第四話 マリーアントワネットの首飾り(前編)
「俺も一緒に連れて行ってくれ!!」
俺は何を口走っているんだ!?見ろ、あの館長も表情を崩して驚いているぞ!?
「ついてくるのは構わないが、なにかこう…語学や運動神経に長けているのかい?」
「いや…英語だけなら少しは、運動神経はまぁそれなりに…」
「ふむ、そうか」
「で、でも手先は器用です!!周りからも便利屋扱いされていますし、役に立つと思います!!」
「言葉がわからないのはダメだろう?」
この館長相手に交渉は成立しないか。そりゃ何にもできないやつがいてもお荷物になるだけだ。
「すまないが」
やっぱり断られるか…
「手を出してくれないか」
「え」
「これをつけてみてくれ」
館長がそう言って差し出してきたのは金色の組紐に翡翠の勾玉が付いた腕輪のようなものだった。
「正直あまり手を借りたくないんだが、元の世界に返す準備も厄介だしこのまま僕といたほうが安全だからね」
そう言いながら俺の手に組紐を結わえていく館長。
『おい、やっぱりこっちから誰かの声が聞こえたぞ』
先ほどまでは聞き取れなかった人の声が分かるようになった。
感心している暇もなく館長が告げる。
「さっきの君の大声でバレたのかもしれない。いったんこの場から逃げよう、僕らの目標もそっちにいるはずだ」
そう言いながら館長はその華奢な体のどこから出ているのか不思議なほど強い力で俺を引っ張り担いだ。
そして窓のほうへと走り出し、窓枠に足をかけ飛び降りた。
そう、窓から飛び降りたのだ。
「そうだ、舌を噛むから口は閉じたほうがいい」
「先に言ってくれぇぇぇぇ!!」
だめだこの人、本当に人からずれている。
「はぁはぁ…死ぬかと思った」
「死んでないし、五体満足でケガもないだろう?」
「飛び降りるときはあらかじめ言ってくれると助かります……」
「わかった、次はそうする」
「それより此処は何処ですか?」
「静かに、あそこを見ればわかるさ」
そう言って館長の指さしたほうを見つめる。
よく映画などで見る豪華絢爛な玉座の前に数人いるのが見えた。
もっとも目を引いたのは玉座に座っている人物。
「マリーアントワネット……?」
「正解、もっとも用があるのは彼女ではなく彼女の視線の先のものだよ」
「視線の先…?誰か跪いて何か見せていますけど…まさか」
「あれが目的、マリーアントワネットの首飾りだよ」
『おあいにく様、私には必要ない代物ね』
そう言い残しマリーアントワネットは宝石商に下がるよう命じていた。
「よし、あとはあの宝石商を追いかけてうまいタイミングでこちらとすり替える」
館長は胸元からまるで本物の宝石でできたレプリカを取り出した。
しかし俺はあることを思い出した。
「館長、このあとどうなるんですか」
「どうなるってどういう意味だい?さっき話した通りすり替えて博物館に帰るんだが」
「そうじゃなくって!!マリーアントワネットはこの後市民の反感を買って」
「あぁ、処刑されるよ」
「ッ!?」
「1793年国家反逆罪によって彼女は処刑されて死ぬよ。」
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