第一話 ウワサの博物館
「ようこそ、【レーツェルミュージアム】へ」
暑さと疲れで下を向いていた顔を上げると、少年とも少女とも捉えられる人形のような美しい人物がいた。
「ひどい汗だ、向こうの飲食スペースに冷えた水とおしぼりがあるから自由に使って」
「あ……ありがとうございます。」
「そこのカウンターにいるから、分からないことがあったら聞いて」
そう告げるとその人はカウンターに戻り、本を読み始めた。
きっと噂の美形の職員とはあの人なんだろうと思いながら、言われたとおりに飲食スペースに向かう。
飲食スペースは俺の大学に併設されてる食堂よりも綺麗で木製の机と椅子に燭台まで置かれている。
「子供用のキッズスペースまであるとは、ははっ本当に何でも揃ってるな」
常識とは逸脱したこの博物館はまさに「なんでも揃う博物館」だ。
今まで気が付かなかった自分と実在した噂に乾いた笑いしか出なかった。
「ゴチュウモンヲドウゾ」
近くに来た注文ロボットが話しかけてきた。
「えっと……冷えた水とおしぼりください」
「リョウカイシマシタ、コチラヲドウゾ」
近代的なのか古風なのかこういう細かいところも噂を広げるんだろう、そう考えながらおしぼりで顔や首を拭き水を一気に飲み干す。
「うめぇ……体に染み渡る」
おしぼりや空になったコップを片づけてもう一度エントランスへ戻る。
「あの人にお礼とここの聞きたいことが山ほど出来たな」
エントランスホールに戻ると、さっきより余裕が生まれたのかエントランスホールに大きな天球儀があることに気が付く
「それだけでも凄いが、夜になると青く光ってとても綺麗なんだ」
「僕に聞きたいことがあるんだろう?答えられる範囲で答えるよ」
「えっと……」
「地獄耳でね、食堂で色々聞きたいって言ってただろう?」
「あの……この博物館はいつからあるんですか」
「君が生まれる前からあるよ、ここの噂を聞かないとたどり着くのが難しいんだ」
「どういうことですか?」
「君たちの言葉を借りるなら魔法かな」
答えになっていない答えが返ってくる。
魔法だって?現代っ子の小学生に同じこと言ったら鼻で笑われて痛い奴認定されるぞ。
「おとぎ話みたいだろう?本当のことだが今のところ誰も信じてはくれてないから、君も気にしなくていいよ」
「いや、そんなことは……それより此処って本当に何でも揃っている博物館なんですか?」
「何でもって程でもないけれど、展示物や資料なら他の図書館や博物館に負けないかもね。資料の貸し出しはしていないけれど、ワークスペースなら持ち込めるよ」
「そうですか」
「資料室はワークスペースと繋がっていて2階が展示室、立ち入れない場所には看板が立ててあるから」
「ありがとうございます、じゃあ資料室使わせてもらいます」
「閉館のアナウンスが流れるまではご自由に」
すべて見抜かれているかのような瞳から逃げたくて、俺は早歩きで教えてもらった資料室へと向かった。
噂は本物だ。
大学では見かけない資料や絶版になった本まで様々揃っている。
本を読み漁っているうちに蛍の光とあの人の声が聞こえる。
『本日は当博物館にご来館いただき誠にありがとうございます。当館は間もなく閉館致します、皆様お忘れ物の無いようお気を付けください。繰り返します……』
「もうそんな時間か、やばっ急いで片づけないと」
読み漁っていた本を棚に戻し、ワークスペースに散らばった自分の荷物を鞄に突っ込みエントランスへと向かう。
どうやら俺が最後らしい、あの人が入り口に立っていた。
「すいません!急いで出ますんで!!」
「大丈夫だよ、あの本たちも本望だろうしね。慌てないで気をつけて帰りな、またのご来館お待ちしております」
お辞儀をするとその人の揺れるネームプレートには館長と書かれていた。
「はい、また来ます。ありがとうございました」
お辞儀とお礼の言葉を言い博物館から出る。
しばらく歩くといつもの見慣れた風景が見えた。
家路に向かう途中、今日の出来事を思い出しながら歩き続けるとあることを思い出し、急いで鞄を漁る。
「やばい……明日提出のレポート、博物館に忘れてきた!!」
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