014 魂と肉体
「キャメル・レイノルズという役割……」
「そう。所詮10歳児の戯言だと思ってくれても結構ですが、私はそう思っています」
どう考えても10歳児の言うことではないが、キャメルは反論できない。それがすべてだろう。
と、話し込んでいれば、
「おお、待たせたな」
クール・レイノルズがやってきた。キャメルは彼を一瞥するが、やがて目をそらしてしまう。ルーシが語ったことをどう捉えたのかは分からないが、彼女なりに思うこともあるのだろう。
そんなクールの背後から、少女が現れた。おそらく、パーラという少女だ。
金髪のロングヘア、猫耳、赤い目、ルーシやキャメルよりやや高い身長。愛嬌たっぷりの表情。そんな子だ。
「キャメルちゃん!」
「あ、ええ。パーラ」
「キャメルちゃんがいるってクールさんが言うから、着いてきちゃった! せっかくデパートにいるんだから、アニメグッズ買いに行こうよ! ……あれ?」
パーラは、ルーシを眼中に捉える。
「そこの子、誰?」
ルーシは適当に返事する。
「ええ、ルーシ・レイノルズと申します」
「えーっ!? キャメルちゃんの妹?」
「いや、歳は6歳くらいしか変わらないですが、叔母と姪の関係です」
「ってことは、クールさんの娘さん?」
「そうですね」
16歳か17歳のガキ相手に、へりくだるのも一興なのかもしれない。ルーシは薄く邪気のない笑みを見せ、そしてパーラの目をしっかり見据える。
「んー、良く分かんね! でも、ふたつ言って良い?」
「なんですか?」
「敬語使わないでよ! 私、誰かから敬語使われるの、苦手だし! あと、ルーちゃんって呼んで良い?」
「ああ、うん。良いよ」ぶっきらぼうだ。
「じゃあ、ルーちゃん! さっきメントちゃんって友だちからさ、銀髪の幼女にぶっ飛ばされたって訊いたんだけど、それってルーちゃんがやったの?」
「まあ、正当防衛ってヤツだよ」
「だったら良いや! メントちゃんも短気だからさ~。すぐヒトに喧嘩売るんだよね~。いつか痛い目見る、というか、いつも痛い目見てるのに、学習しないんだから!」
(友だちなんだよな? なんでそんなフランクにけなせるんだ?)
「どうしたの~?」
「いや、友だちは大事にしたほうが──」
「大事にしてるよ~。メントちゃん、私がいなきゃ駄目なんだから! ところでさ、ルーちゃん」
「なに?」
「せっかく可愛いんだから、もっと派手な服着てみたら? なんなら私といっしょに服買おうよ!」
会話が苦手なのだな、とルーシは心の中で毒づく。まあ、きょうデパートに来たのは服を買うためだし、パーラの私服は高校生相応のおしゃれさを持っている。ここは彼女に着いていくのが賢明かもしれない。
「そうしようか。ああ、お父さん。この学生服で良いや。ここの部分が焼かれちゃっているからさ」
「あたぼうだ。元の服に着替え直しな」
「うん、ありがとう」
そんなわけで、ルーシとパーラ、ついでにキャメルとともに洋服を買いに行く。
(女物の服なんて良く分からねェからな……。コイツらの意見を参考にしつつ、露出が少なくて機能性の高いものを買うか)
なにせ、元は男性だ。女性用の服や、ブラジャーやらその他諸々なんて知ったことではない。しかしそれを悟られても、良いことはない。ルーシの演技力が光る場面がやってきた。
「ルーちゃんさ、どんな服が良いとか決まってるの?」
パーラがそんな質問をしてきた。ルーシは頭をかしげ、考えるふりをする。
「まだ決まっていないな。父からクレジットカードは借りたし、買い物はできるけど」
「じゃあ、私がコーディネートするよ!」
「なら、私もしてみようかしら」
キャメルが割り込んできた。彼女流の子どもっぽい服を買うつもりはないが、まあ参考にするのも悪くないだろう。
と、ここでルーシはふと思う。
(子どもっぽい服? 25歳の野郎が、幼女の皮被っているだけなんだぞ? 別に、服なんてなんでも良いじゃないかよ)
やはり葛藤がある。それを解消できるかは分からないが、ルーシはふたりへ訊いてみる。
「ねえ、お二方」
「な~に?」
「なにかしら?」
「仮に、肉体と魂が一致しない場合、どうなると思う? 肉体に魂が追いつくのか、それとも肉体は魂の器にしか過ぎないのか」
明らかに10歳の幼女が尋ねることではないが、同時にただの10歳児だと感じられても困るので、ルーシはそんな質問をしてみた。
キャメルとパーラは明らかに悩んでいる様子だった。突然、こんな質問されて悩まないほうがどうかしている。
そんな中、先に返事したのは、キャメルだった。
「そうね……。私の意見だけど、魂と肉体は別物だと思うわ。いくら肉体が入れ替わっても、魂は朽ちない。それに、魂と魔力を混ぜて起こす魔術もあるもの」
「なるほど。キャメルお姉ちゃんらしい意見だと思います。パーラはどう思う?」
「んー」
「別に直感で良いよ。あとから意見変えても良いし」
「んじゃあ、私はキャメルちゃんの逆! 確かに魂と魔力を混ぜる術式もあるらしいけど、それと肉体は関係ないっしょ! だってさ、毎日魂とは違う身体を見るわけじゃん? そしたらさ、いつか身体が魂と同化すると思う!」
意見が見事に割れた。突発的に尋ねたので、ここまできれいな答えが返ってくるとは思ってもなかったが、どうやらこのふたり、なかなか頭がよろしいようだ。
「じゃあさ、ルーちゃんはどっちだと思う?」
「私?」
「言い出しっぺが、なにも考えてないことないでしょ!」
パーラはあいも変わらず、満面の笑みでそう訊いてくる。
「そうだな……。今のところ、いつしか魂と肉体は同化すると思っているかね」
「私といっしょじゃん! いえーい!」
ハイタッチを求められたので、とりあえず返してみる。
そんな話をしているうちに、服屋の前へ着いた。
そして、ルーシとキャメルは咄嗟に身構えた。彼女たちはパーラへ、「下がっていて」とだけ伝える。
「え、なんで?」
「店内、良く見てみろ。店中のヒトが伏せている」
強盗事件である。
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