第8話 ロビン、海水浴に行く
翌朝、私は、みずほちゃんを起こさないように起きて、みんなの朝ご飯を作りました。夏休みなので、いつもよりも朝は、ゆっくりです。
私も、少しゆとりを持って、朝食を作ることができました。
今朝の朝食は、ご飯と大根のお味噌汁と、卵焼きに焼鮭、納豆と焼き海苔とお漬物です。定番の朝食ですが、子供たちは、和食が一番好きで、たくさん食べてくれます。
「おはよう」
「こだまくん、おはようございます」
珍しく、一番先に起きてきたのは、こだまくんでした。
「今日は、サッカーの練習試合ですよね。お弁当を作りますからね」
「いいよ、弁当なんて」
「ダメですよ。しっかり食べないと、試合に勝てませんよ」
「わかったよ」
こだまくんは、寝癖が付いた髪を撫でながら、洗面所に行きました。
続いて、さくらさんとつばさくんも起きてきました。
「おはようございます」
「おはよう」
「さくらさんは、お昼のお弁当は、どうしますか? 今日も、ロボデキさんとお勉強ですよね」
「ありがと。もらっていくわ」
さくらさんは、夏休みに入ってから、ロボデキさんと猛勉強をしていました。
「つばさくんは、お昼は、いっしょに食べましょうね」
「うん、楽しみにしてる」
「それじゃ、顔を洗ってきてください。すぐにご飯ですよ」
つばさくんが洗面所に行くのを見て、みんなの食事の準備をしました。
「おっはよ~!」
そこに、階段を駆け下りて、元気に挨拶をする、みずほちゃんがやってきて、後ろから抱きついてきました。
「おはよう、ロビン」
私は、すぐにその場にしゃがんで、みずほちゃんを見ます。
「みずほちゃん、もう、大丈夫なの?」
「うん、昨日、ロビンと寝たから、もう元気モリモリよ」
そう言って、元気に笑います。
「えっ~! みずほだけずるいよ。ぼくもロビンお姉ちゃんと寝たかったな」
「こら、つばさは、男の子でしょ」
さくらさんに叱られて、つばさくんは、笑いながら舌を出します。
「いいですよ。今度、つばさくんもいっしょに寝ましょう」
「やった!」
「なにが、やっただ。もう、赤ん坊みたいなこと言うな。 そんなに寝たいなら、俺が寝てやる」
「やだよ。お兄ちゃんは、寝相が悪いんだもん」
朝から賑やかでした。やっぱり、こうでなくてはいけません。私は、うれしい気分で朝食の準備をします。
みずほちゃんは、元気になったのか、朝ご飯もペロリと食べてくれました。
こだまくんは、ご飯を食べると、すぐに着替えて試合に向かいます。
さくらさんもカバンを持って、家を出て行きました。
みずほちゃんとつばさくんは、リビングでテレビを見たり、ゲームをして過ごしています。
その間に、私は、洗濯と掃除をします。お昼になって、昼食に、うどんを作ることにしました。
みずほちゃんでも食べられるように、温かい卵とじうどんにしました。
お昼ご飯を食べると、洗濯物が乾くまでの少しの間、時間が空きます。
「ねぇ、こだまちゃん、今日は、試合なのよね?」
「そうですよ」
「どこでやってるんだっけ?」
「確か、こだまくんの学校のグラウンドのはずですよ」
「だったら、見に行ってみない?」
みずほちゃんが言いました。
「それいい。お兄ちゃんを応援しに行こうよ」
つばさくんも言い出します。
「でも、いいのかしら?」
「いいわよ。こっそり、覗くだけならいいでしょ」
「そうですね」
そんなわけで、私たちは、三人でこだまくんの学校まで行ってみることにしました。暑さ対策に、水筒を持って、ちゃんと帽子も被って、お出かけします。
こだまくんの中学校までは、歩いてすぐです。行ってみると、すでに、試合が始まっているようで校庭から生徒たちの声が聞こえました。
私たちは、学校の裏口からそっと入って、目立たないように、校庭が見える防風林に隠れて見学します。
「どれが、こだまちゃんかわからないわ」
似たようなユニフォームを着ている男子生徒ばかりなので、初めて見る私たちには、見分けがつきません。
「あっ、アレだよ。あの白い11番を付けているのが、お兄ちゃんだよ」
つばさくんが、声を出して指を刺します。私は、目のピントを合わせて、こだまくんを見つけました。
「みずほちゃん、あそこでボールを蹴ってるのが、こだまくんよ」
そう言うと、みずほちゃんも元気一杯で、拳を握っていました。
試合の方は、2対1で、負けていました。こだまくんは、キャプテンみたいで、他の人たちに指示を出したりボールを追いかけていました。
次第に、興奮してきた私たち三人は、気が付いたら、陰から身を乗り出して、大きな声を出して応援していました。
「こだまく~ン、がんばってぇ!」
「おにいちゃ~ン、がんばれぇ」
「こだまちゃん、いけぇ~」
私たちは、三人で叫んでいました。
「いけいけ、こだまちゃ~ン」
「おにいちゃ~ン、がんばれぇ~」
そんな声が届いたのか、こだまくんがゴールを決めました。
「やったぁ~!」
「こだまちゃん、すごい!」
「こだまく~ン、カッコいいわよぉ」
私たちは、大きな声で喜び合いました。
すると、私たちに気が付いたのか、こだまくんが走ってきました。
「こらぁーっ! お前ら、何してんだ」
「なにって、応援しに来たに決まってるでしょ」
「来るんじゃないよ」
「なによ、応援してあげてるのに、こだまちゃんて、失礼だわ」
「とにかく、出て行け」
こだまくんとみずほちゃんが言い合いになりました。
「ごめんなさい。私が、見に行きたいって言ったから・・・」
「なにを言ってんだよ。どうせ、こいつらが行くって言いだしたから、お前が付いてきたんだろ」
こだまくんにズバリ言い当てられて、私も言い返せなくなりました。
「とにかく、今は試合中だから、見たいなら静かに見ろ。いいか、声出すなよ」
こだまくんに悪いことをしたなと思っていると、チームメートの人たちもやってきました。
「何々、この人たち?」
「すごく美人じゃん」
「こだまの知り合い?」
「こだまのお姉さんて、高校生じゃなかったっけ?」
「この人、誰? 紹介しろよ」
今度は、私たちが生徒たちに囲まれてしまいました。
「あの、私は、こだまくんのお家の家政婦をしている、ロビンと申します」
「えーっ! 家政婦って、お手伝いさんのこと?」
「お前、すごいじゃん」
「そんなこと、知らなかったよ」
「こだま、お前、こんな美人のお姉さまと暮らしてるって、羨ましすぎるぞ」
「お前ら、うるさい。まだ、試合の途中だろ」
こだまくんは、チームメートの人たちを無理やり校庭に誘い出します。
「ロビン、みずほ、つばさ、お前らも帰れ」
「え~っ、見ててもいいじゃん」
「ダメったら、ダメ! お前ら、帰ったら説教だから覚えとけよ」
こだまくんは、そう言って、グラウンドに戻っていきました。
仕方がないので、私たちは、学校を出て、買い物に行くことにしました。
「こだまちゃんて、融通が利かないのよね」
「そうだよ。せっかく、応援したのに、お兄ちゃんて話がわからないよね」
ブツブツ言っている二人を取りなします。
「まあまあ、二人とも。こだまくんは、試合に集中したかったから、仕方がないですよ」
それでも、こだまくんは、チームの中心として、人気もあって、サッカーも上手で、ゴールを決める姿を見られたことが、私もうれしかったのです。
「お前ら、反省してんのか!」
買い物を終えて、帰宅した私たちを待っていたのは、怒り心頭のこだまくんでした。
「ロビンまでいっしょになって、あの後、みんなの質問攻めにあって、試合どころじゃなかったんだぞ」
「ごめんなさい」
「ごめんじゃないんだって。みんな、俺んちに来たいとか言って、断るの大変だったんだぞ」
「こだまくん、ホントにごめんなさい」
「みずほ、つばさ、お前らも夏休みだからって、遊んでないで、宿題とかやれよ」
「こだまちゃんのケチ」
怒られても、みずほちゃんもつばさくんも、ちっとも反省しているようには見えません。むしろ、嬉しそうにしていました。
「もう、いいでしょ。みんな反省してるんだから、試合にも勝ったんだし、こだまもいい加減にしなさい」
勉強会から帰ってきたさくらさんが、私たちを庇ってくれます。
「今度、見に来たら、承知しないからな」
「ハイ、わかりました」
私は、そう言って、きちんと謝りました。でも、みずほちゃんとつばさくんは、笑っているだけです。
「ロビンさん、口ではあんなこと言ってるけど、実は、見に来てもらいたかったのよ。応援してくれて、うれしかったに決まってるわ」
「そうなんですか?」
「そうよ。こだまは、口下手だからね。特に女子にはね。素直になれないのよ。あれじゃ、しばらく彼女は出来そうにないわね」
さすが、こだまくんのお姉さんだけに、さくらさんは、冷静でした。
私は、まだまだこだまくんのことがわかっていません。もっと、こだまくんのことを理解しなくてはいけません。
そんなことがあってか、この日の夕食のときは、こだまくんに口を聞いてもらえませんでした。
「あの、こだまくん、ご飯のお代わりは?」
そう言っても、黙って、お茶碗を差し出すだけでした。
「こだま、いい加減にしなさい。ロビンさんが可哀想でしょ」
さくらさんがそう言っても、こだまくんは、横を向くだけでした。
「気にしなくていいからね。まったく、素直じゃないんだから、困ったもんね」
さくらさんがどんなに言っても、こだまくんは、なにも言ってくれませんでした。
そんな時、今度は、つばさくんが言いました。
「あのさ、夏休みの宿題で、絵日記を書くんだけど、なんかないかな?」
「そうね・・・ 友だちと遊びに行ったとか、書けばいいんじゃない」
「そんなのいつもだもん。もっと、違うことを書きたいの」
つばさくんは、口を尖らせてさくらさんに言います。
「そう言われてもねぇ・・・」
さくらさんが困っていると、みずほちゃんが言いました。
「ねぇ、それなら、みんなで、海に行かない?」
「あっ、それいい。海に行こうよ。海水浴したい」
「海ねぇ・・・ そう言えば、アンタたちは、行ったことなかったのよね」
「そうよ。さくらちゃんとこだまちゃんは、行ったことあるんでしょ」
「ずっと、小さかったころだから、余り覚えてないけどね」
「だから、ぼくも行きたい」
つばさくんが言い出しました。
「どうする、こだま?」
「別に、お前らだけで行ってくれば」
「ダメよ。子供たちだけじゃ、危険だもの。行くなら、みんなで行かなきゃ」
「ロビンがいるだろ。俺は、部活の練習があるから行かない」
こだまくんは、まだ、根に持っているのか、みんなの話の輪に入ろうとしません。
「ねぇ、お兄ちゃんも海に行こうよ」
「ダメ、行くなら、お前らだけで行ってこい」
「そんなこと言わないでさぁ・・・ みんなで行った方が楽しいよ」
「俺は、それどころじゃないの」
つばさくんが甘えた声を出しても、こだまくんは相手にしません。
「こだまちゃん、ホントに行かないの?」
「行かないよ」
「あっそ。それじゃ、いいわよ。さくらちゃんは、行くわよね」
「あたしは、行ってもいいわよ。海なんて、久しぶりだしね」
「ロビンは?」
「私は・・・ その、海というのは、知っていますが、行ったことがなくて、そのなんていうか・・・」
私は、こだまくんのことが気になって、ハッキリ返事ができません。
「行くの行かないの?」
「ハイ、行きます」
私は、みずほちゃんに強く言われて、つい行くと言ってしまいます。
「これで決まり。こだまちゃんは、お留守番ね」
「フン」
こだまくんは、そっぽを向いてしまいました。
「でもさ、いいのかしらね。海と言えば、水着でしょ。さくらちゃんもロビンも、水着を着るのよ。さくらちゃんもロビンも、美人だし、スタイルもいいし、それで、水着だったら、周りの男の人たちが放っておかないと思うけどなぁ・・・」
「ちょっと、みずほ、言い過ぎよ」
「なにを言ってるのよ。さくらちゃんも、もっと自信を持っていいのよ。ロビンだって、水着を着たら胸がボーンと出て、足も長いし、モテモテよねぇ」
私は、自分でも顔が赤くなるのがわかって、下を向いてしまいました。
「さて、そこで、問題です。そんな時、さくらちゃんやロビンを守ってくれる、男の人は、誰でしょう?」
みずほちゃんが、ドヤ顔でこだまくんに迫ります。
困ったのは、こだまくんです。額に皴を寄せて、難しい顔をしています。
そして、頭をグシャグシャにかき回すと、こちらを向いて言いました。
「わかったよ。行けばいいんだろ、行けば」
「そういうこと」
みずほちゃんは、勝ち誇ったような顔で言います。
「それじゃ、みんなで行くことに決定ね」
「やったー!。 これで、絵日記が書けるぞ」
「ロビン、アンタも行くんだからね」
「ハイ、わかりました」
私は、こだまくんも行くというので、うれしくなりました。
「こだまくん、よろしくお願いします」
「だいたい、お前、泳げるのか?」
「ハイ、水の中でも息もできるし、500メートルくらい潜れます」
「そっか・・・ お前は、万能だもんな」
こだまくんは、呆れたような顔をしていますが、私は、笑顔でした。
「でもさ、ロビンさん、大丈夫なの。海は、塩水なのよ?」
「ハイ、人工皮膚があるので、平気です」
さくらさんに、私は、明るく言いました。
「それじゃ、みんなで、水着を買いに行きましょう」
みずほちゃんが、言いました。
「それは、そうよね。考えてみれば、あたしもこだまも、学校仕様の、あのつまんない水着しか持ってないものね。子供の頃の水着は、小さくて着れないし、新しいを買うしかないわね」
「ぼくもスクール水着しか持ってないよ」
「つばさは、まだ、子供なんだから、それで十分」
「え~っ、ヤダヤダ、ぼくも欲しい」
つばさくんが、猛抗議をします。
「そうですね。この際だから、みんな新調しましょう」
「ロビン、いいこというわね」
「ぼくも、ロビンお姉ちゃんに賛成!」
「まったく・・・」
こだまくんは、口元が少し緩んだように、小さく笑いました。
やっと、表情が戻ったようで、私は、ホッとしました。
「それじゃ、明日、みんなで買いに行こうよ」
「どうする、こだま? 明日は、練習は休みなんでしょ」
「そうだけど、俺は行かない。姉ちゃん、適当に買ってきてよ」
「それは、いけませんわ。自分で着るものですから、ちゃんと、自分で選ばないといけませんよ。それに、みんなで水着を選んで買うなんて、楽しいじゃありませんか」
「別に、俺は、何でもいいし・・・」
「そんなこと言わないで、せっかくだから、おしゃれな水着を着てみませんか?」
「バ、バカ・・・なにを言ってんだよ」
そう言って、こだまくんは、なぜか顔を赤くしていました。
それを見て、さくらさんとみずほちゃんが、顔を見合わせて、意味深な笑みを浮かべていました。
「とにかく、明日、買いに行くから、そのつもりで、みんなどんなのが欲しいか、
考えておくように。もちろん、ロビンさんもよ」
さくらさんに釘を刺されてしまったけど、私は、海水浴とか水着とか、初めてなのでよくわかりません。
「まったく、世話が焼ける、世間知らずの家政婦さんね」
みずほちゃんがそう言いながら、雑誌を見せてくれました。
それは、夏の水着特集という記事で、いろいろな水着を着たモデルさんの写真がたくさん載っていました。
「こんなのを着るんですか?」
「そうよ。ロビンは、スタイルがいいんだから、こんなの似合いそうよね」
そう言って、指を刺したのは、ビキニスタイルの写真でした。
胸と下半身しか隠れていない、小さな生地だけの水着でした。
「これは、いくらなんでも・・・」
「なにを言ってんのよ。若いうちは、出し惜しみしないのよ。こんなの若い時しか着られないんだから、
今のウチに、着ておきなさい。これを貸してあげるから、明日までによく勉強してよ」
そう言って、みずほちゃんは、部屋に入ってしまいました。
その後、夕飯を食べているときも、私は、あの雑誌のことが気になって食事に集中できませんでした。
今夜の夕飯は、みんな大好き、から揚げと生姜焼きに野菜サラダです。
みんなは、モリモリ食べてくれて、山のように作ったから揚げも、あっという間に完食です。
「今夜もうまかった。ごちそうさま」
「どういたしまして。たくさん食べてくれて、うれしいです」
みんなにそう言われるのが、家政婦ロボットの私にとっては、一番うれしい言葉です。食器の片づけを済ませて、お風呂の順番を待っているとき、私は、例の雑誌をぼんやり眺めていました。
「どう、ロビンさん、水着は決まった?」
さくらさんに言われて、私は、返事に困りました。
「ロビンさんなら、何でも似合うと思うわよ」
「そうでしょうか?」
「みずほも言ってたけど、自信を持っていいと思うよ」
そう言われても、私は、どんな水着がいいかなんて、わかりませんでした。
「さくらさんは、決めたんですか?」
「うん。せっかくだから、ちょっと、大胆なのがいいなって思ったの」
そう言うと、指を刺したのは、ストライプ模様のビキニの水着でした。
「こ、これですか?」
「そうよ。スクール水着なんて着たくないしね。せっかくの海なんだから、思いっきり素敵なのを着てみたいの」
私は、返事に困って、その写真を見詰めるだけでした。
「迷ってるなら、あたしと同じのにしようか」
「えっ、私も、この水着ですか?」
「そうよ。色とかデザインは、違うけど、基本はこれよ」
「私がですか?」
「そうよ」
「大丈夫でしょうか?」
「平気、平気。どうせ、こだまなんて、恥ずかしくて見てないし、どうってことないわよ」
結局、さくらさんの推しに負けた私は、同じビキニスタイルの水着を選びました。
でも、実際に買うまでは、こだまくんには、ないしょです。
それから、こだまくんとつばさくんがお風呂から出てくるまで、さくらさんとどれにしようか、雑誌を見ながらおしゃべりしていました。さくらさんと、こんなに盛り上がってお話ができたのはきっと、これが初めてかもしれません。私は、そんな楽しそうに笑う、さくらさんの横顔を見てなぜか、良心回路が熱くなってくるのを感じました。この気持ちって、なんなのか?
ロボットの私が知るには、きっと、難しいのかもしれません。
「風呂、出たよ」
こだまくんの声が聞こえてると、私とさくらさんは、慌てて雑誌を隠しました。
「ねぇ、今日は、あたしもいっしょに入ってもいい?」
「ハ、ハイ、いいですよ」
「それじゃ、先に入ってて。あたしは、みずほを連れてくるから」
そう言って、みずほちゃんを呼びに行きます。私は、先に一人で浴室に向かいました。
服を脱いで、湯船に入っていると、後からみずほちゃんとさくらさんが裸で入ってきました。
「今日は、三人で入るんだ」
「ちょっと、三人は、狭いけど、それもたまにはいいよね」
「ハイ」
女同士三人で入るお風呂は、楽しくて気持ちよくて、ホントに幸せでした。
さくらさんが、みずほちゃんの頭を洗いながら、さっきの水着の話の続きをします。
「ロビンさんて、ホント、スタイルいいし、胸も大きいし、さっきのビキニは似合うわよ」
「さくらさんも、似合うと思いますよ」
「だったら、あたしも・・・」
「みずほは、10年早い」
そう言って、三人で笑いました。浴槽にさくらさんと向かい合って膝を立てて肩まで入ります。
みずほちゃんは、さくらさんの間に小さく座って、お湯につかります。
「やっぱり、三人は、無理があったね」
「でも、こんなのも嫌いじゃないわ」
さくらさんとみずほちゃんが笑います。二人とも、頬がほんのり桜色に染まっていました。それが、とてもきれいに見えて、私には、とても眩しく映りました。
「ちょっとロビンさん、失礼するわね」
そう言うと、さくらさんは、おもむろに私の胸に手を当てました。
「あ、あの・・・さくらさん、なにを・・・」
「うんうん、ロビンさんは、だいたいDカップくらいかな。バストも90センチくらいはありそうね」
「えっと、その・・・」
「ごめん、ごめん。ロビンさんて、自分の体のサイズとか、わかってないでしょ」
「ハ、ハイ」
「水着を着るなら、ちゃんと知っておかないと、ダメよ」
さくらさんには、女性として、いろいろ教わることが多い。また一つ、勉強になりました。
「ちなみに、あたしは、85センチのCカップだから、ロビンさんのが一回りくらい大きいわ。だから、明日、水着を買うときは、自分の体に合うのを見つけてよ」
「ハイ、わかりました。さくらさんには、いろいろ教わることがあって、とても助かります」
「なにを言ってんのよ。お礼を言うのは、こっちの方よ。いつも、洗濯に掃除に食事まで、全部やってもらってるんだから、気にしないでね」
さくらさんが、明るく言いました。
「ねぇ、さくらちゃん、あたしもロビンみたいになりたい」
「すぐになるわよ。今は、ベッタンコの胸も、そのウチ、ドーンと大きくなるから、待ってなさい」
そう言って、私は、さくらさんと笑いました。
それから、お風呂から上がって、髪を乾かしていると、つばさくんがミルクを飲みながらやってきました。
「ロビンお姉ちゃん、お風呂でみずほとお姉ちゃんと、何を話してたの?」
「明日のことよ」
「いいなぁ・・・ ぼくもみんなとお話ししたかったなぁ」
「そうですね。今度、つばさくんとも、ゆっくりお話ししましょうね」
「うん」
つばさくんは、そう言うと、残りの牛乳を飲み干すと、おやすみと言って、元気よくお部屋に入っていきました。
みずほちゃんも元気だけど、つばさくんは、男の子だから、いつも元気な姿を見るのが好きでした。
こだまくんは、早々と部屋に戻ってしまって、みずほちゃんはさくらさんと寝てしまいました。
私は、一人になって、テーブルに座って、部屋の周りを見渡しながら、自分の置かれた立場とこのウチのぬくもりと、心が温かくなるのを感じていました。
「機械なのに、心なんて、おかしいわね」
私は、独り言のように呟いて、私も自分の部屋に戻りました。
翌朝も比較的ゆっくり起きて、朝食を食べると、私は、みんなといっしょに、駅前のショッピングセンターに水着を買いに行きました。
自然と、さくらさん、みずほちゃんと顔を合わせると、笑っている自分がいました。
「お兄ちゃんは、どんな水着にするの?」
「俺は、何でもいいよ」
「ぼくは、ヒーローの画が付いてるのがいいな」
「つばさは、そろそろそう言うの卒業した方がいいぞ」
「え~、だって、カッコいいんだよ」
「わかった、わかった。好きなの買え」
こだまくんとつばさくんは、男同士だけど、今一つ会話が成り立っていません。
そんな様子を後ろから見ながら歩いていると、おかしくなってしまいました。
ショッピングセンターに着くと、水着売り場に向かいます。
「それじゃ、ここで男女に別れましょう。こだま、ちゃんとつばさの水着も見てやるのよ」
「ハイハイ、面倒臭いんだけどなぁ」
「それじゃ、こだまくん、また、後でね」
私は、そう言って、こだまくんに手を振ります。すると、こだまくんがそっとやってきて、私の耳元言いました。
「おい、あんまり、派手なの買うなよ」
「ハイ、わかっています」
私は、安心させるように笑って答えました。でも、こだまくんは、不安一杯という顔をしていました。
それからは、さくらさんと打ち合わせしたように、おしゃれ水着のコーナーに向かいました。
「こんなのどうかしら?」
「これもありますよ」
「こっちもいいわよね」
「どれも可愛くて、どれにしていいか迷いますね」
私とさくらさんは、みずほちゃんが呆れ顔で見ているのも忘れて、水着選びに夢中になっていました。しばらくすると、つばさくんがやってきました。
「お姉ちゃんたち、まだなの?」
私とさくらさんは、時間を忘れて夢中になっていました。
「ごめんなさい。もうすぐですから、ちょっと待っていてください」
私は、つばさくんに謝って、急いで水着を選びました。
結局、私は、白にブルーのストライプのビキニで、さくらさんは、ライトグリーンのビキニを選びました。
そして、みずほちゃんは、フリルのパレオ付きの可愛い花柄の水着です。
「お待たせ。ごめんね、待たせて」
「姉ちゃんもロビンも遅い。だから、女の買い物は、付き合うのがイヤなんだよ」
「こだまくん、ごめんなさい」
私は、両手を合わせて謝りました。
「まぁ、いいよ。他にブルーシートとか、タオルとか、必要な物を買うぞ」
「でも、そんなに荷物が多かったら、持って行けないわよ」
「しょうがないじゃん。五人分なんだから、それなりに荷物はあるぞ」
さくらさんとこだまくんが、話し合いを始めました。
「それとさ、電車で行くの。車は無理でしょ」
「なぁ、ロビン、お前、車は、運転できるのか?」
「ハイ、出来ますよ」
「それじゃ、レンタカーでも借りる?」
「無理無理、あたしたち、みんな未成年だもん。いくら、ロビンでも、借りられないわよ」
「それじゃ、この荷物を電車で持って行くのかよ?」
「しょうがないでしょ。荷物持ちは、アンタの役目だからね」
「ったく、だから、海水浴なんて、行きたくなかったんだよ」
こだまくんの愚痴が聞こえました。その時、またしても、私の電子頭脳が閃きました。
「皆さん、お待ちください。荷物は、お任せください。海までの交通手段も、安心してください」
私は、唖然とする四人の前に立って、胸を張って言いました。
「おい、ロビン、何をする気だ?」
「こだまくん、荷物持ちは、しなくても構いませんわ」
「ハァ、なにを言ってんだ、お前は・・・」
「私が、知り合いに連絡して、海まで連れて行っていただきます」
「まさか・・・」
「もしかして・・・」
「また・・・」
「ロボットなの?」
四人の声が順番に驚きの声に代わりました。
「ハイ、そうです」
私は、思いっきり笑顔で微笑みました。
「マジかよ・・・」
「ねぇ、どんなロボットなの?」
「それは、明日のお楽しみですよ」
私は、つばさくんに微笑みながら、唇に人差し指を当てて、ないしょの仕草を見せました。
こうして、初めての水着を買って、私は、ワクワクする気持ちを抑えきれませんでした。明日が楽しみです。きっと、初めての海水浴は、楽しくなりそうです。
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