第42話 それぞれの道
『今まで楽しかった。ありがとう』
この言葉を見て、
私も楽しかったよ。
一緒に紡いだ思い出を消したくない。
そんな感情が表に溢れ出てきてしまい、
だが、切ない気持ちをグッと堪えた
もう一度二人に会いたい。話し合いをすれば、もしかしたら……
淡い希望を抱きながら彼女は走る。
校庭に出て、今もこの学校にいるはずの双子の姉妹を探していく。そんな時……
「大丈夫ですか?」
差し伸べられた手をありがたく取らせてもらい、立ち上がる。
制服についた汚れなどを手で払いのけ、手助けしてくれた人の方を見る。
「
眼前には生徒会長──
優しくて、なぜか軽音楽部を陰ながら助けてくれた人。
見慣れた顔だったが、ひとつだけ違ったところがある。いつもはポニーテールだが、今日は髪の毛を三つ編みにしていた。
そんな彼女を見て、
「軽音楽部のことは残念でしたね。
他人から見ても取り繕った顔だとわかった。自分のことのように辛そうな表情を浮かべる。
「
「それでも、
「そんなことない!」
「そんなことないよ……」
自分の無力さを悔いながら、小さく言葉にする。
そんな彼女に
「アナタは
「そんなこと……」
「ない。そう言いたいのですか?」
彼女の言葉に無言になる
「でも、
それだけ、ピアノのことは思い出したくなかった。そのために始めたバンドだったのに……
「でもね、
「
いつもと違う砕けた口調で笑顔を向けられ、なぜだか不思議な感じがした。だが、同時に懐かしい気分にも包まれた。
これが忘れていた記憶の一部なのかもしれない。そう思うと、
「あの二人を探しているのですよね」
「うん、
「それはやめた方がいいと思いますよ。それに、今日は学校に来ていませんから、どのみちお話は無理です」
「そう……」
暗い表情へとまた戻る
「まだスタープロジェクトは諦めていないんですよね?」
話を脱線させ、彼女へと問いかける。
彼女の返答に
「ならいいです。
「どういう……」
そう言って、
「
「それって……」
最後まで詳細は語らず、
*****
渋谷の夜。
休日も合間って喧騒で賑わい、活気あふれる場所へと変貌していた。
「
「大事な話があるからだよ」
「大事な話?」
「うん、アタシたちね……軽音楽部を退部してきた」
「どうして! お前らまで私の責任は負わなくていいのに……」
席を立ち上がり、大声を出す。
「あまり大きな声出さないで」
「悪い……」
ファストフード店(ハンバーガーチェーン)で話し合いをしている四人。
落ち着きを取り戻した
「ウチがやめた理由は知ってるだろ?」
「うん、あの男の子供を妊娠したからでしょ?」
「あぁ、迷惑かけられない。だから、学校を退学した。ウチがアイツらと
「
三人は彼女の置かれている境遇に心を痛めた。
「心配すんなよ。大丈夫だって。大丈夫……」
『そんなことない』と言いたかったが、彼女は必死に
「でもな、ウチが軽音楽部をやめた理由はもうひとつあるんだ」
「うん、わかってる。アタシと
「そうか……」
「
「うん。アタシと
「だから、ボクたちは
夏祭りでの失敗は彼女たちの心の奥底にトラウマを植え付けてしまっていた。
あれがなければ、
だが、夏祭りの悲劇は起こってしまった。まるで、運命のイタズラかのように。
「これから
「アイツとの縁を切る方法を探してみる。それまで、お前らの前には現れない。この子も……」
「産むつもり?」
無言で頷く。
「だから、これでお別れだ。お前らとの半年間、本当に楽しかったよ。アイツに
唇を
「ありがとう」
その日をきっかけに
*****
「よし!」
なれない動作を懸命に覚えながら、編集した動画をアップしていく。
内容はピアノの弾き語り。
初めての投稿で、評価がつくか心配していたが、
たったの一週間でフォロワーが千人を超えた。
「これならいけるかも!」
バンドメンバー募集の掲示板も作った。だが、一緒にバンドをやってくれる人はいなかった。
それどころか『可愛い女の子なら一緒にやってあげてもいいけど。まぁ、アニメに感化されたオタクだと思うけど』など、誹謗中傷のメッセージが書かれた。
初めてのネットの冷たい言葉。
「これくらいで根を上げていられないよね」
気合を入れて諦めないで行動していく。何日も。何日も。そんな時、『いつも楽しませていただいています! バンド設立応援しています!』というメッセージが来た。
インドア・ホワイトというアカウントだった。
誹謗中傷の中に紛れていた温かい言葉。それに
「じゃあ、一緒にやろうよ!」
『そんな、畏れ多いですよ……』
「そう? 気が向いたら連絡してね!」
『はい……』
二人は何気ない会話などもして交流したりしていた。そう、一年後リアルで出会うとはまだこの時は想像もせず……
*****
「これが
全てを話し終わった
それを聞いていた
「私、その話知らない」
一番驚いていたのは
「
自分だけ
「でも、
「そんなことはわかってる……」
違和感は感じていた。
だが、人には誰もが裏の顔がある。
一概に嘘だとは言い切れなかった。ましてや、
「
信じてあげられなくて。
辛かったのに、最後まで気を遣わせてしまった。
それが
「でも、あてぃし思うんです。
「どうかしましたか?」
「いや……何でもない。なんでも……」
少し遅れて反応した彼に、全員が首を傾げる。そして、
「
「いや、なんでも……って言いたいが、隠し通せねぇよな。言うよ」
「一年前まであの男たちと
「信じるよ」
「
「だって、
「アタシも」
「ボクも!」
「確かに、あの時はいなかったし、あの男も来ないって言ってたから、大丈夫なんでしょうけど……」
だが、縁が切れていないのであれば、
それが
「まぁ、いない奴のことを考えても意味ないし、今は文化祭のことに集中しないか?」
「そうですね。まずは目の前の文化祭です」
「去年のリベンジするよん!」
「するじゃん!」
双子も立てなかったステージへのリベンジに燃える。
「じゃあさ、去年やるはずだった曲、一緒にやらない? 編曲したりしてアレンジはするから」
「いいねん。それ」
「いいじゃん!」
「じゃあ、決まりで!」
三人は一年前の続きのように盛り上がる。その姿を見て、
「なら、この部室を使いますか? 特別に貸出しますよ」
「本当に!」
「は、はい……」
一年越しの軽音楽部の復活。それはひとりの部員を欠き、文化祭までの期間限定のものであるが、それでも
「絶対成功させないとな」
「そうですね」
「よろしくな、インドア・ホワイトさん」
「その名前で呼ばないでください!」
去年叶えられなかった文化祭のステージで演奏するという夢を。あの時にやるはずだった歌で。
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