第8話 影の二重奏

玲奈は、別班の上層部が秘密裏に計画している「影のプロジェクト」の全貌を知った。彼らは国家の存続を盾に、裏で国を操り、影の勢力として支配力を広げようとしていた。そして、そのプロジェクトを阻止しようとする者は、すべて影の中に葬り去られる運命にあった。玲奈はその真実を知り、彼らの計画を阻止するための行動を決意するが、彼女に残された時間は限られていた。


玲奈は、次の行動を起こすために、別班の中で唯一信頼できると思われるエージェントに連絡を取ることにした。彼の名前は、白石葵。彼もまた、玲奈と同様に疑念を抱き、別班の中で孤立しているように見えた。彼と共に動くことで、彼らの計画を暴くチャンスが広がるかもしれない。玲奈は、葵に接触し、二人で会うことを取り決めた。


玲奈と葵は、夜の東京の片隅にある静かなカフェで落ち合った。店内は薄暗く、他の客はほとんどいない。玲奈は、葵の表情をじっと観察した。彼は冷静に見えるが、その瞳の奥には何か複雑な感情が潜んでいるように感じられた。玲奈は、彼が本当に信頼できるのかを見極めようと、言葉を選びながら話を切り出した。


「白石さん、あなたが最近感じていることについて話を聞かせて欲しい。別班の中で、何かおかしいと感じていることがあるのでは?」


玲奈の言葉に、葵は一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐにそれを抑えて静かに頷いた。


「田島さん、正直に言うと、私も感じているんだ。別班の中で何かが変わってしまった。いや、変わっているのかもしれない。かつては国家のために全力を尽くしてきたはずが、今ではそれが何か別の目的のために動いているように感じる。」


玲奈はその言葉を聞いて、少しだけ安心した。彼もまた、同じ疑念を抱いているのだ。しかし、それが本当に信じていいのかという疑問は残っていた。玲奈はもう少し深く探りを入れることにした。


「実は、私も同じことを感じているんです。最近、ある情報を手に入れました。それによると、別班の上層部が『影のプロジェクト』という計画を進めていて、その目的は国家を裏で支配することにあるそうです。あなたはそれについて何か知っていることはありますか?」


玲奈の問いに、葵は一瞬目を伏せたが、やがてゆっくりと顔を上げて答えた。


「『影のプロジェクト』……その名前は聞いたことがある。しかし、具体的な内容については知らなかった。だが、それが本当だとしたら、我々はすでに深刻な危機に瀕していることになる。」


玲奈は葵の言葉を信じていいのかどうかを迷っていたが、今は彼に賭けるしかなかった。二人で協力し、別班の闇を暴くための手段を見つけ出さなければならない。玲奈は、葵の瞳を見つめながら、慎重に次の一手を打つ決意を固めた。


「白石さん、私はこれから別班の内部に潜入し、さらに詳細な情報を掴むつもりです。しかし、一人では限界があります。あなたに協力してもらいたいのです。」


葵は一瞬考え込んだが、やがて力強く頷いた。


「わかった。君を信じよう。共にこの闇を暴こう。」


玲奈はその言葉に胸を打たれた。彼が信頼できる味方であることを願いつつ、二人は協力して次の作戦を練り始めた。彼らの目標は、別班上層部が計画している次回の秘密会議に潜入し、その内容を明らかにすることだった。玲奈が持つ山崎からの証拠と、葵の内部情報を組み合わせれば、成功する可能性が高まるはずだった。


しかし、計画を進める中で、玲奈はふとした瞬間に不安を感じた。葵が見せた微かな表情の変化や、言葉の端々に感じられるわずかな違和感——それは、彼を完全に信じていいのかという疑念を生じさせた。玲奈はその不安を押し殺しながらも、彼を注意深く観察することを決意した。


数日後、玲奈と葵は別班の内部に潜入する準備を整えた。彼らは夜の闇に紛れて、秘密会議が行われるビルに向かい、無音で建物内に侵入した。ビルの中は静寂に包まれ、二人の足音だけが微かに響いていた。玲奈は緊張しながらも、確実に進んでいった。


会議室に到着した二人は、ドアの前で耳を澄ませた。中からは低い声で何かが話し合われているのが聞こえる。その内容を確かめるため、玲奈は慎重にドアに取り付けた小型カメラを操作し、内部の映像を確認しようとした。


しかし、その瞬間、何かが玲奈の背後で動いた。彼女が反射的に振り返ると、そこには葵が立っていた。彼の手には、銃が握られていた。玲奈は一瞬で状況を理解したが、反応する間もなく葵が銃を構えた。


「残念だが、ここまでだ、玲奈。」


葵の声は冷たく、まるで別人のようだった。その言葉には、これまで見せていた親しみやすさは微塵も感じられなかった。玲奈は息を呑み、全身が凍りつくような感覚に襲われた。


「あなた……裏切ったのね。」


玲奈はその言葉を絞り出すように口にした。葵は冷ややかに微笑み、その銃を玲奈の頭に向けた。


「私は最初から上層部の命令で動いていた。君の行動はすべて監視されていたんだよ。」


玲奈はその言葉に愕然とした。彼を信じた自分が、今まさに命を落とす寸前にいることを悟った。だが、彼女はこのまま終わるつもりはなかった。玲奈は瞬時に動き、葵の銃を払いのけようとしたが、彼の反応は一瞬早かった。


銃声が響き、玲奈は床に倒れ込んだ。視界がぼやける中、彼女は必死に意識を保とうとしたが、その力は次第に薄れていった。葵が近づいてきて、冷たく玲奈を見下ろす。


「すべては、影のためだ。」


その言葉を最後に、玲奈の意識は闇に飲み込まれた。彼女の戦いは終わったのか、それとも新たな試練が始まるのか——玲奈は暗闇の中で、その答えを見つけることができなかった。

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