第11話 ロビン、家族になる
お祭りの夜や誕生日をきっかけに、こだまくんも私にたくさん話しかけてくれるようになりました。
逆に、私の方が意識して、緊張するほどでした。ロボットなのに、おかしいですね。
そんなある日のことでした。今日は、少し早めに夕飯の買い物に行くことにしました。今日は、スーパーでバーゲンの日なので、安く食材が買えます。
今夜は、何にしようかと考えて、生姜焼きを作ろうと思って、買い物をした帰りでした。
学校から帰ってきた、みずほちゃんとつばさくんと会いました。
「みずほちゃん、つばさくん、今、お帰りですか?」
「うん、きょうは、予定もないから、ウチで遊ぶの」
「それじゃ、三人で、ゲームでもしましょうか」
「ぼく、トランプがいい」
「ハイ、それじゃ、早く帰って、遊びましょうね」
私は、三人と並んでおしゃべりしながら帰りました。
すると、家の前に、黒塗りの車が一台止まっているのが見えました。
お客様かと思って近づくと、中から白衣を着た男の人が二人出てきました。
「久しぶりだね、ロビン」
「元気そうですね」
私に話しかけてきた白衣の男の人は、博士の研究所の人たちで、私を作ってくれた人たちなので顔は覚えていました。
「ご無沙汰しています」
私は、丁寧に挨拶しました。すると、白衣の男の人が、思いもよらないことを言いました。
「迎えに来たんだよ」
「ハァ?」
「ロビン、お前の役目は終わったんだ。研究所に帰るぞ」
私は、突然のことに、意味がわかりませんでした。
「車に乗りなさい。博士が待ってる」
そう言って、車のドアを開けました。私は、なにを言ってるのか、急いで電子頭脳で考えました。
この人たちは、私を迎えに来た人たちです。だけど、なぜ、迎えに来たのかわかりません。
「なにをしている。早く、乗りなさい」
「でも・・・」
「でもじゃない。お前の役目は、終わったんだ。早く乗りなさい」
そう言われても、私は、帰りたくありませんでした。役目が終わったと言われても、私にとっては、まだ、終わっていません。この子たちが、立派な大人に成長して、独立するまでは、ここにいると決めているのです。
「早くしなさい」
「すみません。私は、まだ、帰れません」
私は、そう言って、頭を下げました。
「なにを言ってるんだ、お前は? 家政婦としての役目は、終わったんだ。博士の命令で、お前を連れ戻しに来たんだ。だから、早く乗りなさい」
「博士が・・・」
「そうだ。博士だ。いいから、早く乗りなさい」
「私は、まだ・・・」
「いいから、早く乗れ。ロボットは、人間の言うことには、逆らえないはずだ。おとなしく言ってるうちに早く乗れ」
そう言うと、いきなり私の腕を掴みました。
「離してください」
私は、思わずその手を振りほどきました。
「なんだ、その真似は。人間に逆らうつもりか?」
「それは・・・」
「わかったら、早く乗れ」
そう言って、もう一度、私の腕を掴みました。
「離しなさいよ」
「ロビンお姉ちゃんに何をするんだ」
その時、みずほちゃんとつばさくんが、白衣の男の前に進み出ました。
「キミたち、博士のお子さんだね」
「そうよ」
「このロボットは、もう、お役御免なんだ。だから、帰るんだよ」
「ロビンは、ロボットじゃないわ」
みずほちゃんが、大声で叫びました。
「お嬢さん、なにを言ってるんだい。ロビンは、機械なんだよ。ロボットなんだ」
「違う! ロビンお姉ちゃんは、ぼくのお姉ちゃんなんだ。機械なんかじゃない」
つばさくんの一言が、私の胸を突き刺さりました。
「離せよ。ロビンお姉ちゃんに何をするんだ」
つばさくんが、白衣の男に掴みかかりました。
「つばさくん・・・」
白衣の男がつばさくんを突き飛ばしました。
「つばさくん!」
「ロビンお姉ちゃんを離せよ」
いつも泣き虫で、こだまくんの後ろに隠れているつばさくんが、突き飛ばされても泣くどころか怒りを顔に出して立ち上がると、白衣の男にしがみ付いてきました。
「こら、離せ!」
「離すもんか。ロビンお姉ちゃん、ぼくが、助けるからね」
「うるさい、離せ」
「離すのは、アンタたちの方でしょ。ロビンを離しなさいよ」
今度は、みずほちゃんまで掴みかかってきました。
「やめてください。二人に乱暴しないでください」
私は、白衣の男の腕を掴んで離します。
「機械のくせに人間に手を出すと、どうなるかわかってるのか?」
「わかりました。帰ります。だから、この子たちには、手を出さないでください」
「わかればいいんだ。だったら、早く乗れ」
私は、しゃがんでみずほちゃんとつばさくんの頭を撫でながら言いました。
「ごめんね。私、帰らなきゃいけないみたいなの。これで、お別れね。みずほちゃん、つばさくん、元気でね」
「なにを言ってるのよ、ロビン。約束したでしょ。ずっと、ここにいるって忘れたの?」
私は、ゆっくり首を横に振りました。忘れるわけがありません。
あの時に、約束したことを・・・
「ロビンお姉ちゃん、行っちゃやだよ。行かないでよ」
「つばさくん、泣かないで。私は、ロボットだから、人間の言うことを聞かないといけないの」
つばさくんは、涙で顔が濡れていました。その顔を見るのが、私には、つらくて仕方がありません。
「イヤよ。私は、イヤ。ロビンがいなくなるなんて、私はイヤ」
「みずほちゃん・・・」
「こいつらの言うことなんて聞かなくていい。アンタは、このウチにいるの。どこにも行っちゃいけないの」
「ごめんなさいね。でもね、私は、行かなくちゃいけないの。これは、今夜のご飯のオカズよ。夕飯を作れなくて、ごめんね」
「なにを言ってるのよ。アンタ、ウチの家政婦でしょ。あたしたちを置いて、勝手に出て行かないでよ」
「ごめんね。みずほちゃん、ホントに、ごめんね」
私は、最後まで泣かないみずほちゃんを抱きしめました。その時、私の頬にも涙が伝っていました。
「つばさくん、ごめんね。こだまくんと、さくらさんに、お別れできなくて、ごめんなさいね」
「ロビンお姉ちゃん・・・ イヤだよ、どこにも行っちゃイヤだよ」
「さぁ、行くぞ」
白衣の男は、私の腕を取って車に乗せました。
「ロビン!」
「ロビンお姉ちゃん」
車がすぐに走り出しました。後ろから、二人が追いかけてきます。
「ロビーン!」
「ロビンお姉ちゃ~ン」
二人の姿が小さくなっていきます。その途中で、つばさくんが転んでしまいました。
「あっ!」
私は、思わず声を出したところで、二人は小さくなって、見えなくなってしまいました。
「ロボットなのに泣くなんて、やっぱり、お前は、すごいロボットだな」
白衣の男の一言は、聞こえていませんでした。
私は、車に揺られながら、こだまくんとさくらさんの顔を思い出しました。
最後にお別れできなくてごめんなさい。私は、心からそう思いました。
そして、それが最後でした。なぜだか知らないうちに、私は、体の機能を失っていました。
体のスイッチが起動したようです。私の意識が次第に消えて行くのがわかりました。
私は、どこにいるのだろう? なんとなく意識があるのに体が動かない。
眼を開かない。真っ暗闇の中で、何も見えない。私は、どうしたんだろう?
電子頭脳がぼんやりとしか動かないので、何も考えられない。
その時でした。ロボットだから夢など見ないはずなのに、ぼんやりと電子頭脳に、なにかが見えていました。
なんだろう? 誰だろう? わからないけど、なにかが見えました。
すると、暗闇の中から、一筋の光が見えてきました。
そのうちに、今度は声が聞こえてきました。誰かが私を呼んでいる声です。
それは、私の名前でしょうか? 私は、機械。ロボットだから、名前はありません。
でも、誰かが私を呼んでいる。その声、その名前は、聞いたことがありました。
そうだ。私は、その声の人を知っている。聞いたことがある、その声を忘れない。
忘れるわけがない。忘れちゃいけない、その声は・・・
「ロビン、ロビン」
「ロビンお姉ちゃん、起きてよ」
私は、その声を知っている。忘れてはいけない人たちの声です。
だけど、なぜ聞こえるのだろう?
「ロビン、起きなさいよ。いつまで寝てるのよ」
「ロビンお姉ちゃん、ぼくだよ、つばさだよ。起きてよ・・・ うわぁ~ン」
子供が泣いている。なんで泣いてるの? 悲しいの? 寂しいの?
「ロビンさん、起きなさい。みんな、あなたを迎えに来たのよ」
私を迎えに来た? そんな人いるわけがない。私は、ロボット。機械の私を迎えに来る人なんているはずがありません。
「ロビン、俺のことを忘れたのか? ロビン、俺だぞ。こだまだぞ」
私を呼ぶ声が大きくなりました。誰だろう?
「みずほよ、忘れたの?」
「ぼくだよ、つばさだよ。起きてよぉ・・・ うわぁ~ン、ロビンお姉ちゃ~ン・・・」
「あたしよ、さくらよ。ロビンさん、みんなで迎えに来たのよ」
「ロビン、お前を迎えに来たんだ。さっさと起きろよ」
みんなが私を呼んでいる。そうだ、私の知ってる人たちの声だ。
忘れてはいけない人たちの声だ。こんなところで、なにをしているの?
私は、目を覚まさないといけない。みんなが迎えに来ている。
「ロビン!」
「ロビンお姉ちゃん」
「ロビンさん」
「ロビン」
その時、私の良心回路が少しずつ動き出しました。感情回路が暖かくなってきました。頭の中に、いろいろなことが思い出してきました。
海水浴に行ったこと、お祭りの夜のこと、買い物にったり、ご飯を作ったり、
泣いたり笑ったり、楽しかった日々のことが、少しずつ思い出してきました。
電子頭脳から信号が伝わり、忘れてはいけない人たちの名前と声。私の頭に、ハッキリ思い浮かびました。
「ロビン、起きてよ。あたしよ、みずほよ。起きてよ、ロビン」
「あぁ~ン、ロビンお姉ちゃ~ン、目を覚ましてよ。ぼくだよ、つばさだよ」
「ロビンさん、さくらよ、起きてよ。みんないるよ。みんな待ってるのよ」
「ロビン。お前、勝手に出て行くなって、言っただろ。俺が迎えに来てやったんだ。起きろ!」
そうよ。私は、寝ている場合じゃない。その声、あの顔、私の可愛い子供たち。
みずほちゃん、つばさくん、さくらさん、こだまくん。忘れてはいけない子供たち。
その時、私は、はっきりと意識を取り戻したのです。
「ロビン!」
「ロビンお姉ちゃん、ぼくが見える」
うっすら開けた目に、あの子たちが見えました。
「ロビンさん、起きて。ちゃんと目を開けて」
開いた目から、なぜか、冷たいものが流れました。
「ロビン、見えるか。俺が、見えるか」
その声を聞いて、私は、目をはっきり開けました。
「親父、早くここからロビンを出せ」
「パパ、お願いだから、ロビンを出して」
私は、目を開けると、なにかカプセルのようなものの中に寝ていました。
身体には、白いシーツのようなものがかけられているだけで、手足がしびれて動きません。
「お父さん、ロビンさんをどうするつもりなの? 早く、ここから出してあげて」
「ロビンお姉ちゃんを助けてよ」
みんなが私のために必死でした。なのに、私は、泣くだけで何もできません。
その時、ゆっくりと、カプセルの蓋が開きました。
「ロビン、しっかりしろ。俺がわかるな」
「こ、こだまくん・・・」
「そうだ、こだまだ。お前を迎えに来たんだ。もう、大丈夫だ。俺が助けてやる」
「こだまくん」
私は、こだまくんに抱き起されました。すると、不思議なことに、動かないはずの腕が動いてこだまくんを抱きしめていました。
「ロビン、俺がわかるんだな」
「ハイ」
「いっしょに帰るぞ。俺たちのウチに帰るんだ」
こだまくんが私を抱きしめて言いました。
「ロビン、うぇ~ン、ロビン~」
「ロビンお姉ちゃ~ン」
あの、みずほちゃんが泣いてます。つばさくんも泣いていました。
二人は、泣きながら私に胸に抱き付いて泣いていました。
「みずほちゃん、つばさくん、ごめんね。だから、もう、泣かないで」
「ロビン、いっしょに帰るわよ」
「ハイ、帰りましょう」
私は、ゆっくりと自分の力で起き上がりました。その時、体にかけてあったシーツが落ちました。
「あっ、こだまとつばさは、見ちゃダメ!」
慌てたさくらさんが、裸の私にシーツを巻きつけました。私は、裸だったのです。
「ちょっと、お父さん。ロビンに何をしたの? まさか、エッチなことでもしたんじゃないでしょうね?」
「ロビンに手を出したら、俺は、ぶっ飛ばすぞ」
そこに、白衣を着た博士がようやく姿を現しました。
「親父」
「お父さん」
さくらさんとこだまくんが、久しぶりに会ったお父様に駆け寄ります。
「久しぶりだな、お前たち」
「うるさい、そんなこと聞いてんじゃない」
こだまくんがお父様に詰め寄ります。
「お前たち、ちょっと待ちなさい」
博士が、こだまくんたちに話しかけます。
「よく聞いてくれ。ロビンの役目は、終わったんだ。データもたくさん取れたし、ICチップを交換して、次の家庭に行くことになってるんだ。お前たちには、新しい家政婦を手配してある。だから、これからも安心して生活できるんだ」
「な、なんだって!」
こだまくんが、お父さまの襟首をつかみ上げます。
「お、おい、ちょっと待ちなさい。こだま、落ち着きなさい」
「これが、落ち着いていられるか!」
「それじゃ、聞くけど、ICチップを交換したら、ロビンさんはどうなるの?」
「もちろん、初期化されるわけだから、お前たちのことは忘れる」
「そんな・・・」
さくらさんが、ガックリと肩を落とすのが見えました。
「忘れるって、ロビンが、俺たちのことを忘れるっていうのか」
「そういうことだ」
「ふ、ふざけんじゃねぇぞ」
怒りに任せて、こだまくんが博士を殴りかかりました。
「やめてください。こだまくん、乱暴はいけません。博士は、あなたのお父様なんですよ」
私は、慌ててこだまくんを止めました。
「バカヤロー、離せよ。お前、それでもいいのかよ。俺たちのことを忘れてもいいのかよ」
「そ、それは・・・」
私は、そう言われて、力が抜けてしまいました。
「ロビン、アンタ、あたしたちのことを忘れてもいいの? ずっと、いっしょにいるって言ったじゃない」
「そうだよ、ロビンお姉ちゃんは、ぼくが大きくなっても、いっしょにいるって言ったじゃん」
みずほちゃんとつばさくんが、大粒の涙を流しながら言いました。
「みずほ、つばさ、ロビンの役目は、もう、終わったんだ」
博士がハッキリと言いました。
「終わってない。終わってないわよ。ロビンの役目は、まだ、全然終わってない」
「そうだよ。ロビンお姉ちゃんがいなくなるなんて、絶対イヤだもん」
つばさくんは、涙を拭きながら、真っ赤な目で博士を見上げて言いました。
「お父さん。私たちには、ロビンさんが必要なの。私たちから、ロビンさんを取り上げないで」
「しかし・・・」
さくらさんが、落ち着いた声で気持ちを込めて言いました。
「俺たちの気持ちがわかんないのかよ。ロビンは、もう、俺たちの家族なんだぞ。親父は、俺たちから家族を取り上げるのかよ。それでも、親かよ」
私は、こだまくんの言葉を聞いて、自分はどうしたらいいのか決めました。
「ロビン、お前は、どうなんだ? お前の気持ちは、どうなんだよ」
こだまくんに見つめられて、私は、その目を見返しながら言いました。
「私は・・・」
その時でした。扉が開いて、誰かが入ってきました。
「ロビン、その格好はなんだ? さっさと、服を着なさい」
そう言って、今まで着ていた服を投げました。
「レオン校長!」
そこに現れたのは、ロボット学校の校長先生でした。卒業以来、久しぶりに会いました。私よりも数倍体が大きく、全身が金色に光り輝き、胸に10個のハートマークが光っています。歩くと機械音がして、文字通り機械という感じのロボットです。
「五十嵐博士、お久しぶりです」
「レオン校長、アンタからもロビンに言ってくれないか?」
博士が校長先生に話を振ります。すると、レオン校長が口を開きました。
「皆さん、初めまして。私は、ロボット学校の校長をしている、レオンと申します。
今まで、ロビンのこと、お世話になりました」
そう言われて、こだまくんもさくらさんも、少しは落ち着きを取り戻しました。
「我々ロボットは、人間のために作られました。こちらいる、皆さんのお父上である、五十嵐博士は、私たちを作ってくれた生みの親であります。だから、我々ロボットは、いかなる理由があろうと、逆らうことは許されないのです。だから、ロビンは、博士の命令に従わなければならない。それが、ロボットとして生まれた宿命なのです」
レオン校長は、静かな声で言いました。それは、私がロボット学校で過ごしてきた時からずっと言われてきたことでした。どんな命令でも、私たちロボットは、人間に逆らってはいけない。まして、暴力などは、もっての外です。その時は、どんな理由でも、解体されるのです。
「五十嵐博士のお子様たちなら、わかりますよね」
レオン校長は、そう言って、四人の子供たちを見詰めました。
「しかし、ロビンは、この子たちにとても愛されているようです。ロボットが人間と暮らすことで、自我が芽生え、人間に恋をする。自分で考えて行動する。ロボットと人間が、共に共存する世界なんて素晴らしいと思いませんか? 五十嵐博士、あなたも心の底では、そう願ってロビンを作ったのではありませんか? だから、ロビンを、自分の子供たちのいる家庭に送ったのでは、ないのですか」
私は、思わず顔を上げて、校長を見ました。
「どうですか、五十嵐博士。今一度、ロビンを皆さんの家庭に返してはもらえませんか? 出来ることなら、引き続き、家政婦として、この子たちのお世話をさせてはもらえませんか」
レオン校長からの言葉を聞いて、私の感情回路が熱くなりました。
私は、涙を拭いて、博士にハッキリと言いました。
「博士、私は、ダメなロボットです。私を作ってくれたことには、とても感謝してます。だから、私にとっては、博士は親です。でも、私は、この子たちが好きなんです。こだまくん、さくらさん、みずほちゃん、つばさくん、私を家族と言ってくれたこの子たちのことが好きなんです。だから、みんなと帰りたい。逆らうことを許してください」
私は、そう言って、深く頭を下げました。
「ロビン、お前は、ダメなんかじゃない。今まで、俺たちのことを、ずっと世話をしてきたじゃないか」
「そうだよ。ロビンお姉ちゃんは、ぼくを助けてくれたんだよ」
「ロビンは、あたしと買い物行ったり、遊んでくれたじゃない」
「そうよ。お父さん、ロビンさんは、ちっともダメじゃない」
みんなの一言が、私の心に突き刺さりました。私の電子頭脳が、次の言葉を探しています。でも、なにを言ったらいいのかわかりませんでした。
「ロビン、お前は、ちっともダメなんかじゃない。それに、お前は、ロボットでも機械でもない。俺たちの家族なんだ。そうだろ。そうだよな」
こだまくんは、私の肩を持って、私の目をしっかり見つめて言いました。
その目が潤んでいるのがわかります。
「ハイ、私は、皆さんの家族の一員です」
「よし、帰るぞ。俺たちのウチに、みんなで帰るぞ」
そう言って、こだまくんは、私の手を握りました。
「ハイ」
私もその手を握り返します。その手は、とても暖かくて、安心させてくれました。
「いいな、親父。みんな、俺たちのウチに帰るぞ」
「うん」
「お兄ちゃん、カッコいい」
「バカ、俺は、長男だから、いつもカッコいいんだよ」
「なに、カッコつけてんのよ」
こんな時でも、この兄弟の会話は、聞いていてとても心地いい。
そんな家族の一員なんて言われたら、感動してしまいます。
「待ちなさい。仕方ない、ロビンのことは、お前たちに託す。ただし、月に一度は、点検に来ること。わかったな、ロビン」
博士が苦虫をつぶしたような顔で言いました。
「ハイ、必ず参ります」
私は、元気よく言いました。
「イヤ、ちょっと待て。その時は、俺が付き添いで来るから。ロビン一人で行かせたら、何をされるか、わからないし」
「こだま、親を信用できないのか?」
「出来るわけないだろ。バカ親父」
そう言うと、私の手を取って、部屋を出て行きました。
「待ってよ、お兄ちゃん」
「こだまちゃん、ロビン・・・」
急いで後を追うように出て行く、みずほちゃんとつばさくんです。
一人残ったさくらさんは、レオン校長と博士に丁寧に頭を下げて言いました。
「校長先生、ロビンさんのこと、ありがとうございました。お父さんも、ありがとね」
そう言って、走って私に追いついてきました。
外に出ると、すでに真っ暗でした。夜になっていたなんて、ちっとも知りませんでした。
私は、みずほちゃんとつばさくんと手を繋いで、お家に帰ります。
「もう、夜なんですね」
「そうよ。アンタ、三日もうちを空けて、ずっと寝てたんだからね」
「えっ! そんなに・・・すみませんでした」
「そうよ。謝って済む問題じゃないからね」
みずほちゃんは、そう言って頬を膨らませます。でも、顔は、笑っていました。
「ロビンお姉ちゃんがいない間、大変だったんだよ」
「つばさくん、ごめんなさいね。帰ったら、ご飯を作るからね」
「そうだよ。お兄ちゃんとお姉ちゃんのご飯なんて、おいしくなかったんだよ」
「こら、つばさ」
さくらさんに怒られても、つばさくんは、ニコニコしています。
「言っておくけど、帰っても食事どころじゃないからな」
こだまくんの言ってる意味がわからなくて、振り向くとこだまくんは、笑いながら言いました。
「お前がいなくなって、こいつらが家中、引っかきまわして、大変なんだよ。まずは、掃除からだな」
「そうなんですか?」
そう言うと、二人は、ペロッと舌を出して言いました。
「だって、ロビンお姉ちゃんがどこに行ったのか、わかんなかったんだもん」
「そうらしいわね。この子たちが、ロビンさんがどこに行ったのかわからないから、
家中探し回って、住所とか連絡先とか、探したっきり、そのまんまなのよね」
さくらさんが呆れたように言いました。
「それじゃ、帰ったら、みんなでお掃除しましょう」
私は、そう言いながら、なぜか、心が晴れやかでした。
私は、この子たちから、もう二度と離れたりしません。この子たちに、寂しい思いはさせません。
この子たちが、大人になっても、そばにいようと思いました。
私が愛する子供たち。いつも可愛いみずほちゃん。元気一杯のつばさくん。
家族の中でも一番頼りになるさくらさん。そして、私の大好きなこだまくん。
私は、四人と歩きながら、夜空に輝く星を見詰めてそう思いました。
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