ウワサの博物誌
朧(そう)
プロローグ とある博物館のウワサ
『皆さん、夏休みも終わって初めての授業です。今日は作文の発表をしてもらいたいと思います。誰か発表してくれますか?』
『はーい!!』
『皆さんとても元気いっぱいですね。それじゃあ旭川(あさひかわ)くん、発表してくれますか』
『はい!!【なりたいじぶん】旭川スグル。ぼくがなりたいのは……』
ジリリリリリリリ……
「……。はぁ、起きるか」
俺は平凡な家庭に生まれて平凡に育ったごく普通の大学生「旭川スグル」。
人と変わっている所といえば昔から手先が器用で人の頼みごとを断れない、いわば便利屋なところだ。
夏休み前で人が少なく、教授に内申点を餌に魔窟となった資料室の整理を行うため軽い朝食を取り、身支度をして炎天下の道路を歩き大学へと向かう。
朝から整理に取り込み一段落ついた所で、食堂へ足を運ぶ。
「カツカレー大盛りでお願いします」
教授からもらった食券を出して料理を受け取り席に着き、食事を始める。
「ねぇ、あの噂聞いた?」
「いや、どの噂のことよ」
人が少ないから少し離れた席にいる女子生徒の声がよく聞こえる。
「なんでも揃う博物館の噂だって」
「なぁにそれ、うちの街にそんなのあった?」
「先輩から聞いた話だと、街外れのほうにあって調べものするときにはそこらの図書館よりも資料揃ってるし、なにより重要なのがね……」
「重要なのが?」
「そこにいる職員全員美形なんだって!!」
「でた面食い」
「いいじゃん!ね、夏休みのレポートついでに行ってみない?」
「レポートがついでの間違いでしょ?」
うちの街外れに博物館?そんなの地図にあったか?飯を食いながらそんなことを考える。
さっきまで片づけをしていたのが文化地理学の教授の所で、そんな博物館があったら講義で話すはずだ。
残っていたカツカレーを急いで食らい片づける。早めに片づけを終わらせて、噂の博物館へ行ってみよう。
人という生き物は好奇心には抗えないものなんだ。
「街外れとは聞いたが、詳しい場所は知らないんだよなぁ……」
まさかスマホでも検索できないとは思いもせず、肩を落とす。
歩き続けて緑地公園のような場所まで来てしまった。
「電波の入りも悪くなってきたし、調べるのは家に帰ってからにするか」
踵を返そうとすると、先ほどまではなかった小道に気が付いた。
なぜだかこっちの方角にあの噂の博物館があると確信している自分がいる。
道に沿って歩き続けると、今までなぜ気が付かなかったのかというほど中世ヨーロッパを思わせる荘厳な建物があった。
中に入ると今までの暑さが嘘のように涼しい空気が体を包み、透き通った声が耳に入る。
「ようこそ、【レーツェルミュージアム】へ」
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