第16話
「な、なななななッ!?」
屋敷に入ってすぐ、目についたものに思わず声が出た。
エントランス一杯に沢山の箱…箱…箱…どれも綺麗に梱包されていて、明らかに贈り物だという事が分かるが、一体誰から?
「これは全て殿下からの贈り物だ」
「はぁぁぁぁ!?」
「いくら断っても贈ってこられる…こちらも迷惑してるんだよ」
溜息を吐いて頭を抱える父に、頬に手を当てて困ったように微笑む母。そして、不愉快そうに睨みつける兄。
物で気を引こうとする魂胆が丸見えで、眉間に皺が寄る。あまりにも頭の悪い考えに、溜息すら出ない。
(婚約時には贈り物一つも寄こさなかった癖に、自分の体裁が悪くなった途端これだ)
何をしてもロドルフの元に戻る事はないって言っているのに…まあ、向こうも必死なのだろう。物に罪はないのだから有難く貰ってもいいが、他の男からの贈り物を身につけているなんて事がウィルフレッドにバレた時が怖い。
とはいえ、王族からの物を易々と捨てる訳にもいかないし、何より勿体ない。
「……とりあえず、物置にでも……」
「そうだね。リーゼはもう休んでいなさい」
「そうさせていただきます」
父に言われ、久しぶりに自分の部屋へと向かった。
部屋に入った途端、ベッドに倒れ込み深く息を吸い込んだ。
久しぶりに自分の匂いの染みついたベッドで、落ち着くはずなのに全然落ち着かない。気づいたら自分の着ているドレスの匂いを嗅いだりして、ウィルフレッドの匂いを探していた。
「……お嬢さん何してんの?」
「ッ!?!?!?!?!?」
突如、眉を顰めたシンに顔を覗き込まれ驚きのあまりベッドから転げ落ちてしまった。
「大丈夫かい!?」
「……ええ、なんとか……──って、なんで貴方がここにいるの!?」
差し出された手を取りながら詰め寄ると「なんでって、頼まれたから?」シレッと返された。
どうやら自分が帰ってくるまで私の周りを警戒するように言われて来たらしい。
「ねぇ、本当過保護だと思うでしょ?」
シンは遠慮もなくベッドの上で胡坐をかきながらそんなことを言っている。
そもそも、こっちに戻って来たのだって騎士の兄がいるだからで、シンが一緒なら別に帰って来なくても良かったんじゃないかと思ってしまう。
「まあ、僕はずっと一緒にいられる訳じゃないし、自分の家の方がお嬢さんも気兼ねないだろ?」
リーゼの考えていることが分かったのかシンに突っ込まれた。
「……それはそうだけど」
なんか面白くない。
不貞腐れたように頬を膨らませていると「あははは」と笑い声が聞こえた。
「本当分かり易いお嬢さんだね。そっちの気持ちも分からんでもないけど、こればっかりは我慢して」
「ね?」と言われれば、黙るしかなかった。
❊❊❊
クンツェル邸に戻ってきて数日。ウィルフレッドからの連絡はない。
「連絡がないのはいい事だよ」とシンに言われたが、少しぐらい連絡をくれてもいいんじゃないかと思ってしまう。
今日も枕を握りしめて膨れっ面でベッドの上で胡坐をかいていると、アシェルが部屋を訪れてきた。
「こら、可愛い顔が台無しだよ」
「いいんです。元より大した顔してませんし」
「まったく…そう卑屈になるんじゃない」
アシェルはリーゼの傍に寄ると、ポンと頭に手を置いた。
「大丈夫。うちの団長は簡単にはやられるような人じゃない。連絡もその内くるさ」
「……お兄様。そんな悠長なこと言っていていいんですか?」
「は?」
「今は団長であるウィル様が不在。そんな今こそご自身の力をフル活用して、周りに認められる時だと思いますが?」
妹である私が言うのもなんだが、お兄様の実力は相当なもの。正直役職についていても不思議ではない。
「私はね、昇進なんかよりもリーゼの方が大事なんだよ」
その言葉通り何度も昇進の打診はあったらしいが、全て断っている。その理由が、役職なんかについたら自由な時間が限られ
最近では昇進の話すらなくなったと聞く。
ここまで想われるのは嬉しいと思うが、その反面すごく重い…そろそろ自分の事にも目を向けて欲しいと思っている。
──とその時、部屋の外がやけに騒がしい事に気が付いた。
「なんだ?何かあったのか?」
アシェルが部屋の外を確認しようとすると、侍女が飛び込んできた。
「お坊ちゃま!!お嬢様!!大変です!!殿下が……!!」
「「は?」」
侍女に連れられ慌てて部屋から出ると、そこには護衛を引き連れたロドルフの姿があった。
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