第3話 ロビン、買い物に行く。
天ぷらも揚げ上がり、おそばも冷たくして、ザルにあげます。
お皿に盛った天ぷらとテーブルに並べて、お昼ご飯の出来上がりです。
「うわぁ、おいしそう」
つばさくんもみずほちゃんも、前のめりになって、目をキラキラさせています。
「それじゃ、いただきましょう」
「いただきます」
私たちは、三人で手を合わせて箸を取りました。
天つゆとそばつゆは、別に作ったので、それぞれ付けながら食べます。
「おいしい!」
「天ぷらもサクサクしてるわね」
二人は、箸が止まらない様子で、モリモリ食べてくれました。
私は、そんな二人の食べっぷりにうれしくなりました。
「ただいま」
そこに、さくらさんが帰ってきました。
「あら、お昼ご飯?」
「ハイ、さくらさんもいかがですか?」
「そうね。いただこうかしら」
さくらさんは、テーブルに並んだ天ぷらとおそばを見て、自分も席に座りました。
「どうぞ」
私は、さくらさんの前に、天つゆとそばつゆが入った器を置きます。
「これ、ロビンさんが作ったの?」
「ハイ、ちゃんと買い物に行ってないので、あり合わせですけど」
「十分よ。いただきます」
そう言うと、さくらさんは、そばを啜って、天ぷらを食べてくれました。
「あら、おいしいじゃない」
「ありがとうございます。たくさん食べてください」
こうして、四人でお昼ご飯を食べました。みんな喜んで食べてくれました。
「天ぷらなんて、久しぶりよね」
「うん、それも、揚げたてだもん。おいしいよ」
みんなニコニコしながら食べてくれます。こんな時に、家政婦としての喜びを感じます。
「ただいま」
玄関からこだまくんの声が聞こえました。私は、思わず立ち上がって、こだまくんを迎えます。
「お帰りなさい。お昼ご飯を作ったのよ。いっしょに食べませんか?」
そう言っても、こだまくんは、テーブルを一瞥しただけで、席に座ろうとしません。
「おいしいですよ。たくさんあるので、召し上がってください」
「いらないよ。ロボットが作った飯なんて、食えるか」
こだまくんは、そう言うと、背中を向けて二階に上がろうとします。
「朝ご飯を食べてないから、お腹が空いてるんじゃないですか?」
「うるせぇな。放っておけよ」
こだまくんは、怒鳴るように言うと、足早に階段を上がって行きました。
私は、うれしかった気持ちが、萎んでくるようで、悲しくなりました。
「待ちな。こだま、こっちに来て、いっしょに食べな」
さくらさんが厳しい口調で言いました。つばさくん、みずほちゃんもビックリして箸が止まりました。
「こだま、いい加減にしなさい。これから、ウチは、ロビンさんがご飯を作るんだよ。ずっと、食べないつもり? 食べないなら、アンタは、このウチから出て行きな」
さくらさんが怒ったように言うので、こだまくんも足が止まりました。
「あの、さくらさん・・・」
「いいのよ。あーやって、いつまでも意地を張ってる方が悪いの。ほら、こだま、こっちに来て食べな」
さくらさんは、そう言うと、お蕎麦を啜ります。
「こだまちゃん、おいしいよ」
「お兄ちゃん、天ぷらも揚げたてだよ」
みずほちゃんとつばさくんもそう言って、天ぷらを食べます。
私は、そんな三人の言葉に胸が一杯になって、涙が出そうになりました。
「わかったよ」
こだまくんは、そう言うと、イヤイヤながらも席についてくれました。
私は、すぐにこだまくんの分の天つゆとそばつゆを置きました。
「たくさん作ったので、いっぱい食べてくださいね」
こだまくんは、私を無視して箸を取ると、おそばを一口食べました。
そして、天ぷらにも手を伸ばして一口頬張ります。
「んっ・・・」
こだまくんが小さな声が聞こえました。
「お口に合いましたか?」
「ロボットにしては、いいんじゃないの」
「こら、こだま。ロビンさんに失礼でしょ」
「ふん、機械を機械って言って、何が悪いんだよ」
口では、そう言いながらも、おそばを食べて、天ぷらも食べてくれました。
私は、それだけで満足でした。初めてこだまくんが私の料理を食べてくれたのです。
やっぱり、食べ盛りの男の子だけに、その食べっぷりは、お見事でした。
「こだまちゃん、食べ過ぎ」
みずほちゃんに注意される始末でした。
「お兄ちゃん、その天ぷら、ぼくの分だよ」
つばさくんにも注意されて、こだまくんの箸が止まりました。
「大丈夫ですよ。まだ、ありますから、たくさん食べてください」
私は、すっかり空っぽになったお皿に、天ぷらを盛り付けてテーブルに出します。
「ハイ、どうぞ。皆さん、たくさん食べてくれて、作り甲斐があります。今夜は、ちゃんと買い物に行ってくるので、おいしいものを作りますね」
私は、ホントにうれしくて、笑顔で言いました。
「ねぇ、ロビンお姉ちゃん、夜ご飯はなにを作るの?」
「そうねぇ・・・ つばさくんは、何が食べたいですか?」
「ぼく、ハンバーグがいい」
つばさくんは、元気よく言いました。
「あたしは、オムライスがいいわ」
みずほちゃんが続けて言いました。
「わかりました。ハンバーグとオムライスですね。さくらさんとこだまくんは、なにが食べたいですか?」
もちろん、私の電子頭脳には、それぞれの好みの食べ物はインプットされています。でも、それを私から作るのは、強制しているみたいなので言いません。
「別に、何でもいいよ」
こだまくんは、相変わらず素っ気ない態度です。
「さくらさんは、何が食べたいですか?」
「あたしは、どっちも好きだから、ロビンさんに任せるわ」
「ハイ、わかりました」
今夜は、張り切って作ろうと思いました。
結局、作り過ぎたかもと思ったそばも天ぷらも、きれいに食べてくれました。
みんなお腹一杯になったみたいで、私は、うれしくなりました。
そして、お皿など使った食器を洗っていると、みずほちゃんとつばさくんが私がしているのを後ろから眺めています。
「ロビンて、ホントに人間みたいね」
「ありがとうございます。そう言っていただけると、うれしいです」
「ダメだよ、みずほ、ロビンお姉ちゃんは、ロボットじゃないよ」
「そうだったわね。もう、言わないから」
つばさくんに言われて、みずほちゃんは素直にそう言いました。
そんな二人のやり取りを聞いて、心が温かくなりました。
良心回路がヒートアップしているだけなのに、なんとなく人間になったみたいで、うれしくなりました。
片付けを終えて、洗濯物を取り込もうとすると、さくらさんに呼び止められました。
「ロビンさん、これ、生活費に使って」
そう言って、貯金通帳とハンコを差し出しました。でも、私は、受け取りません。
「いいんですよ。皆さんの生活費は、お父さまからちゃんといただいていますから、安心してください。このお金は、皆さんのお金ですから、皆さんで使ってください」
「でも・・・」
「大丈夫ですよ。お父さまは、皆さんに寂しい思いをさせているので、せめて、お金だけは、苦労させないようにしているんです。だから、このお金は、勉強やクラブ活動に必要なことに使ってください。お友達とのおつきあいとか、遊びに行ったりするときに、必要になるでしょ」
「ありがとう、ロビンさん」
私は、さくらさんの気持ちが痛いほどわかりました。
人を思いやる気持ちが強いさくらさんは、心の優しい人です。
そんなさくらさんに、気を使わせないように気を付けないといけません。
私は、気を取り直して、洗濯物を取り込みます。
すると、後を追うようにして、みずほちゃんとつばさくんが付いてきました。
「ぼくもやる」
「あたしも」
「あらあら、ありがとう。それじゃ、これをお部屋に運んでください。いっしょに畳みましょうね」
「ハ~イ」
つばさくんの元気な返事がとても気持ちがいい。
何しろ、四人分の洗濯ものです。たくさんあって、とても私一人では、取り込めません。私は、物干しからシャツやタオルをみずほちゃんとつばさくんは、両手で抱えて
部屋の中に運んでくれました。室内干しにしてある、下着などもいっしょに取り込み三人で畳みました。
「みずほちゃん、シャツは、こうやって畳むんですよ」
私が見本を見せると、みずほちゃんは一生懸命真似をして畳んでくれました。
つばさくんは、タオルや靴下などを丁寧に畳んでくれます。
二人とも真剣にまじめに取り組んでくれていました。その様子を見て、私は、この子たちのことは、なにがあっても守ろうと固く誓いました。
「ねぇ、ロビンお姉ちゃん、このタオルって、新しいの?」
「違うわよ。今まで使ってたのを洗っただけですよ」
「でも、いつもと違うよ。フワフワでいいニオイがするもん」
「それはね、柔軟剤を使ったからよ。いいニオイがして、柔らかいでしょ」
つばさくんは、タオルを自分の頬に当てて、気持ちよさそうです。
「ホントだ。このシャツも、なんだかいつもより柔らかくていいニオイがする」
シャツをたたんでいるみずほちゃんも、シャツのニオイを嗅いでいます。
「洗濯機の奥の棚で見つけたから、使ってみたのよ」
「そうなんだ。お姉ちゃんもお兄ちゃんも、そんなの使ったことないよ」
だいたい想像できます。こだまくんもさくらさんも、汚れた服を洗うことだけで精一杯なのでしょう。
柔軟剤を使うことまで手が回らなかったのだと思います。
だからと言って、二人のしたことは、決して間違っているとは思いません。
毎日、学校と勉強と、家事で大変だったに違いありません。
これが、二人にできる、精一杯のことだったのです。
だから、これからは、私が家政婦として、家のことは心配かけないように頑張ろうと思いました。
たくさんあった服をきれいに畳むと、それぞれ仕分けします。
「これは、みずほちゃんの分よ。こっちは、つばさくんのね。自分でしまえますか?」
「それくらいできるわ。もう、子供じゃないもん」
みずほちゃんは、そう言って、自分の服を抱えて二階の部屋に走っていきます。
「待ってよ。ぼくも行くよ」
後を追うようにして、つばさくんも続きます。
一番多いのは、こだまくんの分なので、私は、さくらさんの服といっしょに抱えて
二階の部屋に上がりました。
「貸せよ。自分の服くらい、自分でやるよ」
その時、横からこだまくんが来て、自分の服を取り上げました。
「ありがとうございます」
「いちいち、礼なんて言うな、それが、このウチでは当たり前のことなんだ」
こだまくんはそう言って、階段を上がって行きました。
私は、さくらさんの服を持ったまま、こだまくんの後姿を見ていると、
リビングからさくらさんがやってきました。
「このウチでは、これがルールなのよ。自分のことは、自分でやる。あんな小さい子でも自分でできることは、自分たちでやるの。だって、ウチは、子供四人しかいないんだからさ」
そう言うと、さくらさんも自分の分を私から取り上げました。
「待ってください、さくらさん。今まではそうかもしれません。でも、今日からは、私がいるんです。私は、家政婦です。このウチのことは、私にやらせてください。皆さんの負担にならないように少しでも、勉強に集中できるようにがんばります。そのためにこのウチに来たんです。さくらさんもこだまくんも、これからは自分のことを優先してください。みずほちゃんやつばさくんのことなら、私がしっかりやります。だから、お二人は、もう、楽になってください」
さくらさんの言葉が私の胸に突き刺さりました。だから、自然と言葉が後から出てしまいました。
これまでのように、妹や弟たちのことばかりで、自分のことはいつも後回しにしてきました。
でも、これからは、自分のことを優先にしてほしい。さくらさんもこだまくんも、
長女で長男だから、自分のことよりも、下の子たちのことばかり世話をしてきました。だから、今日からは、少しでも肩の荷を下ろして、学校で勉強したり、クラブ活動をしたり友達と遊んだり、普通の高校生、中学生としての日常を送ってほしい。
それが、私の願いでした。
「ありがと。これからは、ロビンさんに頼むから、このウチのことは、好きなようにしていいからね」
「ハイ、お任せください」
私は、さくらさんの後姿に、深く頭を下げました。なぜか、目の奥が熱くなって涙が滲んできました。
ロボットなのに、泣くなんておかしいと自分でも思いながら、二人にも心配かけないようにしっかりしようと、心に刻みました。
夕方になって、そろそろ夕食の支度をしないといけません。
昼間は、冷蔵庫にあったもので作っただけなので、夕食は、ちゃんとしたのを作らないといけない。
まずは、お買い物に行って、食材を買ってこようと思います。
私は、エプロンを取って、後ろに束ねていた髪を解きました。
「よし、がんばろう」
私は、鏡を見て、自分に言い聞かせるように気合を入れました。
そして、買い物かごを持って、サンダルを履いて出かけます。
「あの、夕飯のお買い物に行ってきます」
「お願いします」
さくらさんがリビングから声をかけてきました。
すると、階段を駆け下りるようにして、みずほちゃんとつばさくんがやってきました。
「ロビンお姉ちゃん、どこに行くの?」
「夕飯のお買い物よ。今夜は、オムライスとハンバーグよ」
「だったら、ぼくも行く」
「あたしも」
二人は、私について買い物に行くつもりのようです。
「こら、ダメよ。ロビンさんの邪魔になるでしょ」
後ろからさくらさんの声が聞こえます。
「邪魔しないもん」
「なに言ってんの。いつも買い物に行くと、アレ買ってくれ、これ買ってくれって言うじゃない」
「言わないもん」
「ダメよ。どうせ、二人とも、お菓子が目当てでしょ」
さくらさんに言われて二人は、図星だったらしく、しゅんとしておとなしくなりました。
私は、そんな二人が少し可哀想になったので、屈んで二人と同じ目線の高さになって言いました。
「大丈夫よね。みずほちゃんもつばさくんもいい子だもんね。いっしょに行きましょう」
すると、二人の顔がパッと明るくなって、たまらなく可愛くて見えました。
「さくらさん、大丈夫ですよ」
「でも・・・」
「二人とも、いい子ですから、邪魔なんかではありませんよ」
「それじゃ、この子たちに、お菓子とか買わないでよ」
「ハイ、わかりました」
「ほら、ロビン、早く行くわよ」
みずほちゃんが、私の手を引いて玄関から出て行きます。
「すみません、行ってきます」
私は、みずほちゃんに手を引かれるように玄関から出ると、さくらさんに言いました。
「待ってよ、みずほ」
後から遅れてつばさくんが走ってきました。
「転ぶと危ないから、手を繋いでいきましょう」
「だったら、ぼくがカゴを持ってあげる」
右手は、みずほちゃんと手を繋いでいるので、左手ではカゴを持っています。
だから、つばさくんとは手を繋げません。なので、つばさくんは、私の左手からカゴを受け取ると、代わりに手を握ってきました。
私は、二人と手を繋いで商店街まで歩きます。
なんだか、二人と繋いだ手が暖かくて、心まで温かくなりました。
「ねぇ、ロビン、買い物ってどこに行くか、知ってるの?」
「商店街に行けば、いいんじゃないんですか?」
「ダメねぇ。しょうがないわ。あたしたちで教えてあげるわ」
「お願いします」
もちろん、私の電子頭脳には、近所の地図はすべてインプットされていて、何処で何が売っているかわかっています。でも、せっかく、みずほちゃんが教えてくれるなら、断るはずがありません。
私は、素直にみずほちゃんの言うことを聞くことにしました。
「ぼくも知ってるよ。お姉ちゃんに買い物を頼まれて、いつも行ってたもん」
「つばさくんは、一人でお買い物できるの?」
「できるよ。ぼく、男の子だもん。それくらい簡単だよ」
そう言って、ドヤ顔をして見上げるつばさくんの顔が、私には眩しすぎました。
「あたしだって、買い物くらい、一人でできるもん」
みずほちゃんも負けずに自慢するように言いました。
「二人とも、さくらさんやこだまくんのお手伝いをするなんて偉いわね」
「それくらい、簡単だもん。なぁ、みずほ」
「そうよ。それくらい、あたしたちにだって、出来るもん」
私は、両手に繋いでいる小さな手を優しく握り返しました。
小さくて温かくて、とても優しいその手を離してはいけないと思いました。
三人で仲良く手を繋いで歩いていると、商店街の入り口にやってきました。
アーケードがあるので、雨が降っても濡れることがありません。
左右に個人商店が軒を連ねている、とても長い商店街です。
歩いていると、両脇から威勢のいい掛け声が聞こえてきます。
こうしていると、私は、人間になったのではないかと錯覚しました。
「五十嵐先生の坊ちゃん、嬢ちゃん、いらっしゃい」
思わず振り向くと、八百屋さんのおじさんでした。
頭にねじり鉢巻きを付けて、頭がテカテカ光って、いかにも人のよさそうなおじさんでした。
「今日は、珍しい人といっしょだね。誰だい、この人は?」
私を見て、おじさんは不思議そうに尋ねてきました。
「初めまして、私は、先生のお家に家政婦としてきた、ロビンと申します。よろしくお願いします」
そう言って、丁寧にお辞儀をしました。
すると、おじさんは、私をビックリするような目で見ると、声を上げました。
「お、おい、母ちゃん、ちょっと来い」
「なんだよ、アンタ。おや、五十嵐先生のみずほちゃんとつばさくんかい」
「おい、ビックリするなよ。この人、先生のとこのお手伝いさんだってよ」
「なんだって!」
おじさんの奥さんらしい女性は、私を見るなり、腰を抜かしそうでした。
「ア、アンタ、ホントに、家政婦なのかい?」
「ハイ、今日から、お世話になります」
「まさか、アンタ、先生の奥さんになる人かい? 再婚でもしたのかい?」
「ハイ?」
「おい、バカなことを言うな。あの先生が、再婚なんかするわけないだろ。ねぇ」
「ハァ・・・」
八百屋の夫婦は、なにか勘違いをしているようでした。
「アンタ、いくつだい?」
「え~と、たぶん、二十歳くらいです」
「そんなに若いのかい・・・」
「そんな若くて、家政婦なんて勤まるかねぇ・・・」
二人は、額に皴を寄せながら不審そうな顔つきです。
だからと言って、私がロボットだということは、秘密なので言うわけにはいきません。
「一生懸命、がんばります」
「それならいいけどね」
「しかし、アンタ、美人だねぇ」
「ちょっと、アンタ、どこ見てんだい」
今度は、私を見て、感心しているおじさんでした。
横で、みずほちゃんとつばさくんが、おかしそうに笑っています。
「あの、レタスとトマト、それと、キュウリにタマネギをいただけますか?」
「ハイハイ、ただいま。安くしとくよ」
私は、八百屋さんでサラダ用の野菜を買って、つばさくんが持ってるカゴに入れます。
「しかし、あんな美人なお手伝いさんが来るなんて、信じられないな」
おじさんは、最後まで腕を組んで、頭を捻っていました。
「おもしろいおじさんでしょ」
みずほちゃんが言いました。
「そうですね。ゆかいな人ですね」
「いつも、あんな感じなのよ」
みずほちゃんが楽しそうに笑っているのを見て、この町が好きになりました。
次に行くのは、お肉屋さんです。
「ハイ、いらっしゃい。何を差し上げますか?」
「あの、ハンバーグ用のひき肉を・・・」
「なんだ、誰かと思ったら、五十嵐先生の、みずほちゃんとつばさくんじゃないか。
誰だい、このきれいな人は?」
カウンター越しに行ってきたのは、お肉屋さんの御主人で、頭がすっかり白くなったおじさんでした。
「初めまして、今日から、先生のご自宅で家政婦をすることになった、ロビンと申します。これからよろしくお願いいたします」
ここでも、私は、丁寧に挨拶しました。これから、毎日、お世話になるので、
きちんとしなくてはいけません。
「なんだって、家政婦だって? こりゃ、驚いた。こんな、美人で若い子が、家政婦さんかい」
おじさんは、関心しきりにそう言うと、私をじっくり見詰めます。
「こら、ちょっと、きれいなお客さんだからって、そんな目で見たら失礼だろ」
後ろから奥さんらしい人の声が聞こえました。
「あの、今日から、先生のところで・・・」
「聞こえてるよ。まぁ、しっかりやんな。あの子たちの面倒を見るのは大変だよ」
「ハイ、わかっています」
「ほら、アンタ、ひき肉って言ってんだろ。さっさと、持ってきな」
言われたおじさんは、ひき肉をパックに詰めて渡してくれました。
私は、代金を払うと、ニコニコしながら言いました。
「これは、サービスだから。また、よろしく頼むよ」
そう言って、揚げたてのコロッケをみずほちゃんとつばさくんに持たせてくれました。
「あの・・・」
「いいってことよ。気にすんな。ここの商店街は、先生のおかげで持ってるようなもんだからよ。これくらい、お安い御用だ」
「おじさん、ありがとう」
「いただきます」
みずほちゃんとつばさくんも、ちゃんとお礼を言うと、熱々のコロッケをおいしそうに食べました。
「すみません、ありがとうございます」
私たちは、手を振りながらお肉屋さんを後にします。
「つばさくん、カゴは重くない?」
「平気だよ、これくらい」
「やっぱり。つばさくんは、男の子ね。でも、重くなったら言ってね」
「大丈夫、大丈夫」
つばさくんは、笑って言いました。
その後も、ケチャップや卵を買うなど、材料を買いました。
私たちは、どこに行ってもビックリされたり、歓迎されたり、いろいろでした。
だけど、みんな、暖かくて、優しくしてくれて、この商店街が好きになりました。
これから、この町で暮らすという実感が、少しずつわかってきたような気がしました。
材料を買って、後は帰るだけというときに、たまたま通りかかったのが、最近では珍しい駄菓子屋さんでした。見ると、小さな子供たちが店内で賑やかにしていました。ふと見ると、みずほちゃんもつばさくんも、駄菓子屋さんに目が向いていました。自然と歩く速度も遅くなっています。
「みずほちゃん、つばさくん、寄り道しようか」
私は、二人に話しかけました。すると、二人は、私を見上げて首を捻っています。
「ちょっと、休んでいきましょう」
私は、店先にあるベンチに腰を下ろしました。
「みずほちゃん、つばさくん、おやつ食べようか」
何気なく言うと、二人は、目をキラキラさせて振り向きました。
「さくらさんには、ないしょよ」
「やったー!」
私は、人差し指を唇にあてて、ないしょにねというと、つばさくんが一目散に
駄菓子屋さんの中に入っていきました。
「いいの、ロビン」
「少しくらいならね」
そう言うと、みずほちゃんもニッコリ笑いました。
そして、二人は、駄菓子屋さんで、お菓子をいくつか手にしてやってきました。
「これ、いいかな?」
「いいわよ」
私は、そう言って、二人に小銭をいくつか渡しました。
急いで会計を済ませると、私の横に座ると、ミニチョコやクッキーを食べ始めます。
「これ、食べてみたかったんだ」
つばさくんは、そう言って、バット型のチョコをおいしそうに食べます。
みずほちゃんは、赤いゼリーのようなものをパクっと一口で食べました。
「あたし、これが好きなの。ロビンも食べてみたら」
「そうですね。それじゃ、私は、このりんご飴をいただきます」
私は、そう言って、小指くらいの小さなりんご飴を口に入れました。
ほんのり甘くて、リンゴの風味がしました。子供たちの味覚を知るには、駄菓子屋さんが一番です。
私の横に座りながら、おいしそうにお菓子を食べながら、少しの間いろいろお話ができました。
こだまくんのこと、さくらさんのこと、学校のことやお友達のことなど聞かせてもらって、私自身もとても勉強になりました。
「ロビンの行ってたロボット学校って、どんなとこなの?」
興味津々で、みずほちゃんが聞いてきました。
「みずほちゃんたちの学校と同じですよ。いろんなことをお勉強するんですよ」
「友だちとかいるの?」
「いますよ。今は、卒業して、人間たちのために頑張っているんですよ」
「ロビンの友だちロボットにも、会ってみたいな」
「そのウチ、会うときもありますよ」
そう言うと、つばさくんも話に加わってきます。
「ぼくも会ってみたいな。なんか、おもしろそうだよね」
「みんな楽しいお友達ですよ。きっと、つばさくんたちとも、仲良くできますよ」
私も、ロボット学校の仲間たちと久しぶりに会いたくなりました。
いっしょに勉強をしていた頃のことを思い出します。
きっと、みずほちゃんやつばさくんたちとも、仲良くなれるし、友だちにもなれるはずです。
その時、商店街のアーケードの中から、音楽が聞こえてきました。
「あっ、いけない。ロビン、つばさちゃん、帰らないとさくらちゃんに怒られるわよ」
「そうね。そろそろ帰って、夕飯を作らないとね」
そう言って、私は、立ち上がります。
「ロビンお姉ちゃん、お菓子のことは、お姉ちゃんにはないしょだよ」
「ハイ、わかってますよ」
つばさくんが心配そうに言うので、私は、笑って返しました。
そして、私たちは、来た時と同じ道を三人で手を繋いで帰りました。
帰ったら、今夜は、おいしい夕食を作らないと・・・
そう思うと、足取りも軽くなりました。
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