018 夢詰め込める
「知らないほうが夢詰め込めるだろ?」
そうやって、いつもどおりうそぶく。そんな幼女の態度に、メリットは鼻で笑う。
「まあ、10歳のクソガキだもんね」
「そうさ。クソガキだから、なにも知らないだけだよ」
タバコを吸い終え、ルーシたちは再び校舎のほうへ向かっていく。
それにしても、ひどい学校だ。羽交い締めにされている男子生徒に、魔術の実験台のごとくなにかをくらわされている者。本当に学校なのかよ、と言いたくなるくらいに。
「なあ、メリット」
「なに?」
「ずいぶん治安の悪い学校だな。普通、こんなものなのか?」
「普通、こんな白昼堂々暴行なんて起きない」
「だろうな」
変な学校へ入ってしまったのは間違いない。まあ、ルーシの目的は反社会的勢力とのつながりを持つ生徒を潰すことと、そのビジネスを奪うことだ。別に人助けするわけでもないので、気にしなければ良いだけの話である。
「おっ」
「ルーちゃん!」
金髪で赤目、猫耳を頭から生やす獣娘がやってきた。パーラだ。傍らには、いつだかデコピンをくらわせた少女メントがいる。
「ちッ……」
メリットが露骨に舌打ちした頃、メントもまた呼応するように、
「ヒトの面見て舌打ちするなよ! 別に、喧嘩ふっかけようってわけじゃないんだし!」
「そうだよ、メリットちゃん! メントちゃん、ルーちゃんに一発KOくらってから、ちょっと大人になったんだから!」
「おま、それは言うなよ! 恥ずかしいだろ!!」
無邪気な笑顔のパーラと、顔を真っ赤にするメント。なかなか仲がよろしいようだ。正直、友だちになる理由が分からないが、これもまた青春というものなのだろう。たぶん。
「なんで微笑んでるんだよ、ルーシ」
「いや、友情の素晴らしさを再認識してね」
「はあ?」
「別に深い理由はないさ。さて、皆さん。問題です」
「なんだよ?」「なーに?」「なに?」
「私はこれからどこに向かえば良いんでしょうか」
そんなことすら知らずに、この学園へ来たのだから、これには3人も口を開けるしかない。
そして、メリットが面倒くさそうに言う。
「アンタ、どうせ高等部編入でしょ? だったらまず、取りたい単位決めるために職員室でも行けば?」
「なにがおすすめ? メリット」
「さあ」ぶっきらぼうだ。
「愛想がないな。なら、パーラと同じ授業取るよ」
「えっ、マジで?」
「いけないか?」
「まあ、ルーちゃんは10歳児だから、私レベルの授業で良いんだろうけど……」
「良いんだろうけど?」
「ランクAってテストで高得点取らないとなれないんだよ? どういうルートでこの学校入ったの?」
さすが学校。魔術の腕だけでなく、勉学の才能も問われるらしい。ただ、ここで1億メニーもらって入りましたと答えるほど、ルーシも素直ではない。
「まあ、良いだろ。そういうのは」
「答えになってないからね?」
珍しく怪訝そうな顔になるパーラ。いや、まだ出会ってから数日と経っていないが、この生娘には似合わない表情なのは間違いない。
「答えは自分の中にあるのさ。さて、職員室へさまようか」
「さまよう前提なのかよ」メントがツッコむ。
「なら、誰か案内してくれよ。この学校広すぎるし、職員室の場所なんて分からんよ」
「じゃあ、私が案内するね!!」
パーラがそう反応した。良い子なのは間違いなさそうだ。
とか思っていると、パーラはルーシの手を引っ張っていく。特段抵抗する理由もないので、ルーシは引っ張られるがまま、どこかへ向かっていくのだった。
(にしても、だ。平和の〝へ〟の字もねェ学校だな)
いざとなればパーラを守ることくらい容易いが、同時にそれはルーシやメント、キャメルに安全保障を一任してしまうという怖さにもつながる。とてもではないが、ルーシにはそんな状況耐えられない。
幼きマフィアの頭領(ボス)は、きょうも銀の髪をなびかせ学校へ行く 東山統星 @SBR_JAPAN
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