第4話 ロビン、入浴する。

「ただいま帰りました」

 私は、そう言って玄関を開けて中に入りました。

「いつまで買い物してたの。心配したじゃない」

 さくらさんに言われてしまいました。

「すみません。みずほちゃんたちに、商店街を案内してもらっていたので、つい遅くなりました」

「まぁ、それならいいけどね。二人も連れて、邪魔じゃなかった?」

「全然大丈夫ですよ。商店街の皆さんたちにも、ご挨拶できたし、みんないい人たちばかりでこの町が好きになりました」

 そう言うと、私は、リビングに入っていきました。

この町に来てよかった。このお家にきて、よかった。私は、心からそう思いました。

「さぁ、それじゃ、夕飯を作りますね。今夜は、おいしいものを作りますね」

 私は、隣にいる、みずほちゃんたちだけでなく、リビングいるさくらさんとこだまくんにも聞こえるように少し大きな声で言いました。

 買ってきた食材をキッチンにおいて、エプロンを付けます。

まずは、なにからやろうかしら。私は、買ってきた物を見ながら考えます。

すると、みずほちゃんとつばさくんが顔を出してこう言いました。

「ぼくもなんか手伝うよ」

「あたしもやる」

「大丈夫ですよ。これは、私のお仕事ですから、二人は、待っててください」

 私は、前屈みになって、二人の目を見ながら言いました。

「だって、ぼくもなんかやってみたいんだもん」

「あたしだって、料理くらい作れるわ」

 二人は、そう言って、聞きません。それならと、私は、二人に手伝ってもらうことにしました。

「それじゃ、二人にも手伝ってもらおうかな?」

「やったー!」

「さっきの、お菓子のお返しよ」

 喜ぶつばさくんとは反対に、みずほちゃんは、可愛くはにかみながら、駄菓子屋さんのことを言いました。

「そのことは、シーよ」

「わかってるわ。シーね」

 そう言って、私とみずほちゃんは、お互いに人差し指を唇にあてて笑い合いました。

まずは、お米を研いで炊飯器に入れます。ご飯が炊ける間に、ハンバーグの用意をします。

「それじゃ、二人でお肉をよくこねてください」

 みずほちゃんとつばさくんにビニール手袋をさせて、大きなボールにひき肉を粘りが出てくるまでよく練ってもらいました。二人は、粘土遊びをするように、楽しそうにやってくれました。

「なんだか、ネバネバする」

「うわぁ、気持ち悪いぃ」

「たくさん練ると、おいしくなるんですよ」

 私は、そう言って、ハンバークに入れるタマネギを細かく切って炒めます。

色が透明になってきたら、ひき肉に混ぜます。

「タマネギを入れるから、ちょっと熱いわよ」

 そう言って、ボールにタマネギを入れると、塩コショウなど、味付けをします。

「もう一度、よく混ぜてください」

 二人は、楽しそうに手伝ってくれます。これなら、きっとおいしいハンバーグができるでしょう。

粘り気がでてきたら、五等分に分けて、丸くしてから、両手でパンパンとお手玉するように空気を抜きます。ご飯が炊けたら、オムライスの準備です。

 好き嫌いがあるといけないので、ピーマンは少し細かく切って、タマネギもみじん切りにします。

ハムも切って軽く炒めて、ご飯をフライパンに投入します。

五人分を作るので、大きなフライパンがあってとても作りやすいです。

 同時進行で、もう一つのフライパンでハンバーグを焼きます。

両面に焼き目が付いたら、水を少し入れて、弱火にして蒸し焼きにして、中まで火を通します。

 その間に、二人には、サラダを作ってもらいました。

洗ったレタスの水けをきって、食べやすく千切って大皿に入れます。

二人も楽しそうにレタスを千切ってくれました。

トマトとキュウリも切って軽く混ぜてもらいました。

 ご飯と具材が炒めたら、ケチャップを入れて味付けします。

「お皿を出してください」

「ハ~イ」

 二人は、先を争って、お皿を人数分並べます。そこに、ケチャップライスを形よく乗せます。

使ったフライパンにバターを溶かして、卵を入れます。

五人分なので、手早く半生状態のオムレツを作ります。

フライパンを片手で持ちあげながら、焼き過ぎないようにトントン叩いて、形を整えてケチャップライスに乗せます。そこに、ナイフを入れると、中は半生のオムレツが開きます。

「うわぁ、レストランみたい」

 つばさくんが目をキラキラしながら言いました。

「おいしそう。早く食べたいなぁ」

 みずほちゃんも目を輝かせています。

「もう少し待っててくださいね」

 そう言って、手早く五人分のオムレツを焼いて、オムライスの完成です。

そして、ハンバーグも出来上がり、オムライスの隣に乗せます。

そのフライパンは、洗わずに、バターとケチャップとウスターソースで味付けして、ソースを作ります。

少し煮詰めて、ハンバーグとオムライスにかけて、出来上がりです。

今日のオムライスは、デミグラスソース風にしてみました。

 そして、サラダにかける、ドレッシングも作ります。

オリーブオイルにレモンを絞って、塩と胡椒で味を軽くつけて、お酢を少しずつ入れながらよく混ぜます。それをかければ、今夜の夕食の出来上がりです。

「こだまくんとさくらさんを呼んできてください」

 私は、そう言って、テーブルに料理を運びました。

少しすると、二人もやってきました。それぞれ、自分のいつもの席に座ります。

「これ、ロビンさんが作ったの?」

「ハイ」

 さくらさんがビックリしていました。目を大きく開けて、湯気が立っている料理を見ています。

「早く食べようよ」

 つばさくんは、早くもスプーンを持って食べようとするのを、さくらさんが止めます。

「みんな、手を合わせて、いただきます」

 そう言うと、つばさくんもおとなしく、一度スプーンを置きます。

「いただきます」

「いただきま~す」

 こだまくんもこの時は、手を合わせて言いました。もちろん、私も同じようにします。

「おいしい~」

「ハンバーグ、最高」

 みずほちゃんとつばさくんは、とてもおいしそうに食べ始めました。

「あら、ホントに、おいしいじゃない」

 さくらさんは、一口食べて、うれしい感想を言ってくれました。

それでも、こだまくんは、なにも言ってくれませんでした。

「こだまくん、おいしいですか?」

 私は、恐る恐る尋ねると、小さな声で言いました。

「ロボットにしては、まぁまぁだな」

 こだまくんは、私の方は向かずに、声だけで返事をします。

ちょっと寂しくなったけど、口は動いているので、食べてくれるだけで私は満足でした。

「こだまちゃん、あたしも手伝ったのよ。ちゃんと、おいしいって言いなさいよ」

 みずほちゃんとつばさくんが、こだまくんに言います。

「まずかったら、食ってないよ」

 それだけ言って、急いで食べると、空になったお皿をシンクに持って行ってしまいました。

食べるのが一番早いのは、お腹が空いていた証拠です。残さなかったのは、おいしかったからです。私は、そう思うようにしました。

「こだま、ちゃんと、ロビンさんに、ごちそうさま言いなさい」

 さくらさんが黙っているこだまくんに言います。

「いいんですよ。残さず食べてくれただけで、うれしいですから」

「ダメよ。ちゃんと、食べ終わったときは、作ってくれた人に、ご馳走さまを言うのが、ウチのルールでしょ」

 さくらさんは、こだまくんの背中に言いました。

すると、こだまくんは、振り向くと、小さく言いました。

「ご馳走さん」

 それだけ言って、階段を昇って、私の方を見ようとしません。

それだけが、心にチクッと針が刺さったような感じがしました。

「ごめんなさいね。こだまは、素直じゃないから」

「いいんですよ。こだまくんは、今は、難しい年頃なんですから」

 気を使ってくれたさくらさんに、笑顔で返します。

「みずほちゃん、つばさくん、お野菜も食べてください」

 私は、小皿にサラダを取り分けました。

「野菜、嫌いだもん」

「お野菜は、体にいいんですよ。少しでも、食べてください」

 そう言って、二人に勧めます。すると、二人は、小さなフォークでレタスを一口食べます。

「アレ? なんか、いつものサラダと違う」

「ドレッシングを作ったんですよ。これなら、食べやすいですよ」

 つばさくんは、苦手な生野菜をパクパク食べてくれました。

それを見ている、みずほちゃんも目をつぶって、一口食べます。

「なんか、おいしい・・・」

 みずほちゃんは、明るい笑顔で言いました。

「そうよ。このサラダは、あたしが作ったんだから、食べなきゃ」

 そう言って、あっという間に、サラダをお代わりしてくれました。

「ぼくも食べる」

 つばさくんも空になった小皿を差し出します。

私は、うれしくなって、二人のお皿にサラダを取り分けました。

もちろん、オムライスもハンバーグも、きれいに完食です。

「お腹いっぱい。おいしかった。ロビンお姉ちゃん、ご馳走さまでした」

「ねぇ、ロビン。また、作って」

「ハイ、いつでも、作りますよ」

 二人は、丁寧に手を合わせて、ご馳走さまを言うと、自分で食べた食器を流し台に運んでくれました。

そんな二人を見ながら、感心するように、さくらさんが言いました。

「こんなこと、初めてかもしれないわ」

 私は、さくらさんの一言を聞いて、思わずスプーンが止まりました。

「今まで、あの子たちが、おいしかったとか、全部残さず食べるなんて、なかったからね」

「そうなんですか?」

「恥ずかしい話だけど、あたしやこだまが作る料理は、正直言って、おいしくないもの。食べる時だって、今日みたいに、あんなにおいしそうに食べるあの子たちを見て驚いたわ」

 さくらさんの話を聞いて、なんだか切なくなりました。

ロボット学校では、食事は、人間なら絶対に欠かせない、生きていく上で必要なことと、習いました。

その為には、おいしく作ること。食事は、楽しい時間でなければいけない。

食べることは、楽しいこと。それが、健康のためにもなる。そう教わりました。

それなのに、このウチでは、全然違っていたのです。

「あぁ~、おいしかった。ロビンさん、ご馳走さま。これから、食事の時間が楽しくなりそうね」

 さくらさんも、きれいに食べてくれました。

「こちらこそ、お食事は、おいしく楽しく食べるのが、一番ですからね」

 私は、気持ちを引き締めて、これからの食事をがんばろうと思いました。


 私が、お皿などの洗って片づけを終えると、テレビを見ていたみずほちゃんが私のエプロンを引っ張ります。

「どうしたの?」

「ロビン、お風呂に入れる?」

「ハイ、大丈夫ですよ」

「それじゃ、いっしょに入ろう」

「ハイ、いいですよ」

 そう言うと、みずほちゃんは、明るく笑って、着替えを取りに行きました。

「さくらさん、お先にお風呂に入っていいですか?」

「いいけど、ホントに大丈夫なの?」

「ハイ、平気ですわ」

 私は、心配して聞いてくれるさくらさんは、とても思いやりがある人だと感じました。

「ロビン、行こう」

 みずほちゃんが自分の着替えを抱えて戻ってきました。

「みずほ、アンタ、いつも一人で入ってるでしょ」

「今日は、ロビンと入るの」

 そう言って、先に浴室に行ってしまいました。

「ロビンさん、ごめんね」

「大丈夫ですよ。私も、みずほちゃんと、もっと仲良くなりたいから、うれしいですよ」

 そう言って、私も自分の着替えを持って、浴室に向かいました。

「いいなぁ、ぼくも入りたいなぁ」

「つばさは、ダメ。アンタ、男の子でしょ」

「ぼくも女の子に生まれれば、よかったなぁ」

 つばさくんは、ホントに残念そうでした。もっとも、私としては、つばさくんとお風呂に入っても何の問題もありません。私は、ロボットだから、男の子の裸を見ても、特に何の反応もないのだから。

 私は、残念そうなつばさくんをチラッと見てから、浴室に行きます。

先に服を脱いでお風呂場にいるみずほちゃんの後から、服を脱いで入りました。

 体にお湯をかけて、浴槽に二人で向かい合って入りました。

「ロビンて、胸が大きいのね」

「そうですか?」

「さくらちゃんよりあるわよ。それに、スタイルもいいし。美人だしね」

「ありがとうございます」

「あたしも、早く大きくなりたいなぁ・・・」

「なれますよ。みずほちゃんだって、さくらさんみたいに、美人になります」

「そうかな・・・」

「だって、みずほちゃんは、素敵なお母さまの子供なんですから、間違いありませんよ」

 そう言って、みずほちゃんの髪や体を洗ったり、浴槽の中でたくさん話をしました。

「ロビンもお風呂に入るの好き?」

「好きですよ。気持ちいいじゃないですか。みずほちゃんは、嫌いなんですか?」

「嫌いじゃないけど、いつも一人だから、入っていてもつまんない」

 そうかもしれない。こんな小さなころから、一人でお風呂に入ると、そう思っても仕方がないのかもしれません。

人間は、入浴するのは、裸の付き合いとか言うらしい。ロボット学校で人間の心理を教わりました。

お風呂に入った時には、気持ちもゆったりして、知らない人同士でも話ができる。

まして、兄弟なら、秘密の話もできる場所でもあります。それなのに、小さなころから一人で入ることを日課としていたなんて、みずほちゃんの寂しい気持ちが伝わってきました。

「みずほちゃん、明日は、学校ですよね」

「そうよ」

「それじゃ、学校が終わったら、お買い物に行きませんか?」

「ホント!」

 みずほちゃんがお湯を飛ばして、私に近づいて、目を見詰めてきました。

「前に約束したのを覚えてますよ。可愛いお洋服とか、パンツも買いに行きましょう」

「ホントに、ホント?」

「ホントに、ホントですよ。ロボットは、ウソは付きませんよ」

「それじゃ、指切りげんまん」

 そう言って、小指同士を絡ませて、指切りの約束をしました。

「明日、学校が終わるころに、迎えに行きますね」

「うん、待ってる」

 そうして、みずほちゃんの濡れた身体を拭いて、タオルを巻いて浴室から出ます。

「みずほちゃん、よく体を拭かないと、風邪をひきますよ」

「平気よ。それくらい、一人でできるもん」

 そう言って、みずほちゃんは、タオルで体を拭いて着替えました。

私も同じように体を拭いてから、着替えを澄まします。

「お風呂、空きましたよ」

 言いながら、髪を拭いていると、さくらさんが言いました。

「つばさ、こだまを呼んできな。二人でいっしょに入ってきなさい」

 テレビを見ていたつばさくんは、私たちの横を羨ましそうに見ながら、こだまくんを呼びに行きました。

そして、降りたきたこだまくんは、つばさくんを連れて、浴室に消えて行きました。

「みずほちゃん、髪を乾かしましょう」

 私は、さくらさんにドライヤーを借りて、みずほちゃんの髪に櫛を通しました。

「みずほちゃんの髪は、とても柔らかくて、きれいですね」

 みずほちゃんの髪は、少しウェーブがかかった感じで、耳が隠れるくらいまでの長さです。乾いてくると、それが余計に目立ってきます。

「あたし、自分のこの髪の毛って、余り好きじゃない」

「そうですか? とてもきれいだけどなぁ」

「だって、少しチリチリでパーマみたいなんだもん」

「それも可愛いですよ」

「あたしも、ロビンみたいな髪がよかったな」

 私の髪は、もちろん人工です。人間みたいに、伸びたりしません。

黒髪で、ストレートで、肩までの長さです。この子たちのお母さまが、この髪型だったので、博士がそれを思い出して、この形になりました。

「お母さまとは、違うかもしれないけど、みずほちゃんらしくて、いいと思いますよ」

 みずほちゃんは、自分の髪を指でくるくると指に絡ませながら首を傾げていました。

「こら、みずほ。いつまでそうやってるの。明日は、学校よ。早く、寝なさい」

「ハ~イ」

 みずほちゃんは、さくらさんに言われて、しぶしぶ二階に上がって行きました。

「みずほちゃん、おやすみなさい」

「ロビン、おやすみ。明日、忘れないでね」

「ハイ」

 私は、そう言って、手を振ると、みずほちゃんも手を振り返してくれました。

「フゥ~ン、みずほが、あんなに素直になるとはねぇ・・・ ロビンさん、あなた、みずほになんか言った?」

「いいえ、別に何も言ってませんよ」

「いつも、一人で入ってるから、十分くらいでお風呂から出てくるのに、今日は、三十分も入ってるなんて二人で、何を話してたのか、気になるのよ」

 私は、お風呂で話したことを思い出しました。

「早く大きくなりたいとか、私の胸のが、さくらさんより大きいとか、いろんなことを話しましたよ」

「えっ! そんなこと・・・ まったく、あの子ったら。まだ、子供なのに、一人前なこと言って」

 言いながら、さくらさんも自分の胸に手を当てていました。

さくらさんは、少し赤くなって、横を向いてしまいました。

怒らせたかなと思って、微笑みながらさくらさんに言いました。

「さくらさんは、美人ですよ。大人になったら、お母さまのような、美人になりますよ」

「・・・」

「もちろん、みずほちゃんもです。それに、お風呂って、楽しいですね。いろんな話ができて私は、大好きになりました。今度、さくらさんも、いっしょに入りませんか」

「入りません。あたしは、一人で大丈夫だから」

「そうですか・・・ 残念です。さくらさんと、お風呂でいろんな話がしてみたかったです」

「別に、話なら風呂に入らなくてもできるでしょ」

「あっ、そうでしたね」

 私は、パチンと手を打って笑うと、さくらさんは、小さなため息をついて笑いました。そこに、こだまくんとつばさくんがお風呂から出てきました。

「つばさくん、髪の毛を乾かしましょうね」

 裸のつばさくんを迎えて、濡れた身体を拭きながら言います。

「そんなことしなくていいよ。もう、一人でできるから」

 こだまくんは、自分の髪を乱暴に拭きながら、冷蔵庫からお茶を飲みます。

「ロビンお姉ちゃん、大丈夫だから、自分でやる」

 そう言って、つばさくんが、私からタオルを取って自分の髪を拭き始めます。

「ダメですよ。貸してください。そんなにゴシゴシ拭いたら、髪が痛みますよ。

つばさくんの年頃は、髪は細くて柔らかいんです。優しく拭かないと、もったいないですよ」

 こだまくんにも聞こえるように言って、つばさくんの髪を優しく拭きます。

「勝手にしろ」

「こだまくんも、優しく拭いてください。大人になって、ハゲてもいいんですか?」 

 そう言うと、一瞬、こだまくんの足が止まりました。

「あはは・・・ こだま、アンタの負けだよ。ロビンさんの言う通りよ。少しは、言うこと聞いたら」

「姉ちゃんには、関係ないだろ」

 そう言って、こだまくんは、乱暴に階段を昇って行きました。

「まったく、素直じゃないんだから」

 さくらさんが呆れたように言いました。

「こだまくんは、まだ、私に慣れていないんですよ」

「そうかしら? みずほやつばさは、もう、ロビンさんが気に入ってるみたいだけど」

「うん、ぼくは、ロビンお姉ちゃん、好きになったよ」

 髪を乾かしてもらいながら、話を聞いていた、つばさくんが言いました。

「ありがとう、つばさくん。私も大好きですよ」

 そう言って、優しくギュッと抱きしめました。

すると、つばさくんは、少し照れたように、顔をピンク色に染めながら、二階に駆け上がりました。

「つばさくん、おやすみなさい」

「ロビンお姉ちゃん、おやすみなさい」

 つばさくんは、私に乾かしてもらったサラサラヘアーを撫でながら、言いました。

「さてと、あたしも入ってこようかな。ロビンさんは、先に寝ていいわよ」

「いいえ、さくらさんとも、少しお話したいので、お待ちしてます」

 そう言うと、さくらさんは、軽く頷いて、浴室に入っていきました。


 しばらくして、さくらさんもお風呂から出てきました。

「ハイ、どうぞ」

「ありがとう」

 私が用意した冷たいお茶を受け取り、一口飲むと椅子に座ります。

「さくらさんの髪も、きれいですね」

 そう言って、さくらさんの髪をとかしてあげました。

さくらさんは、黙って、私にされるままにしています。

実際、さくらさんの髪は、きれいな黒髪で肩までの長さで、私より少し短い感じです。それに、サラサラヘアーのストレートでした。

そこが、みずほちゃんと違うところです。姉妹でも、髪質は違うようです。

「あたし、今日、ロビンさんを見てて、あなたでよかったと思ったわ。あたしたちのことを真剣に思っている感じがしたの。こだまは、意地っ張りだから、まだあなたのことをイマイチ、受け入れてる気がしないけど、すぐになれると思うわ」

「そうですか。ありがとうございます」

「これからも頼むわ。特に、あの子たちのこと。みずほもつばさも、アレで大人に気を使ってばかりでいい子にしてるだけで、ホントは、もっと、甘えたいんだと思う」

 私は、さくらさんの言うことを黙って聞いています。

「お父さんは、ウチのことなんて、何も考えてないし、あたしがしっかりしなきゃって思ってたけど、なんか、空回りばかりで、あの子たちにも悪いなと思ってるのよ」

「さくらさんは、立派です。それに、さくらさんだって、まだ、子供なんですよ。高校生なんですよ。学校のこと、勉強のこと、お友達のこと、将来のこと、もっといろいろ考えないといけない時期なのに自分のことは、二の次で、みずほちゃんたちのことばかり考えて、これからは、自分のことを優先して、自分のことだけを考えて、もっと肩の力を抜いて、楽しんでください。お家のことは、私に任せてください。決して、みずほちゃんたちに寂しい思いはさせません。さくらさんたちにも、心配かけないようにします。だから、自分をもっと、大事にしてください」

「うん、ありがと」

 そんなさくらさんは、少し涙ぐんでいるようでした。

今まで、肩に力を入れて、かんばらなきゃという思いでいたのでしょう。

だけど、今日からは、私が力になります。安心してほしい。私は、そう思いました。

「明日、みずほちゃんとお買い物に行きます」

「えっ?」

 いきなり言った私の一言に、さくらさんが思わず振り向きました。

「みずほちゃんと約束したんです。可愛いお洋服が欲しいっていうから、いっしょに買いに行きましょうって」

「それが、さっきのお風呂で話してたことね」

 私は、小さく頷きました。

「それに、みずほちゃんが言ってましたよ。可愛い下着が欲しいって。さくらさんが買ってくるものは、いつも白いもので、もっと、可愛いのが欲しかったって」

「そんなこと、あの子は、一言も言わなかったわ」

「さくらさんのことを思って、言えなかったんだと思いますよ」

「・・・」

 さくらさんは、黙って下を向いてしまいました。

「そうだったんだ。あの子も、大きくなったのね。そんなこと思ってたなんて、知らなかった」

「みずほちゃんも女の子ですからね」

「そう言えば、あたしもあの頃は、そんなこと思ってたな。お父さんが買ってきた下着って判で押したように、いつも真っ白いパンツだった。年頃になれば、もっと可愛いのが欲しいって思ってた。でも、言えなかったな。みずほも、そんな年になったのね」

「子供は、すぐに大きくなりますよ。これから、中学生や高校生になったら、もっと難しい年頃になりますよ。さくらさん、そのとき、どうしますか?」

「そんなの、考えられないわ。だって、あたしは、母親じゃないもの」

 私は、大きく頷くと、すっかり乾いた髪を確認して、さくらさんの前に座り直しました。

「私は、その為に、ここに来たんです。皆さんが立派な大人になって、社会に出るまで、私は、ここにいますよ。安心してください」

「ホントに?」

「ハイ。もう、いいっていうまで、いさせていただきます。そのために私は、生まれたんです」

「ロビンさん、あの子たちを頼むね。あたしが、社会人になっても、このウチにいてくれる?」

「いてもいいんですか?」

「当り前でしょ。ロビンさんは、もう、家族だもん」

「ありがとうございます。私は、幸せ者です。このウチにきて、ホントによかったです」

 私は、心からそう思いました。そして、胸が熱くなってきて、なぜか涙が出てきました。

「どうしたの? ロビンさんがなんで、泣いてるの」

 さくらさんが不思議そうに言いました。

「おかしいですね。ロボットなのに・・・」

 私は、急いで涙を拭って、笑いました。

「あなたって、ロボットとは、思えないわ」

 さくらさんは、そう言って、残りのお茶を飲み干しました。

「さぁ、明日は、月曜日だから、学校に行くから、もう寝るわ。ロビンさん、おやすみ」

「ハイ、おやすみなさい」

「明日の朝ご飯も、よろしくね」

「ハイ、お任せください」

 そう言うと、さくらさんは、静かに階段を昇って行きました。

私は、さくらさんを見送って、火の元や玄関のカギを確認してから、部屋に入りました。ベッドに横になって、静かに目を閉じます。これから、朝まで、スリープモードです。時間をセットしてあるので、自動的に、明日の朝には、目が覚めます。

ロボットにも、休息は必要です。機械を休ませるために、私も人間と同じように寝ます。明日も、一日、がんばろう。私は、そう思いながら、急速に眠りにつきました。




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