第6話 ロビン、ケガをする。

 私は、子供たちと帰宅すると、玄関先で帰ってきたさくらさんと会いました。

「あら、みんなお揃いで、どうしたの?」

「姉ちゃん、ロビンが・・・」

 さくらさんは、すぐに私の右手に巻いてあるハンカチに気が付きました。

「とにかく、中に入りましょう」

 こんな時でも、さくらさんは、落ち着いていました。

私に付き添うつばさくん。心配そうに私を見上げているみずほちゃん。

項垂れているこだまくん。そんな三人を見れば、何かあったのか、すぐにわかりました。私は、さくらさんに心配かけないように、努めて明るく振舞います。

中に入ると、私は、荷物をキッチンのテーブルに起きました。

「それで、なにがあったの?」

 さくらさんは、私たちの様子を見て、静かな口調で言いました。

「あのね、ロビンお姉ちゃんが、ケガしたの」

「ハァ? そんな大事なこと、なんで、すぐに言わないの。ちょっと、ロビンさん、腕を見せて」

 さくらさんが、ハンカチを巻いてある私の腕を取ります。

「大丈夫です」

「大丈夫じゃないでしょ。何かあったら、どうするの。手当てするから、手を出して」

「あの、私は、機械ですから、手当てとか必要ありません」

「それじゃ、どうするの?」

「自分で直します」

「自分で直すって・・・」

「私の体には、自動修復装置が付いているので、このくらいなら、明日には直りますから、どうぞ、ご心配なく」

 私は、心配かけないように、明るく言いました。

それでも、このままというわけにはいきません。皮膚が破けているので、そこだけは、直しておかないといけません。

「すみません、ちょっと、手当てしてきます。すぐ戻るので、心配しないでください」

 私は、それだけ言って、部屋に行きました。この家に来るときに持ってきた荷物の中には、万が一の時に備えて、簡単な修理道具を持参していました。

タンスの中から道具箱を取り出して中を開けると、簡易的な修理道具が入っています。

 まずは、腕に巻いてあるハンカチを解いて傷の具合を確認します。

見ると、長さ15センチくらい切れていました。もちろん、血は出ません。

腕に流れる血管代わりのオイルが流れているからです。運がよかったのは、オイルも漏れていなかったことです。

腕の内部も特に壊れている個所もなく、ホッとしました。

 私は、バンソーコーのような強化シールを腕の切れ目に貼って修理完了です。

指を動かしても特に支障もなく、痛みもありません。これで、もう、大丈夫。

明日になれば、自動的に皮膚も癒着して元に戻ります。

「すみませんでした」

 私は、明るい声でキッチンに戻りました。でも、なんだか、雰囲気が暗く、みんな下を向いていました。

「あの、皆さん・・・」

 私は、その場の空気を感じて、話しかけると、さくらさんが言いました。

「こだま、ちゃんと、ロビンさんに謝りなさい」

 さくらさんが厳しい声で、こだまくんを叱っていました。

「こだま、黙ってないで、何とか言いなさい」

 それでも、こだまくんは、下を向いて口を開こうとしません。

「あの、もう、大丈夫です。この通り、腕も直りましたから」

「ロビンさんは、黙ってて。いい、こだま。アンタ、いい加減にしなさいよ。確かに、アンタのしたことは正しい。だからと言って、ロビンさんにケガをさせて、それでもいいっていうの?」

「もういいです。こだまくんは、いいことをしたんです。もう、叱らないでください」

「この際だから、言っておくけど、こだまは、前からこんなことばかり繰り返してたの。相手がだれであろうと、正しいことは正しい。理屈は、確かに、こだまの言う通り。だけどね、世の中は、そんな理屈が通らない人もいるの。これまで、何度、学校や警察に呼び出されたかわかってるよね。つばさを助けようとしたアンタの気持ちはよくわかる。後から来た、あいつらのことを許せないという気持ちもわかる。だからと言って、ロビンさんがケガしてどうするの?」

 さくらさんは、本気で怒っていました。自分の正義のために、誰かが傷つくのが許せなかったのです。

「それと、ロビンさん。あなたも、自分のことを大事にして。私たちのために、自分を犠牲になんてしないで」

 さくらさんは、私の目を真っ直ぐ見て言いました。

「でも、私は、皆さんを守るために作られたロボットです。もしも、皆さんの身に何かあったら、私は、自分の命を捨ててでも、皆さんをお守りしなくてはなりません。それが、私の役目なのです」

 私は、家政婦ロボット。この子たちのお世話をするために作られたロボットなのです。もしも、この子たちの身に危険が及んだその時は、命に代えても守らなくてはなりません。それが、私に課せられた役目なのです。

それは、博士にも、ロボット学校の先生にも、教え込まれてきました。

それが、私たちロボットの運命であり、役目だからなのです。

「なに言ってんのよ!」

「みずほちゃん・・・」

 いきなり、みずほちゃんが大きな声を上げました。

「アンタ、自分のことを、ロボットなんて言うけど、あたしは、アンタのこと、ロボットなんて、思ったことないんだから」

「ぼくも思ってないよ。ロビンお姉ちゃんは、ぼくのお姉ちゃんだもん」

 そう言って、私に抱き付いてくるつばさくんの目が、少し潤んでいました。

「わかったでしょ。誰も、ロビンさんのことをロボットなんて思ってないのよ」

「・・・・・・」

 私は、さくらさんたちの言葉に、何も言い返すことができませんでした。

すると、今まで黙っていたこだまくんが、私の肩をポンと叩くと言いました。

「ロビン、ごめん」

「ハイ、こだまくんも、これからは、余りさくらさんに心配かけるようなことは、慎んでくださいね」

「わかってる。それから、俺も、お前のことは、もう、機械とは思わないことにした。だから、お前も、自分のことを機械なんて思うな」

「ハイ、わかりました」

 私は、胸の奥が熱くなりました。こだまくんの、その一言が、私の感情回路に火をつけた気がしました。

これまで、私は、自分のことを機械の体ということが、一つの自慢でした。

人間とは違って、ケガや病気はしません。壊れても、自動で直してくれる便利な体なのです。

赤い血の代わりに、体に流れているのは、オイルです。私は、人は人、ロボットはロボットと、区別して考えていました。そして、ロボットは、人間のために作られた機械であること。人間のために尽くすのが、自分の役目と、考えていました。

 でも、このウチにきてから、その気持ちが、揺らいでいくのがわかりました。


「ロビン、なんか、忘れてない?」

 みずほちゃんに言われて、気が付きました。一番、忘れていけないものです。

「皆さん、今日は、みずほちゃんとお買い物に行ってきたんですよ」

 私は、雰囲気を変えるように、明るい声で言いました。

買い物袋の中から、みずほちゃんの服などを見せてあげました。

「ずるいよ、みずほばっかり。ぼくも、なんかほしいなぁ~」

 つばさくんが、小さなフクフクなホッペを膨らませます。

私は、優しい笑顔で言いました。

「大丈夫ですよ。つばさくんにも、ちゃんと買ってきましたよ」

 そう言って、袋の中から、つばさくんのシャツを出して見せました。

「やったー! ありがとう、ロビンお姉ちゃん」

 つばさくんは、うれしそうにシャツを手にして、さくらさんやこだまくんに自慢します。

「ハイハイ、よかったね、つばさ」

 さくらさんは、やれやれという顔で、つばさくんに言います。

「さくらさんにもありますよ」

「えっ、あたしにも?」

「ハイ、気にいってもらえると嬉しいです」

 そう言って、さくらさんに買ってきた、可愛い犬のワンポイントが付いたシャツを見せました。

「可愛いじゃない。ありがとね、ロビンさん」

 さくらさんも気に入ってもらえてよかった。

「それと、こだまくんにも、これをどうぞ」

「俺にもあるの?」

「ハイ、こだまくんは、サッカー部なので、ボールのシャツです」

 そう言って、自信たっぷりで、胸に大きなサッカーボールが書いてあるシャツを見せました。

「あはは・・・こだま、それ、ちゃんと着なさいよ」

 さくらさんが笑いだします。おかしかったでしょうか??

それを手にしたこだまくんは、ものすごく困った顔をしながら胸に当てると、こういいました。

「ありがとな。そのウチ、気が向いたら着るから」

「今は、着てくれないんですか?」

「う~ン・・・ 今度な」

 そう言って、恥ずかしそうな顔をして、部屋に入ってしまいました。

「気に入ってもらえなかったのでしょうか?」

 私は、少し残念そうな顔をして言うと、さくらさんが言いました。

「いいんじゃないの。ホントに気にいらなかったら、その場で捨てるから。気に入ってるのよ」

 そう言うと、私の肩をポンと叩きます。それならよかった。

私は、みずほちゃんと買ってきた服をタンスに仕舞うことにしました。

「お買い物、楽しかったですか?」

「うん。また、行こうね」

「ハイ、また、行きましょう」

 私とみずほちゃんは、顔を見合わせて、笑いました。

その後は、夕飯作りです。今夜は、みんな大好きなカレーライスです。

 ご飯を炊いて、野菜を切って、茹でたらお肉と炒めて、ルーを加えて一煮立ちします。その間に、トンカツとコロッケを作ります。

 お肉に塩コショウをして、下味をつけてから、小麦粉、溶き卵、パン粉の順につけて準備完了。

ジャガイモは、レンジで軽く柔らかくしてからつぶします。

「ロビン、あたしにも何かやらせて」

 みずほちゃんが私のエプロンを掴んで言いました。

「それじゃ、ジャガイモをつぶしてくれますか?」

「いいわよ。これで何を作るの?」

「コロッケですよ」

「うわぁ、コロッケって、こうやって作るの? 初めて見たわ」

 みずほちゃんは、ボールに移したジャガイモをマッシャーでつぶしながら言いました。その間に、私は、ひき肉を炒めます。ボロボロになって色が変わったら、味付けをします。

 みずほちゃんは、マッシャーで楽しそうにジャガイモをつぶしています。

「みずほちゃん、今度は、ひき肉を入れるから、よく混ぜてください」

 そう言って、みずほちゃんが持っているボールにひき肉を入れて、混ぜてもらいます。全体的に冷めてきたら、俵型に成形します。

「みずほちゃんもやってみる?」

「うん。あたしにもやらせて」

 ビニール手袋をして、私がやるのを見ながら、みずほちゃんは、丁寧に丸めてくれます。

「自分のお口に入るように、小さめに作るのがコツですよ」

「わかった。これくらいね」

「その調子ですよ。みずほちゃんは、お上手ですね」

「それほどでもないわよ」

 みずほちゃんは、私が笑顔で褒めると、うれしそうに顔をあげて笑ってくれました。きっと、今夜のコロッケは、おいしくなると思います。

「あぁ~、みずほだけ、ずるいよ。ぼくもやりたかったな」

 つばさくんがそれを見て頬を膨らませます。

「それじゃ、つばさくんにもお願いしようかな。みずほちゃん、つばさくんに、教えてあげてください」

「いいわよ。つばさちゃん、こうやるの。見ててね」

 そう言うと、みずほちゃんは、丁寧に見本を見せるようにすると、つばさくんも丁寧にコロッケを丸めてくれました。

その間に、私は、カレーの様子を見ます。みずほちゃんたちにも食べられるように、

余り辛くならないように味付けをします。

「ロビン、全部できたわよ」

「ありがとうございます。後は、揚げるだけなので、私がやりますね」

 形は、不揃いかもしれないけど、みずほちゃんとつばさくんが作ってくれたコロッケは、美味しいに決まっています。私は、そう思いました。

 コロッケも、トンカツのように、小麦粉を付けてから、卵を付けて、パン粉を付けます。それを、一度、冷蔵庫で少し寝かせてから、揚げたほうがカリっとできます。

その間に、洗濯物を取り込みます。

「ぼくもやる」

「あたしも」

 表に出て、干した服を取り込もうとする私の後を追いかけてきました。

「それじゃ、服を部屋に入れてください。後で、みんなできれいに畳みますよ」

「それくらい、言われなくてもできるわよ」

 みずほちゃんは、すっかり大人になった気分で、胸を張ります。

そんなみずほちゃんを見ると、双子なのに、どこかお姉さんみたいに見えて、頼もしく映りました。

つばさくんは、弟みたいに、みずほちゃんの真似をしています。

 部屋に取り込んだ服をそれぞれにより分けて、畳もうとすると、さくらさんとこだまくんもやってきました。

「自分の服くらい、自分でやるよ」

「そうそう、なにからなにまで、ロビンさんにやらせちゃ悪いもんね」

 こうして、子供たちが全員で服をたたんでくれました。

その光景を見て、私は、ホントに心優しく、思いやりがある子供たちだと思いました。私は、家政婦ロボットとしてだけではなく、この子たちを大きくなるまで、見守るのも役目でした。

立派に成長していくのを見るのも、私にとっても楽しみの一つになりました。


 そして、ご飯も炊けて、カレーも完成しました。四人分のお皿にご飯とカレーをよそって、トンカツやコロッケは、別皿にあげて、好きなだけ食べられるようにしました。

「今夜もご馳走ね」

 さくらさんが席に座りながら言いました。

「こだまくんの好きなトンカツを作ったので、たくさん召し上がってくださいね」

「コロッケは、あたしが作ったんだからね。ちゃんと食べてよ」

「ぼくも手伝ったんだからね」

 私が言うと、すかさず、みずほちゃんつばさくんも声を出します。

「ハイハイ、大丈夫だから、それじゃ、いただきます」

「いただきます」

 さくらさんに合わせてみんなで手を合わせてます。

そして、早速、カレーを食べ始めました。

「あら・・・」

「う、うまい」

「おいしい!」

 そう言うと、みんな、スプーンでカレーを夢中で食べてくれました。

「このコロッケは、世界一ね」

「決まってるじゃん。あたしが作ったんだもの」

 みずほちゃんが自慢するように言います。それは、ホントにおいしいコロッケです。

「やっぱり、カツカレーだよな」

 いつも無口なこだまくんまでが、そう言って、トンカツをカレーに乗せて食べています。それが、私には、うれしくてたまりませんでした。

「こだまくん、お代わりいかがですか?」

「う、うん・・・」

 こだまくんは、俯きながらも空いたお皿を差し出します。

まだまだ、私の顔をちゃんと見て話をするのは、恥ずかしいようです。

「ロビン、あたしもお代わり」

「ぼくも」

「ハイ、まだまだ、たくさんあるので、お代わりしてください」

「あら、ちょっと、つばさ。アンタ、ニンジン嫌いじゃなかったの?」

「そうだけど、今日から、食べることにしたの」

 さくらさんがビックリして言うと、つばさくんは、スプーンで大きく切ったニンジンを一口で食べます。

「つばさくんは、ニンジンは、嫌いなんですか?」

「でも、食べてみたら、おいしかったから、今日から食べることにしたの」

 つばさくんが笑顔で言うのを、こだまくんとさくらさんは、顔を見合わせて驚いていました。

「これも、ロビンマジックってやつなのかな」

 こだまくんが感心したように言うので、おかしくて笑ってしまいました。

「つばさは、野菜が嫌いで、なかなか食べてくれなかったのに、ロビンさんが作るようになって食べるようになったわね」

「だって、食べてみたら、おいしいんだもん」

 つばさくんが、おいしそうにニンジンやジャガイモを食べていました。

こうして、ご飯もカレーも、カツにコロッケも、すっかり食べてしまいました。

食欲旺盛な子供たちにお腹一杯食べてもらえることは、私にとっても作り甲斐があります。人間にとって、食べることは、とても大事なことです。それを、私に任せてもらえることはうれしいことでもあります。このウチで、精一杯頑張って行こうと思える瞬間でした。


 夕食を済ませると、順番にお風呂タイムです。

まずは、こだまくんとつばさくんが入りました。その間に、私は、片づけをしました。

今日、買ってきたみずほちゃんの新しい下着を用意して、お風呂の用意をします。

「みずほちゃん、お風呂の時間ですよ」

「ハ~イ、今日は、さくらちゃんと入る」

「ハイ、それじゃ、お着替えですよ」

 私は、そう言って、新しい下着をみずほちゃんに渡します。

「今日は、あたしとなんだ」

「そのようですね」

 さくらさんが、照れ笑いをしながらみずほちゃんと浴室に行きました。

お風呂上がりのこだまくんとつばさくんに、冷たいお茶を出します。

「どうぞ」

「お、おぅ、ありがと」

 こだまくんは、まだ、恥ずかしいようで、私とちゃんと話ができないようです。

「つばさくん、髪は、ちゃんと乾かしましょうね」

 私は、まだ、少し濡れているつばさくんの髪をタオルで拭いてあげました。

すると、こだまくんが、そんな私の後ろに立って、小さな声で言いました。

「ロビン、今日は、悪かったな。ごめん」

「もう、いいですよ」

 私は、明るく言いました。

「あのさ、お前に頼みがあるんだけど・・・」

「ハイ、何でもおっしゃってください」

 私は、つばさくんの髪を拭きながら言いました。

「もうすぐ、夏休みだろ。その前に、期末テストがあるんだけど、点数がイマイチでさ、今度のテストで平均点より低いと、夏休みに補習とかあるんだよ。サッカーの試合もあるし、補習なんてやってられなくて。だからさ、お前、人工知能とかあるから、頭もいいんだよな」

「ハイ、電子頭脳がありますよ」

「だったら、俺に、勉強を教えてくれないかな?」

 私は、つばさくんの髪を拭いて、こだまくんの方に向いて言いました。

「いいですよ。でも、私より、お勉強を教えるなら、もっといい方がいますよ」

「それって、家庭教師ってこと?」

「ハイ、そうです」

「ダメダメ、ウチには、家庭教師なんて雇えないし、今から塾なんて行っても間に合わないし」

 こだまくんが、手を左右にヒラヒラさせながら顔を顰めます。

「いいえ、大丈夫ですわ。必ず、こだまくんが100点が取れるようになりますわ」

「バカ言うなよ。俺の成績が、どれくらい悪いか、わかってるのか?」

「ご心配なく。こだまくんは、自分を信じて、勉強すれば大丈夫です」

 不安気なこだまくんを見ながら、私は、あることを考えていました。

そこに、さくらさんとみずほちゃんがお風呂から上がってきました。

私は、みずほちゃんの髪を拭いていると、こだまくんとさくらさんの会話が耳に入ります。

「こだまに家庭教師? 無理でしょ。そんなことできるなら、あたしもお願いしたいくらいよ」

 さくらさんが髪を拭きながら言いました。

「さくらさんもいっしょに、お勉強しますか?」

「あたしも?」

 さくらさんは、高校では、生徒会の副会長をして、成績も上位です。

ただ、志望の大学に入るには、もう少し、成績を上げる必要がありました。

「さくらさんは、来年は、大学受験ですよね。志望の大学は、決まっているのですか?」

「それは・・・ 行けるかどうかは、微妙なのよね」

「でしたら、こだまくんと一緒に、お勉強したらいかがですか」

「それって、家庭教師ってこと?」

「ハイ。私に心当たりがあるので、ご紹介しますわ」

 そう言うと、私は、急いであるところに連絡しました。

ロボット同士で繋がる無線機が電子頭脳から直結しているので、すぐに話ができます。

「喜んでください。明日は、土曜日なので、午後から来てくれます。お二人の家庭教師にピッタリの方なので、安心してください」

 私は、話がまとまって、うれしくて、そのまま浴室に向かいました。

「いったい、何がどうなったんだ?」

「さぁ、いいんじゃない、ロビンさんに任せよう」

 さくらさんとこだまくんの会話を聞きながら、お風呂に入りました。

明日が楽しみです。機械の私が、明日を楽しみに感じるなんて、初めてのことでした。感情回路が熱を持っているようで、私は、冷たい水で顔を洗いました。


 そして、土曜日がやってきました。今日は、学校は、半日で終わりです。

朝ご飯を用意しながら、さくらさんとこだまくんに言いました。

「午後から、先生が来るので、忘れないでくださいね」

「わかってるよ」

「特に、こだまくんは、時間を守ってくださいね」

「わかってるって、言ってるだろ。こっちだって、成績がかかってるんだから、サボったりしないよ」

 そう言って、こだまくんは、学校に行きました。

さくらさん、みずほちゃん、つばさくんを見送って、まずは、掃除から始めました。

家庭教師の先生が来るので、きれいにしておかないといけません。

塵一つないように、きちんと掃除機をかけて、床も拭き掃除して、部屋の隅々まできれいにしました。

その間に洗濯機を回して、お昼ご飯の用意もします。今日は、みずほちゃんもつばさくんもお昼で終わりなので給食はありません。お腹を空かせて帰ってくるはずです。

 今日の昼食は、スパゲッティナポリタンを作ります。

帰宅時間を逆算して、食材を用意しました。タマネギとピーマンにハムを切って、パスタを用意します。

時計を見ると、お昼の12時を少し過ぎていました。 

「ただいま」

「ただいま、ロビンお姉ちゃん」

「お帰りなさい」

 まずは、みずほちゃんとつばさくんが帰ってきました。

「さくらさんたちが帰ってきたら、すぐにお昼ごはんにするので、手を洗ってきてください」

「ハ~イ」

「ロビン、お昼は、なに?」

「ナポリタンですよ」

「やったー! つばさちゃん、お昼は、スパゲッティーだって」

「うわぁ、楽しみ」

 二人は、喜んで洗面所に行きました。

「ただいまぁ」

「さくらさん、おかえりなさい」

「こだまは、帰ってきた?」

「まだですよ」

「まったく、あいつは・・・ まさか、サボったりしないよね?」

「大丈夫ですよ。私は、こだまくんを信じていますから」

 そう言って、私は、パスタを茹でることにしました。

「お勉強の前に、お昼ご飯を食べてくださいね」

「腹が減っては、戦はできないって事ね」

「ハイ、そうです」

 さくらさんの一言に、思わず頬が緩んでしまいます。そこに、こだまくんが帰ってきました。

「ただいま」

「こだまくん、お帰りなさい。もうすぐ、お昼ご飯ですから、手を洗ってきてください」

「ハイハイ」

「ハイは、一回でしょ」

「ハ~イ」

 さくらさんに注意されて、こだまくんが笑いながら洗面所に向かいました。

みずほちゃんとつばさくんは、早くもテーブルに座って食べる準備です。

 私は、具材を炒めて、味付けしてから、茹で上がったパスタを投入します。

手早く具材と混ぜながら、ケチャップを入れて、手早く炒めます。

今回は、ホールトマトではなく、ケチャップを使った、昔ながらのナポリタンをチョイスしました。

「お待たせしました」

 私は、人数分のナポリタンをお皿に盛りつけました。

「うわぁ、おいしそう」

「いいニオイね」

「みんな、手を合わせて。いただきます」

「いただきます」

 いつものように、さくらさんの声に合わせて、みんなで手を合わせます。

「おいしい!」

「うん、おいしいわ」

「こだまくん、どうですか?」

「うまいよ」

 相変わらず、そっけない返事ですが、おいしそうに食べてくれます。

「みずほちゃん、つばさくん、お口の周りを拭いてくださいね」

 夢中で食べているので、口の周りがケチャップだらけです。

もちろん、私もおいしくいただきました。ロボット学校で習ったパスタ料理が役に立って、よかったです。

作りすぎたかなと思ったのに、四人の子供たちは、ペロッと食べてしまいました。

「ご馳走さまでした」

「おいしかった。ロビン、今度は、ミートソースが食べたい」

「ハイ、わかりました。また、作りますね」

 みずほちゃんのリクエストなら、絶対に作ろうと決めました。

「さくらさんとこだまくんは、お勉強の用意をしてください。みずほちゃんとつばさくんは、邪魔しないように、向こうの部屋で静かにしていましょうね」

 私は、そう言って、片づけを始めます。時計を見ると、お昼の14時になろうとしていました。約束の時間は、もうすぐでした。


 そして、その時がやってきました。

玄関のチャイムが鳴りました。私は、玄関に向かいます。

「ハイ、どうぞ」

 そう言って、玄関を開けると、そこには、ロボット学校を卒業して以来の、仲間が立っていました。

「こんにちは、久しぶりですね、ロビンさん」

「お久しぶりです、ロボデキさん」

「元気ですか?」

「ハイ、元気です。今日は、無理を言って、すみません」

「イヤイヤ、ロビンさんの頼みなら、イヤというロボットなど、いませんよ」

「それでは、こちらです。お上がり下さい」

「では、失礼いたします」

 そう言って、あるロボットを招き入れました。

「えっ!」

「マジ、ロボット・・・」

「ウソぉ・・・」

「ロボットだぁ」

 四人は、それぞれにビックリするような声を上げました。

「初めまして、私は、ロボデキと言います」

 ロボット学校を首席で卒業したのが、ロボデキさんです。

身体全体が機械をむき出しになっているのは、かなり威圧感があります。

頭の中の電子頭脳がチカチカ光って、体の中には、最新のコンピューターが内蔵されて、顔も体も、手も足も、いかにも機械という感じで、人間の姿をしている私とは、正反対のロボットです。

「そんなに驚かないでいただきたい。これでも、私は、天才ロボットなのです。御安心ください。私は、現在は、東大法学部の客員教授、慶応大学では医学部助教授、他にも・・・」

「あの、ロボデキさん。自己紹介は、そのくらいにして、そろそろお勉強の方を・・・」

「それは、失礼しました。えーと、生徒さんは、そちらのお嬢さんとお坊ちゃんですか」

「さくらです。よろしくお願いします」

「えっと、俺は、こだまです」

「さくらさんとこだまくんですか。こちらこそ、よろしくお願いします」

 初めて見るロボデキさんの姿形は、迫力があって、怖そうに見えるかもしれません。でも、ロボデキさんは、ホントに頭がよくて、数々の大学で、学生たちを教えています。

「それでは、始めましょうか。さくらさんは、高校三年生で、大学受験ですね」

「ハイ」

「こだまくんは、中学二年生で、期末テストの準備ですね」

「そうだけど」

「まずは、お二人の実力を知りたいので、それぞれの学年に習った、ミニテストを作りました。時間は、20分です。では、始めてください」

 いきなりテストとは、思わなかったので、私もビックリしました。

私は、二人の邪魔をしないように、みずほちゃんとつばさくんをリビングに誘って、

静かに遊ぶことにしました。20分なんて、あっという間に過ぎました。

「ハイ、終了です。では、採点するので、少しお待ちください」

 ロボデキさんの声が聞こえてきました。二人は、何点だったのでしょうか・・・

「ハイ、終わりました。さくらさんは、70点。こだまくんは、50点ですね」

 二人の深いため息が聞こえてきました。

「このテストは、お二人の苦手な科目や注意するべきことがわかります。それを、何度も復習すれば自然と成績は良くなります。大丈夫です。私を信じて、付いてきてください。必ず、お二人に100点を取らせて見せます」

 ロボデキさんは、胸を張って、言いました。

果たして、どうやって、100点を取らせるのでしょうか??




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