第41話 メンバー決裂
「はー、やることねぇー」
めんどくさそうにため息を吐いた
退学届を出した時は、とても緊張したが、いざ辞めてみると感情は軽くなるものだった。
「楽しかったなー、軽音楽部」
たったの半年間だったが、
入部する時はギャルっぽい見た目のせいで
この時から
そんな彼女にとって、
彼氏の
「もっと、みんなと音楽やってたかったなー。
夏祭りでみんなと一緒に遊んだ。その時に演奏もした。結果は失敗に終わってしまったが、それを次に活かし、児童養護施設では最高の演奏ができた。
たったの半年だったが、
最高だった時間を思い出し、
「こいつさえいなければ!」
腹部を襲う痛みに悶えたが、あの男に一矢報いたと錯覚することで、少しだけ開放感を得ることができた。
だが、現実は無常だった。
お腹の中にはあのクソ野郎の遺伝子が入った生命体がいる。これが原因で自分は退学に追い込まれたのだった。
変えられない現実を前に、
「おい、何やってんだよ」
悲しみと怒りに満ちていると、後ろから声が聞こえてきた。
振り返るとそこにはあの屈強な肉体を持った男がいた。
欲望のままに生き、殺人、
「離せよ!」
気持ち悪さが勝ち、無意識に抵抗していっていたが、
鋭い眼光に射抜かれた
「それでいいんだよ。お前は俺から離れられない。なんせ、お前の借金を立て替えてやったのは誰だ? 闇金から解放してやったのは誰だ?」
恩着せがましく、男は言う。そして、
「俺だろ? お前を自由の身にしてやったのは俺の愛なんだよ!」
「そんなことない! お前は、ウチを利用しただけだ! ウチを手に入れるためだけに……」
その言葉を聞いた途端、
顔を近づけてくる。
何にも言葉は発していない。それなのに、彼の持つ威圧感が獣のようで、
「その顔だよ! それが俺の本能を刺激する。最高だ!」
憎たらしい笑みを浮かべながら宣言する。
ただ単に
借金返済の恩を一生着せ、彼女のことを自分だけのものにする。それが、
「今日も朝まで楽しもうぜ」
彼女の手を無理やり取り、ホテル街の方へと連れていく。
彼女はその手を振り解くことができず、されるがままに彼に連れられるのだった。歯を食いしばりながら、感情を無理やり殺して。
*****
「
今、部活動が始まろうとしていた矢先、突然の声かけだった。
「どうしたの?」
いつもと違う表情をしている双子。それは彼女たちと向き合えばわかるほどの単純なものだった。
双子は黙り込む。
そこから沈黙が部室内に響いた。
この沈黙が
これからやっていけるのか……文化祭は成功できるのか……そう思っていると、
「私と
予想外の言葉が飛んできて、、
そんな彼女を放っておき、持ってきたていた退部届を
「わかった。受理します」
「なんで!」
「残るのも辞めるのも二人が決めることだよ。私たちが干渉していいことじゃない」
「でも……」
双子の寂しげな後ろ姿を見て、
ここで行かせたらダメだ。もう二度と会えなくなってしまう。全てが壊れてしまう。
そう思った途端、
双子の行動に
「スタープロジェクトが原因? だったら、私が悪かった。だからお願い……行かないで」
二人にはそうなってほしくない。悪いところがあったら反省する。だから……
「もうついていけなくなったの」
しかし、帰ってきたのは
彼女の言葉に
何か言い返さなければ……そう思っていたが、
「施設での演奏は楽しかったよ。でも、また夏祭りみたいな酷評がされるのが怖いの。ましてや、大会に出るならそれ相応の覚悟をしないといけいない」
唇を噛み締めながら、
「誰もが
本当に終わりだ。今まで紡いできた絆も、思い出も全てが終わってしまう。
「ねぇ! 待ってよ!
だが、肝心の
双子がいなくなった部室で
なんでこうなってしまったのか。
いつから違ったのか。
何がいけなかったのか。
そんな感情が胸の中で渦巻いていくが、徐々に感情は怒りへと変わっていく。
「なんで止めてくれなかったの」
「
「なんで止めてくれなかったの!」
目に涙を浮かべながら、
突然の行為に咲良は
座り込んでいる彼女の顔を見て、
「ごめん……」
咄嗟に口から言葉が出たが、
怒りに燃えた
「そんなんだから、
頭に血が上り、自分でも何を言っているのかわからなくなったが、
「
「
嘘で重ねた言葉。だが仕方がない。そうしなければ、頑固な
*****
あれから数週間が経ち、学園は文化祭当日を迎えていた。
校庭から校舎まで生徒の
そんな喧騒の中に
あれから
そんな感情を抱きながら、ひとりで
お化け屋敷にメイド喫茶など定番のものもあれば、ラボ体験に全国マニアッククイズなどの変わり種も存在した。
モヤモヤする気持ちを紛らわせるために、色々な場所を巡った。
最初はお化け屋敷で恐怖体験をする。
本家本元の知り合いがいる生徒が監修したらしく、かなり完成度の高いもので、かなり楽しめた。
次にメイド喫茶に行き、一目惚れした女の子にメイド喫茶お決まりの言葉を言ってもらった。
「萌え萌え、キュン……」
「可愛い!」
彼女は恥ずかしそうにやってくれたが、それがまた可愛く、メガネっ娘であるところもポイントが高かった。
から元気でコメントしていく。
メイド喫茶で食事などを楽しみ、別の所へと向かっていく。だが……
「演劇部か……」
講堂で行われる演劇のポスターを見つけ、暗い表情になる。
本来なら軽音楽部のみんなでこのステージに立つ予定だった。楽しい時間を共有するはずだった。
しかし、現実は変わってしまった。
それを思い出すと、
だが、足は講堂へと向かっていた。
脚本、構成などは演劇部が行なっている。故に、完成度はかなり高いと評判されているものだ。
ちょうど公演が始まる。
自分と同じ一年生なのに、素晴らしいクオリティに
魔法で犬に変えられたお姫様が、自分を飼ってくれた男の人に惹かれていく恋愛ものだった。
「凄い……」
演劇に夢中になっていると、
人々は劇に夢中になっている。その音は歓声にかき消されたが……肝心の
スマホを開くと、そこには仲違いした
『この間はごめん。私も言いすぎたよね。本当にごめんね。また
そのメッセージに無意識に涙が流れていた。
当たり前だ。彼女とは中学からの親友で、共に痛みや苦しみ、喜びや嬉しさを共有してきた。
「もちろんだよ」と返信をしていこうとした時、またも
『それと別件なんだけど、
しばらくしてメッセージが入る。そこには、端的にこう書かれていた。
『今まで楽しかった。ありがとう』
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