思いをぶつけた。
「その癖女性からの人気だけはあるもんだから、こっちは妬まれて散々よ」
ウィルフレッドは黙って、リーゼの言葉を受け止めている。
「人を好きになるのも好かれるのも、重荷になるという事が良く分かった。だから、私は人を好きにならない。なりたくない」
臆病者だと言われてもいい。それほど自分が傷つくのが怖い…
断罪されている者が何を言っているんだと言われるかもしれないが、ロドルフには愛も情もなかったので傷つくことと言うより苛立ちの方が勝った。
だが、ウィルフレッドは違う。
「──それが理由か?」
「え?」
溜息を吐きながらドサッとベッドに座ると、真っ直ぐな瞳でリーゼを見てきた。
「それらしい事を並べてるが、お前は俺がロドルフみたいに他の女に行くとでも思っているんだろ」
「…………」
「まあ、血は繋がってるからな。
それはリーゼも分かっている。分かっているが、疑いが拭えない。
「先に言っておくが、俺だってお前を誰かに取られると思うと想像しただけで気が狂いそうなほど恐ろしいぞ?」
弱々しい雰囲気のウィルフレッドにリーゼは戸惑ったが、それと同じくらい嬉しいという感情が湧いてくる。嬉しさで顔が綻びそうになるが、キュッと唇を噛みしめて誤魔化した。
「どちらにせよ、もう手離すことはできない。リーゼ、俺は君の事がどうしもなく愛おしいんだ」
ウィルフレッドはリーゼの手を取り、優しく頬に触れると縋るような表情で見つめてきた。
初めてウィルフレッドの口から愛を囁かれ、戸惑いと疑心そして、たまらく嬉しい気持ちが入り交じり、その結果涙が溢れ出した。
「そ、そんな事言っても、私より素敵な女性が現れるかもしれない」
「お前よりいい女はいない」
「こんな面倒で訳ありな女なのに?」
「面倒なものか。全て俺が受け止めてやる」
「それに─…」
「もう黙れ」
必死に自分のダメな所を伝えるが、途中でウィルフレッドに口を塞がれた。
「お前が心配になるのも仕方ない。心配するなとは言わん。むしろ心配してくれた方が俺としては嬉しいがな」
「…最低」
ニヤッと口元を吊り上げるウィルフレッドを見て、涙も止まった。
「ははっ、男というものは好きな女にはいつでも想っていて欲しいんだよ」
「そんなの女だって一緒よ」
「俺はいつまでもお前の事を想うと約束する」
「そろそろお前の気持ちを聞かせてくれ」真剣な顔と綺麗な瞳に迫られ、リーゼは言葉に詰まる。
本当は自分の気持ちなんて随分前に気付いてる。それを誤魔化し続けていた。
自分がこんなに臆病だと知らなかった。逃げる事しか考えていない卑怯者なのに、それすらも受け止めてくれるこの人は馬鹿なんじゃないかと思う。
(負けだわ…)
この人に勝とうとしていた自分も馬鹿なんだと思い知らされた。
「…………好き…………です」
「なんて?」
消えりそうな小さな声だったが、ウィルフレッドにはしっかりと聞こえた。だが、意地悪く聞き返した。
リーゼは顔を真っ赤にしながら「好きなの!!」と叫んだ。
「悔しいけど、好きになっちゃたのよ!!」
「告白にしては随分投げやりだな」
「こ、これぐらいは目を瞑ってよ」
告白なんて生まれて初めてのリーゼにとって、これは精一杯の照れ隠し。それでも、ウィルフレッドの顔は見れず、ベッドの端で顔を隠すように小さくなっている。
その姿すらも愛らしいと、ウィルフレッドはクスッと笑みが零れた。
「俺も愛してる」
ふわっとリーゼを包むように覆いかぶさり耳元で囁かれた。甘く優しい声に、止まっていた涙が再び溢れてくる。
ゆっくりと顔を向けると、同じタイミングでウィルフレッドの顔が迫ってきてそのまま押し倒される形でキスされた。
一瞬驚いた顔を見せたリーゼだったが、黙ってウィルフレッドの背中に腕を回し目を閉じた…
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