第10話 影の逆襲

玲奈は暗い廊下を力なく歩いていた。体中の痛みが増す中で、彼女の意識は薄れかけていたが、それでも前に進むしかなかった。中村に裏切られ、山崎徹から受け取った唯一の証拠も奪われた今、玲奈の手には何も残されていない。しかし、彼女の心の奥底にはまだ小さな炎が燃え続けていた。それは、自分が信じていた正義、そして仲間たちのために戦い続けるという決意だった。


玲奈は薄暗い廊下の先に、一つの扉が見えてきた。彼女はその扉が開かれているのを確認し、慎重に中を覗いた。そこには無機質な会議室が広がり、中央のテーブルには一台のラップトップが置かれていた。玲奈はその光景を見て、何かが閃いた。


「これは……」


玲奈は力を振り絞って部屋に入ると、ラップトップの前に座り、画面を確認した。そこには別班内部の機密情報が全て保管されているデータベースへのアクセス権が表示されていた。おそらく、中村が急いでこの部屋を去る際に忘れたものだろう。玲奈はすぐにそのラップトップに手を伸ばし、操作を開始した。


彼女は中村が使っていたアクセスコードを使い、データベースにログインした。そこには、別班の「影のプロジェクト」に関するすべての情報が詰まっていた。玲奈は震える指でその情報を確認し、何が起ころうとしているのかを理解した。


「彼らは、国家を完全に掌握するつもりなのね……」


玲奈はその計画の壮大さと恐ろしさに息を呑んだ。別班は、影としての力を使って国家の全てを裏で操り、統制することを目論んでいた。彼らの計画が成功すれば、日本はもはや民主国家ではなく、全てが影の中で決められる暗黒の支配体制となる。


玲奈はその恐怖に打ちのめされそうになりながらも、自分が何をすべきかを悟った。彼女はこの情報を外部に流し、真実を暴露しなければならない。それが彼女の最後の使命であり、失われた仲間たちのために果たすべき責任だった。


玲奈はすぐに行動を開始した。彼女は手持ちのUSBメモリにすべてのデータをコピーし始めた。その間、廊下の奥から足音が聞こえてきた。中村たちが戻ってきたのだ。玲奈は焦りながらも、何とかデータのコピーを終えると、すぐにUSBメモリを引き抜き、それを自分の服の内側に隠した。


「ここにいたか、田島玲奈。」


中村の冷たい声が背後から響いた。玲奈は振り返り、彼が手にした銃口が自分に向けられているのを見た。中村の目は冷たく、そこにはかつての上司としての温かさは微塵も残っていなかった。


「君が最後まで抵抗するとは思っていなかった。しかし、それも無駄だ。君の持っている情報は、我々が消し去る。」


玲奈はその言葉に静かに微笑んだ。その微笑みには、絶望を超えた覚悟が込められていた。


「私が死んでも、この情報は消えない。真実は必ず外に漏れるわ。」


中村はその言葉に一瞬驚いたようだったが、すぐに冷笑を浮かべた。


「君がそれをどうやって実行するつもりだ?」


玲奈は一瞬だけ目を閉じ、深呼吸をした。そして、再び目を開けたとき、その瞳にはかつて見せたことのない冷酷な決意が宿っていた。


「影を倒すには、光を求めるしかない。」


玲奈は手にしていた小型の通信端末を操作し、あらかじめ設定しておいた送信ボタンを押した。その瞬間、ラップトップの画面に警告メッセージが表示され、全てのデータが自動的に外部のサーバーへ送信されるシステムが作動した。玲奈は自分の命を懸けて、真実を世界に暴露するための最後の一手を打ったのだ。


「もう遅いわ、中村さん。あなたの計画は終わりよ。」


中村の顔色が変わった。彼は急いでラップトップに駆け寄り、データの送信を止めようとしたが、既に手遅れだった。玲奈の操作によって、別班の全ての機密情報が外部に流出した。


「田島玲奈、貴様……!」


中村は怒りの声を上げ、銃を玲奈に向けた。だが、玲奈は恐れることなく彼を見つめ返した。彼女はもう、失うものは何もなかった。彼女の戦いは終わったのだ。これで、彼らの計画は崩壊する。


その瞬間、銃声が響いた。玲奈の体が激しく揺れ、床に崩れ落ちた。中村は静かに銃を下ろし、冷たい目で玲奈の死体を見下ろした。


「影は影として生きるしかない。君がそれを理解しなかったのが、君の過ちだ。」


中村はそう呟き、再びラップトップに目を向けた。だが、もう何もできることはなかった。玲奈の行動によって、別班の秘密は全て外部に漏れてしまったのだ。


玲奈の体から血が流れ出し、冷たい床を赤く染めていく。その中で、彼女の目はまだわずかに光を宿していた。彼女は自分の命を懸けて、真実を暴露することに成功したのだ。それが彼女の最後の勝利だった。


玲奈の意識が薄れていく中、彼女は微かな微笑みを浮かべた。彼女の戦いは終わった。だが、その戦いの結果がもたらす影響は、まだこれからだった。別班の闇が暴かれた今、国家全体が揺れ動くことになるだろう。

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