第7話 ロビン、友だちと会う

「まずは、さくらさんからですが、このテストを見る限り、数学の数式をきちんと覚えてください。また、化学式と元素記号を覚えること。これは、暗記するしかないので、何度も繰り返し覚えてください」

 ロボデキさんは、丁寧に指摘しています。

「こだまくんは、うっかりミスが多いですね。例えば、歴史の年号が微妙に間違えています。それと、英語は、複数の場合、現在進行形の時の変化が違います。また、国語の場合は、問題をよく読んで、なにを言いたいのか、しっかり読み取ること。問題の読解力を付けてください」

 こだまくんの弱点もちゃんと指摘していました。

「それでは、その点を踏まえて、10分間の予習をしてください。間違えている個所を訂正して、教科書を見ながら、もう一度、やってみてください。その後、もう一度、同じテストをします。同じ問題をクリアできるまで、何度もやります。では、始めてください」

 さくらさんもこだまくんも、次第に勉強に集中し始めて、静かにペンを走らせていました。

「お兄ちゃんが、あんなに勉強してるの、初めて見たよ」

「つばさくん、静かにしましょう」

 つばさくんも気になっているようなので、私は、つばさくんとみずほちゃんを連れて、今夜のお買い物に行くことにしました。

 二人を連れていつもの商店街に向かいます。

「今夜は、なにがいいかしら?」

「お寿司が食べたいなぁ」

「う~ン、お寿司ですか・・・」

 ロボット学校で料理のことは、勉強しました。でも、お寿司は握れません。

とりあえず、商店街のお魚屋さんに行ってみました。

「いらっしゃい、今日は、いい刺身が入ってるよ」

 いつものおじさんに勧められても、すぐに返事ができません。

どうしようか考えているとき、あることを思いつきました。

「おじさん、手巻き寿司って、誰でもできますか?」

「できるぜ。酢飯と海苔があれば、中身は何でも好きなのを巻いて食べれば、誰でもできるぜ」

「ねぇ、みずほちゃん、つばさくん、手巻きずしやって見ましょうか?」

「やる、やる!」

「あたしもやる」

「それじゃ、決まりですね」

 ということで、おじさんに手巻き寿司用のお刺身をいくつか選んでもらいました。

手巻き寿司なら、それほど具材も買わなくても済むので、早めに買い物を済ませて帰りました。

「ただいま、帰りました」

 私は、勉強中の二人を気にして、静かに入りました。

「ロビンさん、見てください」

 私に気が付いたロボデキさんが、うれしそうな声を上げました。

そして、見せてくれたのは、100点の答案用紙でした。

「100点ですか!」

「そうです。お二人とも、三回目で100点を取れました」

「まぁ、すごいですね」

 私は、うれしくて、さくらさんとこだまくんに抱き付いてしまいました。

「イヤイヤ、三回目だから、そんなに喜ぶことじゃないって、離れろよ」

「あっ、すみません」

 こだまくんに言われて、慌てて離れます。

「こだまくん、そんなことはありません。これで、自分が勉強するべきことがわかったはずです。これから、そこを重点的に予習すれば、一度で100点も夢ではありませんよ」

「そうかな・・・」

「自分を信じてください。この私が言うんです。大丈夫です。それと、さくらさん、あなたが勉強するべき事もわかったはずです。それをクリアできれば、志望大学も入れますよ」

「わかりました。あたし、がんばります」

「その意気です」

 ロボデキさんが、元気づけるように言いました。

「それでは、私は、これで失礼いたします」

「あの、ロボデキさん・・・ もう、お帰りですか?」

「ハイ、もう、私の役目は終わりました」

「でも・・・」

「ロビンさん、ご心配には及びません。お二人は、私を作った博士の御子息だけのことはあります。物覚えも早く、理解力もあります。私の作った、マル秘ノートと問題の解き方を授けましたので、これを参考にすれば、きっと、今度のテストでも、受験でも、いい点が取れますよ」

 ロボデキさんは、自信満々に言うと、部屋から出て行きます。

「それでは、これにて、失礼しました。また、私を必要とするときがあれば、いつでもお呼びください」

 そう言って、丁寧にお辞儀をするロボデキさんを玄関まで送りました。

「待って、ロボデキさん」

「ハイ?」

 玄関の扉を開けて、出て行こうとするロボデキさんを呼び留めたのは、さくらさんでした。

「あの、ホントに、今日は、ありがとうございました」

「いえいえ、礼には、及びません。私は、当たり前のことをしただけでございます」

「私、ホントに、大学に行けますか?」

「ハイ、行けますよ。ただし、今のままでは、ギリギリですよ」

「わかってます。だから、また、教えてください」

「ハイ、喜んで」

「ありがとうございます。また、よろしくお願いします。私、大学に入りたいんです」

「わかっていますよ。がんばってくださいね」

 さくらさんが、ロボデキさんに頭を下げるのを見て、私は感動してしまいました。

人間がロボットに頭を下げるなんて、あり得ないことです。

そんなことをする人間は、見たことがありません。それなのに、さくらさんは、心から感謝してロボデキさんに頭を下げているのです。それをロボデキさんも、丁寧に返していました。

私も、それくらい感謝されるように、がんばりたいと思います。

 こうして、ロボデキさんは、帰って行きました。

私は、外までロボデキさんを見送りに出ました。すると、こだまくんが飛び出してきたのです。

「ちょっと待て」

「おや、こだまくん? どうかしましたか」

「俺、がんばって、100点を取るからな。お前に教えてもらったこと、無駄にしないから。勉強して、テストで100点を取るから。約束するから、また、ウチにきてくれよな」

「ハイ、わかりました。いつでも、呼んでください。その時を楽しみにしてます」

 そう言って、ロボデキさんは、ホントに帰って行きました。

「こだまくん・・・」

「ロビン、お前の友だちって、すごいな。あいつのためにも、お前のためにも、今度のテストは、100点を取ってやるからな」

 そう言うと、家の中に飛び込んでいきました。そんなこだまくんの背中が頼もしく見えました。


 さて、今夜は、手巻き寿司です。魚屋のおじさんに中に入れる具材を切ってもらってあります。

後は、教わった通りに酢飯を作ればいいだけです。ご飯を炊いて、すし酢を混ぜれば出来上がりです。

みずほちゃんとつばさくんに、団扇であおいでもらいながら、酢飯を冷ましながら、切るように混ぜます。

「どうかしら?」

 少し味見をしてもらいます。

「まだ、お酢が効いてないと思うけど」

「そうですか。それじゃ、もう少し入れますね」

 私は、みずほちゃんの感想を聞いて、もう少しお酢を効かせました。

「つばさくん、さくらさんとこだまくんは、どうしたの?」

「なんか、部屋で勉強してるみたい」

 二人とも、急にやる気を見せたらしく、積極的に勉強を始めました。

そんな二人のために私にできることは、おいしい料理を作ることです。

「よし、私もがんばろう」

 私は、声に出して、おいしい手巻き寿司を作りました。

海苔と具材を用意して、テーブルの真ん中に手桶に酢飯を準備して出来上がりです。

「みずほちゃん、さくらさんとこだまくんを呼んできてください」

「ハ~イ」

「つばさくんは、お皿を用意してください」

「ハ~イ」

 二人も、最近では、積極的にお手伝いしてくれます。そして、全員揃って、席に着きます。

「今日は、手巻き寿司ね」

「ハイ、好きなものを巻いて食べてください」

「それじゃ、みんな、手を合わせて、いただきます」

「いただきます」

 食事の時は、みんなで手を合わせるのが、このウチのルールです。

「つばさくん、こうやって、海苔に酢飯を少し乗せて、お刺身を乗せて、こうして巻いて食べるんですよ」

 私は、一度、作って見せると、それを真似して食べ始めます。

「おいしいわね」

「うん、自分で作ると、一味違うな」

 さくらさんとこだまくんが言いました。

みずほちゃんもそれを見て、同じように巻いて食べてくれます。

今夜の夕飯も、みんな笑って、楽しく食べてくれました。

「つばさ、そんなにご飯を乗せたら、巻けないぞ」

「だって、もっと食べたいんだもん」

「欲張りだな」

「あっ、海苔がやぶけちゃった」

「だから言ったじゃない」

 さくらさんが笑うと、みんなも笑いだします。

「つばさちゃん、こうやるのよ」

 みずほちゃんが、見本を示すように、上手に巻いて食べます。

「みずほちゃんは、お上手ですね」

「まぁね」

 今夜も賑やかな夕飯でした。美味しく食事を食べてくれることが、私にとってもうれしいことです。その後は、お風呂に入って、一日が過ぎていきます。

 私は、自分のふとんに入って寝るときに、今の幸せがずっと続くことを祈りました。


 それから何日も過ぎて、私は、一生懸命みんなのためにがんばりました。

こだまくんとさくらさんは、勉強を自発的にするようになり、みずほちゃんとつばさくんも私に懐いてくれて、いろいろ手伝ってもくれました。

 そして、いよいよ夏休みがやってきます。その前に、こだまくんたちは、期末テストがあります。今まで、勉強してきた成果が出るといいなと思います。

「ただいま」

 みずほちゃんとつばさくんがいっしょに帰ってきました。

「お帰りなさい」

「ねぇ、さくらちゃんとこだまちゃんは?」

「まだですよ」

「今日は、テストよね?」

「そうですよ」

「どうだったかな?」

「大丈夫ですよ。さくらさんもこだまくんも、がんばったんだから、きっと、100点取ってきますよ」

 私は、みずほちゃんを安心させるように言いました。

それでも、実は私も、ドキドキしていました。早く帰ってこないかなと、内心では思っていました。

 それから、しばらくして、さくらさんが帰ってきました。

「ただいま、みんな帰ってる?」

「さくらさん、お帰りなさい」

 私はもちろん、みずほちゃんとつばさくんと三人で出迎えます。

「さくらさん、どうでしたか?」

「これを見て」

 そう言って、カバンからいくつもの答案用紙を見せてくれました。

国語、英語、数学、歴史、科学、そのどれもが100点でした。

「お姉ちゃん、やったね」

「さくらちゃん、すごい」

「あたしがやる気になれば、こんなもんよ」

 二人に抱き付かれたさくらさんは、胸を張って言いました。

「おめでとうございます。さくらさん」

「なにを言ってるのよ。ロビンさんと、あのロボデキさんのおかげよ」

「そんなことありません。さくらさんは、がんばって勉強したからですよ」

「あとは、こだまね」

 後は、こだまくんの帰りを待つだけです。

それから少したって、やっとこだまくんが帰ってきました。

「ただいま」

「お兄ちゃん、お帰り」

「こだまちゃん、テスト、どうだった?」

 みずほちゃんとつばさくんがこだまくんに駆け寄りました。

「こだま、あたしは、満点だったよ」

 さくらさんが言うと、こだまくんは、少し暗い顔をして返事をしません。

「こだまくん、お帰りなさい」

 私は、いつものように迎えました。

「こだま・・・」

 さくらさんが小さな声で呟きます。こだまくんは、カバンから答案用紙を見せてくれました。私は、それを受け取って、点数を見ました。

「こだまくん・・・ おめでとうございます。がんばりましたね」

 それは、すべてがさくらさんと同じで100点でした。

「やったぜ!」

「こだま、アンタもやればできるじゃない」

「当り前だろ。俺だって、やる気になれば、こんなもんさ」

「なにを言ってるのよ。ロボデキさんが作ってくれた、ノートのおかげでしょ」

「まぁね」

「いいえ、こだまくんががんばったからですよ」

 私は、そう言って、こだまくんを心から褒めました。

そんなこだまくんは、恥ずかしそうに頭をかいています。

「皆さん、今夜は、お祝いに焼き肉にしましょう」

「やったー!」

「焼肉だぁ」

 みずほちゃんとつばさくんは、大喜びです。

この日の夕食は、私がこのウチにきて、初めての楽しいホームパーティーになりました。

 ホットプレート上で始まる、お肉の争奪戦。こだまくんとみずほちゃんの肉の取り合い。それに遅れて泣き出すつばさくん。それを横で笑いながらお肉を分けているさくらさん。

私は、この日の夜のことは、絶対に忘れることはありません。

電子頭脳に確実にインプットされました。


 そして、夏休みに入りました。こだまくんは、連日サッカー部の練習に明け暮れ、

さくらさんは、ロボデキさんと大学入試に向けて猛勉強の毎日です。

 小学生のみずほちゃんとつばさくんは、連日友達と遊びまわったり、

夏休みの宿題と格闘したり、毎日があっという間に過ぎていきました。

 私も家事に大忙しです。何しろ、毎日、四人分の三食を作らなければなりません。

朝から料理の仕込みに追われ、洗濯と掃除の繰り返しでした。

でも、楽しい毎日でした。次から次へと起きるハプニングの連続で、目も回る忙しさです。それでも、家政婦ロボットの私は、それがとても充実していました。

 そんなある日の夕方のことです。みずほちゃんが、なぜか、この日は、朝からあまり元気がありませんでした。

珍しく、朝ご飯も残して、お昼ご飯も食べてくれませんでした。

そして、夕方になって、自分からこんなことを言いました。

「ロビン、お腹痛い・・・」

 私は、ビックリして、慌てておでこに手を当てると、熱があります。

「痛いのは、お腹だけ?」

「うん」

「お熱がありますね。横になって、寝ていてください」

 私は、つばさくんやさくらさんたちにうつってはいけないと思って、自分の部屋に布団を敷いて寝かせることにしました。

 小さなおでこに発熱用のひんやりシートを張って、横に寝かせました。

「おとなしくしていてくださいね」

「うん」

 小さく頷くみずほちゃんを見て、私は、心配になりました。

いつも元気なみずほちゃんが、こんなに弱っている姿なんて、初めて見ました。

顔が赤くなって、目を閉じて静かに寝ているみずほちゃんを、何とかしなくては・・・

家政婦の私が付いていながら、子供たちの体のことに気が付かないなんて、私の責任です。そこに、さくらさんと、つばさくんが帰ってきました。

「ただいま」

「さくらさん、あの・・・」

「どうしたの、ロビンさん?」

「みずほちゃんが、具合が悪くされて・・・あの、どうも、すみません。私の責任です」

 私は、そう言って、深く頭を下げて謝りました。

すると、さくらさんは、こともなげに私の肩を優しくポンと叩くとこういったのです。

「別に、ロビンさんのせいじゃないわよ」

「そうだよ。みずほね、昨日、遊びに行って、アイスを食べ過ぎたんだよ」

 つばさくんとさくらさんは、そう言って、私の横を通ると、みずほちゃんが寝ている部屋に入っていきます。

「みずほ、アンタ、アイスを食べすぎんだって」

「ごめんなさい」

「だから、いつも言ってるでしょ。冷たいものを食べすぎると、お腹を壊すって」

 さくらさんは、みずほちゃんに言うと、部屋を出て行きました。

「ロビンさん、薬箱にお薬入ってるから、それを飲ませて」

「ハ、ハイ」

 私は、慌てて棚にあった薬箱から、お腹の薬を探して、みずほちゃんに飲ませました。

「大丈夫よ、ロビンさん。あの子は、毎年、夏になると、冷たいものを食べすぎて、

お腹を壊したり、熱を出したりするのよ」

「でも、家政婦の私がいながら、皆さんの健康のことまで気が付かなくて、申し訳ありません」

「ロビンお姉ちゃん、大丈夫だよ。みずほが悪いんだから、気にしなくていいって」

 つばさくんやさくらさんに言われると、余計に責任を感じてしまいます。

「ただいま、あぁ~、疲れた。ロビン、腹減った」

「こだまくん・・・」

 私は、帰ってきたこだまくんを玄関までお迎えすると、その顔を見て、泣いてしまいました。

「お、おい、どうした?」

「すみません。私のせいで、みずほちゃんが・・・」

「ハァ? みずほがどうしたって」

「お腹を壊して、熱があるみたいなんです」

「またかよ。どうせ、冷たいものを食べすぎて、腹でも壊したんだろ。お前のせいじゃないから、気にすんな」

「でも、私は、家政婦で、皆さんの体のことも、気を付けていなければいけないのに・・・」

「どうせ、また、調子に乗ってアイスを食い過ぎたんだろ。薬を飲ませて、寝かせておけば明日には、治ってるから。それより、腹減ったよ。泣いてないで、メシにしてくれよ」

「ハイ、今、用意いたします」

 私は、涙を拭いて、気を取り直して、夕飯作りを始めました。

その合間に、私はみずほちゃんの様子も見に行きます。

「お腹は、痛くないですか?」

「まだ、痛い」

「何か、食べたいものはありますか?」

「いらない」

「私は、こだまくんたちの食事を作るので、なにか、果物とか後で持ってきますね」

「ありがと。でも、今は、何も食べたくないの」

 こんな弱々しいみずほちゃんの顔は、見たくありません。

いつも可愛くて元気なみずほちゃんが私は好きです。こんなみずほちゃんを見ていると心配でたまりません。そんな時、私は、あることを思いつきました。

「あの、皆さん、お医者様を呼んでも構いませんか?」

「えっ?」

「医者を呼ぶの?」

「救急車でも呼ぶつもりなら、やめとけ」

 三人は、ビックリしながらも、それほど慌てる様子ではありません。

「でも、私は、みずほちゃんが心配で・・・」

「そんな、大袈裟なことをしなくても、大丈夫よ」

 さくらさんは、あっさり言います。それでも、私は、心配です。

風邪は、万病の元とも言います。もしも、何かあったら、それこそ一大事です。

「大丈夫です。私に心当たりがあるので、お医者様に来てもらいます」

 そう言うと、私は、こだまくんたちが止めるのも聞かずに、ある方に連絡を取りました。

「すぐにお医者様が来てくれます」

 私は、みんなに言うと、少しホッとしました。

そして、お医者様が来るまでの間に、みんなの夕食を作りました。

今日は、手早くできるように、親子丼にしました。

 小さく切った鶏肉を出汁で煮てから、卵でとじます。

お吸い物は、生海苔を使いました。これで、さっぱり食べられます。

「皆さん、ご飯ですよ」

 そう言うと、早速みんながそれぞれの席に着きます。

でも、この日は、みずほちゃんの席だけ空席なのが、寂しく感じました。

「今夜は、親子丼です」

「うまそうじゃん」

「ぼく、親子丼て大好き」

「それじゃ、いただきます」

「いただきます」

 三人は、手を合わせて、早速、食事を始めました。

「ロビン、うまいぞ」

「ありがとうございます」

 最近では、こだまくんも食事の感想を言ってくれるようになりました。

「つばさくんもたくさん食べてください」

「うん」

 つばさくんは、親子丼が好きらしく、夢中で食べてくれました。

さくらさんは、スプーンを使って、おいしそうに食べています。

「ロビンさんは、食べないの?」

「私は、後でいただきます。もうすぐ、お医者様が来るので、それからにします」

「ホントに来るの?」

「ハイ、来てくれますよ」

「でも、わざわざ来るなんて、大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ。名医ですから」

 さくらさんは、心配そうですが、私は自信がありました。

すると、玄関のチャイムが鳴りました。私は、急いで玄関に走ります。

「ハ~イ」

 私は、声を出しながら玄関の扉を開けました。

「お待たせしました」

「ありがとうございます」

「イヤイヤ、ロビンさんの頼みなら、断るはずがありませんよ」

「とにかく、こちらです」

「では、失礼しますよ」

 そう言って、中に入ってきたのは、ロボット学校の仲間の一人で、病院の先生をするために作られた、ドクターロボットの、ロボカン先生です。

「えっ!」

「ウソっ・・・」

「えーっ!」

 ロボカン先生を初めて見た三人は、ビックリしています。

「初めまして、私が、ロボカンです」

「ちょ、ちょっと待て。ロボットかよ」

「もしかして、ロボット学校のお友達?」

「ハイ、この方は、外科医を専門に手術をしている、名医のロボット先生です」

 私は、そう言って紹介しました。ちなみに、ロボカン先生は、白衣は着ているものの顔は機械が剥き出しで、両手は、手術道具が付いて、白衣から除く両足は、まさに機械そのもので身体全体は、ドラム缶のように太っています。また、白衣の中には、あらゆる薬や点滴など手術や診察に必要な道具が隠れています。

「お初にお目にかかります。こう見えて、私は、あらゆる病気やケガを治すために作られた外科医のロボットで、通称ドクターZと呼ばれています。患者様は、小学生の女の子ということですが、私が来たからには、ご安心ください」

 ロボカン先生は、自信満々で挨拶しました。

さくらさんがスマホで検索すると、目を丸くして、それをこだまくんに見せました。

「こだま、この人、ホントにすごい先生みたいよ」

「マジかよ」

 そこには、今まで治した病歴などが書かれたネットの記事がありました。

ノーベル医学賞を受賞した、有名な先生との共同手術のことや、癌の研究成果、

絶望的な患者を救ったことなど、細かく記事にされていました。

「ホントに、すごいんだ・・・」

「自慢ではありませんが、私に治せないケガも病気もありません」

 ロボカン先生は、そう言うと、私の方に向き直りました。

「ロビンさん、早速ですが、患者様は、どちらですか?」

「ハイ、こちらです。よろしくお願いします」

「安心してください。私が来たからには、必ず治して見せます。他ならぬ、ロビンさんのためですから」

 そう言うと、私は、ロボカン先生をみずほちゃんが寝ている部屋に案内しました。

「みずほちゃん、先生が来たわよ」

「うぅ~ン・・・ えっ!」

 みずほちゃんは、目を開けると、そこにいたロボカン先生を見て、声を上げました。

「怖がらなくても大丈夫ですよ」

「ちょ、ちょっと、ロビン・・・」

「みずほちゃん、大丈夫だから。この方は、ロボカン先生と言って、病院の先生ですよ」

「わかった。ロビンを信じる」

「ありがとうございます」

 みずほちゃんは、そう言うと、静かに横になりました。

「では、診察をしますね。痛いところがあれば、言ってください」

 そう言うと、ロボカン先生は、みずほちゃんのお腹を触ります。

「すみませんが、ロビンさんは、向こうでお待ちください。患者様が気が散るといけませんから」

「わかりました」

 私は、そう言うと、部屋を覗いている三人を連れて、ダイニングに戻りました。

「ホントに平気かよ?」

「大丈夫です。信じてください」

 こだまくんは、まだ、不安そうです。

「ロビンさん、診察料って、いくらなの?」

「その点なら、安心してください。ロボカン先生の診察は、すべて無料ですから」

「ただなの?」

「ハイ。ロボカン先生は、人間を治すために作られた世界最高の医療ロボットですから、

人間を治すための代金は、いただいていません」

「マジかよ」

 さくらさんとこだまくんは、目を白黒しています。

「皆さん、お食事の途中ですよ」

 そう言って、食卓に誘いました。こだまくんたちは、食事を再開してくれました。

そして、みんなが食べ終わるころに、みずほちゃんの診察も終わって、ロボカン先生がやってきました。

「どうでしたか?」

「軽い腹痛から来る発熱ですね。注射を一本打ったので、すぐに熱も下がるでしょう。これは、お腹の薬ですから、食後に飲ませてください」

「何か、食べても大丈夫ですか?」

「消化のいいものを食べさせてください。そうですね。うどんとか、雑炊とか、少し温かいものがいいでしょう。少しの間、冷たいものは、食べない方がいいですね」

「ありがとうございます」

「それでは、私は、これで失礼します。もし、何かあれば連絡ください。すぐに駆けつけますからね」

 そう言って、ロボカン先生は、帰って行きます。

私は、玄関まで、見送ると、ロボカン先生は、こんなことを言いました。

「あなたは、とてもよくやっていますね。あの小さな可愛い患者様が、褒めていましたよ」

「みずほちゃんが・・・」

「だから、もっと、自信を持ってください」

「ロボカン先生、ありがとうございます」

「では、これで・・・」

 そう言うと、玄関先に止めてあった車から、スーツ姿の男の人が出てきました。

「先生、お迎えに上がりました」

「ありがとね」

 そう言って、車に乗ります。そこに、こだまくんとさくらさんが走って出てきました。

「先生、みずほのこと、ありがとうございました」

 そう言って、二人して、丁寧に深くお礼を言うと、頭を下げます。

「いえいえ、頭を上げてください。私は、ロボットとして、当たり前のことをしただけです」

「でも、診察料とか・・・」

「私は、今まで、一度も人間を治して、お金をちょうだいしたことはありませんよ。

それに、ロビンさんの頼みですからね」

「ロビンの?」

「ハイ、ロビンさんは、ロボット学校時代の大切な仲間です。皆さん、ロビンさんのこと、よろしくお願いしますよ」

 そういって、車に乗ると、あっという間に行ってしまいました。

「ロビンさん、ありがとう」

「なにを言ってるんですか。私も、ロボカン先生と同じで、当たり前のことをしただけです」

「なぁ、ロビン。お前、すごい奴だな」

 こだまくんは、そう言うと、私の肩をポンと叩きました。

こんなことをされたのは、初めてだったので、私は、どんな顔をしたらいいのか、わかりませんでした。

 それから、私たちは、家に戻ると、つばさくんがやってきました。

「みずほが、お腹空いたっていってるよ」

「わかりました。すぐに、何か作ります」

 薬が効いてきたのか、食欲が出て来たらしく、みずほちゃんからのうれしい一言に、私もホッとしました。そして、みずほちゃんのために作ったのは、玉子雑炊です。

「なんだか、おいしそうなニオイがするわね」

 さくらさんが私のそばに寄ってきて言いました。

「ハイ、栄養満点ですよ」

「今度、私が、風邪をひいたときには作ってね」

「もちろんです」

 私は、笑顔で言いました。出汁を取った汁に、ご飯を入れて軟らかくなるまで煮てから玉子をそっと割り入れて優しい味に仕上げました。

それを持って、みずほちゃんの部屋に向かいます。

「みずほちゃん、雑炊ができました。少しでもいいので、食べてください」

「うん。ロビン、ありがとう」

 私は、みずほちゃんを起こして、熱々の雑炊をお茶碗によそって、レンゲで少し掬って、息を吹きかけて冷ましてから、口に運びます。

「ハイ、あ~ンしてください」

「平気よ。一人で食べられるから」

「みずほちゃんは、病気なんですから、私が食べさせます」

「もう、赤ちゃんじゃないのに」

「いいんですよ。たくさん、甘えてください」

 そう言うと、みずほちゃんは、小さな口を開けて、一口食べます。

「熱くないですか?」

「うん。おいしいわ」

「ゆっくり、少しずつ食べてください」

 私は、みずほちゃんに雑炊を食べさせました。

「いいなぁ~、みずほばっかり」

 そんな様子を見ていたつばさくんが言いました。

「つばさくんも、風邪をひいたときには、私が食べさせてあげますよ」

「それじゃ、ぼくも風邪をひこうかな」

「バカ! なにを言ってんだ」

 言ったそばから、こだまくんのゲンコツが飛んできました。

「痛いよ、お兄ちゃん」

「風邪をひきたいなんて言うからだ」

「ハ~イ」

 つばさくんは、頭をさすりながら、リビングに行きました。

「みずほ、熱はないのか?」

「こだまちゃんは、心配し過ぎよ」

 みずほちゃんは、口をモグモグさせながら言いました。

「いいか、今日は、おとなしくして、ロビンの言うことを聞けよ」

「ハイハイ。わかったから、もう、向こうに行ってよ」

 みずほちゃんに追い払われて、こだまくんも渋々部屋を出て行きます。

「ロビンさん、みずほの具合は、どうなの?」

「大丈夫ですよ。ちゃんと食事も召し上がってくれてますよ」

 今度は、さくらさんが様子を見に来ました。口では、いろいろ言っても、やっぱり、妹のことは心配なのです。このウチは、兄弟四人が仲良く暮らしています。

中でも、妹のみずほちゃんのことは、みんなが気にかけているのです。

そのことが、私にも伝わります。

「もう、さくらちゃんも心配しなくていいから」

「ハイハイ。わかりました。ロビンさん、みずほのこと、よろしくね」

「ハイ、お任せください」

 さくらさんが部屋を出て行くと、みずほちゃんは、呆れたように言いました。

「ホントに、みんな、心配性なんだから。困っちゃうわ」

「そんなことないですよ。みんな、みずほちゃんのことが大好きだから、心配してるんですよ」

「そんなの、わかってるわよ」

 みずほちゃんは、そう言って、明るく笑ってくれました。

そして、みずほちゃんは、雑炊をきれいに食べてくれました。

「お腹一杯になったから寝るわ」

「ハイ、おやすみなさい」

「ねぇ、この部屋って、ロビンの部屋でしょ」

「ハイ、そうですよ」

 他の人に風邪がうつるといけないので、今日は、私の部屋で寝かせていました。

もちろん、私は、ロボットなので、風邪がうつることはありません。

「今夜は、ロビンと寝てもいい?」

「いいですよ」

「ありがと・・・」

 みずほちゃんは、照れたように言うと、ふとんを被ってしまいました。

その後、私は、自分の食事を済ませて、順番にお風呂に入ってから、自分の部屋に戻りました。

 静かに寝息を立てているみずほちゃんのおでこにそっと手を当てます。

熱も下がったみたいで、安心しました。私は、みずほちゃんの隣にふとんを引いて、横になりました。

すると、みずほちゃんが小さな声で言いました。

「ねぇ、いっしょに寝てもいい?」

「いいですよ」

「でも、ロビンに風邪がうつったりしない?」

「しませんよ。私は、ロボットですから」

「ロボットなんて言わないで。ロビンは、ロビンでしょ」

「ハイ、そうですね」

 風邪をひいているこんな小さな女の子にまで、気を使わせてしまった自分を反省しました。

それと、みずほちゃんから、そんな一言を聞いて、私は、胸が一杯になりました。

 その晩は、みずほちゃんを抱き寄せて寝ました。

私の体は、機械でできているけど、体に流れるオイルは暖かいので、みずほちゃんを温めることができます。

みずほちゃんは、私に抱き付いて、いつのまにか寝てしまいました。

 私もそんなみずほちゃんの可愛い寝顔を見ているうちに、眠ってしまいました。

みずほちゃんは、どんな夢を見ているのかな?



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