第2章 スタープロジェクト編〈中の章〉
第43話 あの日
軽音楽部の過去を話し終えた翌日、あの場にいた六人は文化祭で演奏するための曲作りのため、部室へと集まっていた。
「懐かしいー」
「そうだよねん」
「そうじゃん!」
当時のメンバーの
結成した時の気持ち。
一緒に培ってきた時間。
一年間止まってしまったが、積み重ねてきたものは無駄ではなかった。今、この瞬間にまたあの時間は動き出したのだから。
「くしゅん!」
思い出に浸っていると、隣で
「誰か俺の噂でもしてるのか?」
「そんな迷信信じてるの? ちょっと可愛い」
「信じてねぇよ! それ、やめてくれ!」
「そういえば、児童養護施設でお泊まりしたの覚えてるん?」
「覚えてるよ! あの時は楽しかったよね」
「楽しかったじゃん!」
児童養護施設でのお泊まり。
あの時、夜遅くまで起きており、
その後も、
「でも、いい思い出だよ」
「そうだね」
その後もファッションの話や最近ハマってることなどを話し、音楽の話も思い切りした。
「そうそう、あの歌の歌詞がいいんだよねー」
「あのさ……もし良かったら、去年作った曲の歌詞、変えない?」
「あの曲さ、私の色が強いから……みんなで一から作ってみたいんだ」
自分のエゴをぶつけた結果、軽音楽部は解散に陥った。
そのことをかなり後悔している。
もう同じ
「それいいじゃん!」
「むしろアタシたちの方からお願いしたくらいだしん」
「
「決まりだな」
本当の意味で絆の修復ができた三人を見て、
「あのー、あてぃしも参加してもいいですか……」
「もちろんだよ!
手を伸ばし、彼女を受け入れる。
「やっぱ
「はは……やっぱダメかー」
強い想いを持っている
そこを削り、受け入れやすいものにする。
「
「えっ! あてぃしですか……」
「そう、アナタに聞いてるの。ファンであるアナタからの視点が得られると思ってね」
「でも……」
「大丈夫だよ。私はどんなもので受け入れる。もし、改善した方が良くても、否定はしない」
こんな自分を受け入れてくれる。肯定してくれる。
それが
少しだけ過去のことを思い出す。全てを否定されていた時のことを。
胸が痛くなり、苦しかった。生きているのでさえ苦痛だった。何度、自ら命を断とうと思ったか。
そんな自分を思いとどめてくれた。
「ファンの目線としては、頑張れとか、できるとか言って欲しいわけじゃなくて……
ただ、自分を認めてもらいたいんです。だから……感謝の気持ちを歌った曲だったり、希望を与えてあげた方が届くと思います」
発言をし終わった柚葉は、目を瞑っていた。
「ありがとう!」
相手に感謝を、相手に希望を。それを忘れないようにして美月たちは作詞をしていった。
六人という力はとてつもないもので、二時間ほどで作詞の全体像は完成した。
「あとは
「
「任せるよん」
「
こんな自分でもまだ二人は信じてくれている。それが嬉しくて嬉しくて……絶対にこの詞はいいものにしようと意気込むのだった。
「今回はキーボードとギターメインでいきませんか?」
「
「あっ!
「詳細を教えて!」
「わかりました……そこまで言うのであれば……」
「スタープロジェクトは校内では知る人と知る大会です。だったら、これを機に宣伝をして学校自体を味方につけるのはいかかですか? そのためには、実際にスタープロジェクトに出るお二人のことを宣伝していこうと思いまして……」
皆の反応を伺う。だが、
「いいね!
「あっ、あぁ……」
「いいんですか? あてぃしなんかの意見を全部
「いいに決まってるよ! それに
優しいだけじゃなく、意見を言うときは言う。だが、否定はしない。
結果的に相手を不快にさせない。それが
「ありがとうございます」
無意識に出た感謝に
曲のコンセプトも決まった。あとは作曲をしていくだけだが……
「文化祭まであと一週間か……」
「そこがネックなんだよね」
「大丈夫! 私が絶対に間に合わせるから。それに、曲のベースはできてる。あとは微調整するだけだし」
「
「うん!」
「そろそろ時間かー」
「そうだね。解散しようか」
十八時。完全下校時間になり、六人は校舎を出ようとする。だが、
「このあと、一緒に作曲しなよ」
「な、何言って……」
「好きなんでしょ」
「そうだけど……」
「なら、
二人だけ知っている
「わかったよ」
男としての決断をする
「
その言葉を受けて、
「どうしたの?」
「なんでもない、なんでもない」
二人を見て割り込んできた
突然の
校舎を出て六人は解散する。
だが、二人の関係は進展することはなかった。
*****
文化祭当日。
ステージ裏に待機していた
「嘘でしょ……」
「本当だよ。今日、連絡があって……ステージに立てなくなったって」
体温が三十八度を超え、立ち上がることさえままならない状態らしい。
「どうするの?」
今回の演奏はギターのソロパートがある。しかも、そこがこの曲の一番の見せ所。
そんな時、
「私がギターを演奏する」
「それも無理だよん」
「無理じゃん!」
なぜなら、この曲はキーボードが主体の曲として作ってある。
キーボードなしでは曲自体を壊すことになる。それに、この中でキーボードを弾けるのは美月以外にいない。
彼女がパート変更をするのは不可能だった。
「ならどうすれば……」
演奏まで一時間を切っている。
せっかく頑張ってきたのに……
夜遅くまで練習した。
曲だってみんなで作った。
せっかく、あの日の続きを紡げると思ったのに……
悔しくて涙が溢れそうになる。そんな時……
「あてぃしがステージに立ちます」
背後から聞き覚えのある穏やかな声が聞こえてきた。
振り向くと……そこにはメガネをかけた現生徒会長──
「
「あてぃし、ギターできるんです。
「
精一杯の誠意を込め、頭を下げる。
緊急の提案だったが、彼女の姿を見て
彼女へと近づいていき、「頭を上げて」と言葉にする。
指示に従い、頭を上げた
「ありがとう。私の方こそ、お願いします」
今度は
どこまでいってもこの人には勝てない。自分にとっての恩人。
「ありがとうございます!」
彼女の目には決意が宿っていた。
そう、あの日、
次の更新予定
2024年12月18日 19:00 毎日 19:00
BIGBANG〜伝説までの道〜 新田光 @dopM390uy
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