第7話 秘密会議

玲奈が山崎徹から手渡された証拠を抱え、自宅に戻ってから数日が経過した。その間、彼女の頭の中は絶えず混乱していた。山崎から聞かされた別班の真実、それはあまりにも衝撃的で、玲奈の信じてきた全てを根底から揺るがすものだった。別班は国家を守るための組織ではなく、国家を操るための影の機関として存在していたのだ。


玲奈はその事実を受け入れつつも、どうすべきか決めかねていた。彼女は山崎から渡された証拠を元に、別班の内部をさらに調査しようと決意する。彼女が見つけた証拠は、別班上層部が極秘裏に計画している「影のプロジェクト」に関するものであり、その内容は国家の根幹を揺るがすほどの重大なものだった。


その日の朝、玲奈は別班のオフィスに向かっていた。彼女の表情には、かつての冷静さと決意が戻っていたが、その目の奥にはまだ消えない迷いが潜んでいた。オフィスに到着すると、玲奈は内部に潜む裏切り者たちの動向を探るため、何食わぬ顔で日常業務に取り組んだ。


昼休みの時間、玲奈はひそかにオフィス内の監視システムにアクセスした。彼女は別班の上層部が秘密裏に開催している会議の記録を探り出そうとしていた。山崎から得た情報によれば、上層部は定期的に秘密会議を開き、そこで「影のプロジェクト」に関する重要な決定が行われているという。


玲奈は慎重に操作を続け、ようやく会議の記録ファイルに辿り着いた。それは最新のものではなく、数週間前に行われた会議の映像記録だった。彼女は周囲に気づかれないように音量を最小限にして再生ボタンを押した。


画面に映し出されたのは、無機質な会議室の風景だった。そこには、別班の上層部に属する者たちが一堂に会していた。中村陽介の姿もその中にあり、玲奈は彼の表情を凝視した。中村の顔には、普段オフィスで見せる穏やかな微笑みとは全く異なる、冷徹で感情のない表情が浮かんでいた。


「これより、『影のプロジェクト』に関する最終決定を下す。」


その声は別班の上司の一人である白石のものだった。彼は書類を見ながら淡々と話し続けた。


「現在、計画は最終段階に入っている。我々が計画しているターゲットは、間もなく完全に掌握される見込みだ。これにより、我々の影響力は国内外に及び、国家を意のままに操ることが可能になる。」


玲奈はその言葉を聞き、心臓が大きく跳ねた。影のプロジェクト——それは、別班が国家の中枢に入り込み、裏で操るための計画だった。彼らの目的は、国家の安全を守ることではなく、自らの力を拡大し、絶対的な支配力を手に入れることだったのだ。


「しかし、問題が一つある。」


中村が口を開いた。その声は冷静でありながらも、何か緊張感が感じられた。


「我々の動きに気づいた者がいる。田島玲奈というエージェントだ。彼女は山崎徹と接触し、我々の計画について疑念を抱き始めている。」


玲奈はその言葉を聞いて血の気が引いた。自分の動きが既に察知されていたのだ。彼らは玲奈が山崎と接触したこと、そして彼女が影のプロジェクトの存在に気づいたことを知っていた。


「彼女は危険だ。我々の計画を公にされる前に、彼女を排除しなければならない。」


白石が言い放ったその言葉には、容赦のない冷酷さが込められていた。玲奈はその場にいるかのような錯覚に陥り、背筋が凍る思いをした。彼女は、既にターゲットとして彼らのリストに載っているのだ。


「すでに準備は整っている。次の任務で彼女を消す。」


中村がその計画を決定した瞬間、玲奈は心の中で強烈な決意を固めた。彼らが何をしようとしているのか、そして自分が今、どれほど危険な状況に置かれているのかを理解した。彼女はこのままでは終わらない。彼らの計画を阻止し、真実を暴くために戦う覚悟を決めた。


玲奈はすぐに監視システムを閉じ、その場を離れた。彼女の心臓は激しく鼓動していたが、冷静さを保とうと必死に自分を抑えた。彼女にはまだ時間がある。彼らが動き出す前に、何としても別班の闇を明らかにしなければならない。


その夜、玲奈は一人で考え込んでいた。これからどう動くべきか、誰を信じ、誰に頼るべきか——その答えはまだ見つかっていなかった。しかし、彼女にはもう迷っている時間はなかった。次の一手を誤れば、彼女自身が影に消される運命を辿ることになる。


玲奈は、自宅の窓から見える東京の夜景を眺めながら、深い呼吸をした。彼女の頭の中には、これから起こりうる最悪のシナリオが次々と浮かんでいたが、それを払拭し、冷静に計画を立てることに集中した。彼女の中で、これまでとは違う強い意志が芽生えていた。


玲奈は山崎徹から受け取った証拠を再び手に取り、それを見つめた。その中には、別班が何をしようとしているのかを暴くための鍵が隠されている。そして、彼女はその鍵を使って彼らの計画を崩壊させることを誓った。


「彼らを止める。それが私の使命だ。」


玲奈はその言葉を口にしたとき、全ての迷いが消え去っていた。彼女の心は、次なる戦いに向けて完全に準備が整ったのだ。

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