第六話 マリーアントワネットの首飾り(後編)

 館長の働き?で屋敷に忍び込むことができた俺は首飾りの行方を追っていた。

「今思ったけどどこにあるか分からないんだよなぁ…ってあれ?」

 館長につけられた腕輪の勾玉が右を向いたときに光った。

「こっちにあるってことか?」

 他に当てがない俺は勾玉が強く光る方向を目指し隠れながら歩みを進めた。


「此処の部屋が一番反応がいいな」

 扉をそっと開け隙間から部屋を覗く。

「ふふ、うまく騙せたわ。これさえあればあの女よりも私のほうが優秀で美しいと証明できる。この首飾りは私にこそふさわしいものよ」

 そう上機嫌に語り鏡の前でくるくると回る女性の姿があった。

「あれがラモット夫人…でも何だあれ?」

 上機嫌な夫人の周りには薄い紫色の靄がかかっていた。

「それにしてもやけに外が騒がしいわね、兵士は何をしているのよ」

 力づくで奪い取るのは簡単だが、交換するとなると一旦あの首飾りを外してもらわなければならない。

「どうすれば…そうだ!スゥ……ラモット様、こちらで湯あみの用意が整いました!!」

「あら、珍しく気が利くわね……これを手放すのは惜しいけれど、待っていてね私の美しい首飾りちゃん」


 作戦は成功だ、うまく騙せた。後はこれをすり替えて館長と合流すれば計画は終了だ。

 すり替えようと首飾りに触れたとき、ふと脳裏をよぎった。

「これは俺にふさわしい……」

 そう思ったとき腕輪から静電気のような痛みが走り我に返る。

「なんだいまの……」

「それが首飾りに込められた神秘の力、人を誘惑する力だ」

「うわぁ!?館長!?」

「こちらは片付いた、ありがとうおかげで力づくで奪って記憶を消さずに済んだ」

「さらっと恐ろしい単語が聞こえた気が……」

「それよりそろそろ時間だ、いったん外に出るよ」

「はい」

 

 館長とともに屋敷から出る、山積みになった兵士が外に転がっている。

 この人マジで人離れしすぎ…自称人狼だったな。

「ここらへんでいいか、月明かりもいい感じだ。忘れ物はないかい?」

「え、あぁ、はい。首飾りもここにあります」

「なら帰りは簡単だ。この鏡をのぞいてくれ」

「はい、ってうわぁっ!?」

 月明かりに反射した光のまぶしさに思わず目を閉じた。

「うぅ…あ、あれ」

 

 気が付いたとき俺はあの博物館に戻っていた

「ありがとうね、首飾り受け取ってもいいかな?」

「はい…あれすいません。なんかこれ渡したくないというか…」

「うん、神秘の力が働いているからね。はい、これならどうかな?」

 そう言い館長が赤く揺らめく瞳で見つめてきたら、あの感覚が無くなりすんなり首飾りを手放すことができた。

「ありがとう、これはこっちで厳重に保管する。それともう一つ」

「もう一つ?」

「君には今夜の記憶を忘れてもらいたいんだ」

「えっ」

「君だってこんな面倒ごとに巻き込まれて変人扱いされたくないだろう?」

「今夜の記憶…」

「今からやるからちょっとだけ我慢してね」

 その時ふと頭によぎった昔の記憶

『はい!!【なりたいじぶん】旭川スグル。ぼくがなりたいのは……』

「俺は、嫌です」

「嫌?どうしてだい?」


「俺がなりたいのは『世界の謎を全部知ること』」

 そうだ、あの時「連れて行ってほしい」といったのは知りたかったんだ。

 館長に会った時からずっとあった感覚。

 王妃に捕らえられても歴史を変えたくなったのも全部。

 今とは違う自分になりたい願望だ。

 この非日常的な日々に憧れていたんだ。


「まぁ、回収に人手がいるのはありがたいけれど…君はそれでいいのかい?」

「はい、館長の迷惑じゃなければ」

「うん、じゃあその腕輪は君にあげるよ、翻訳機能や連絡ツールになる。君たちでいうスマホみたいなもの」

「スマホになるんですかこれ」

「例えだよ。神秘の力も弱めてくれるから回収もできるようになるだろうし」

「ありがとうございます!!」

「ところで一つ聞きたかったんだが」

「はい、何ですか?」

「夜中に博物館に忍び込むなんて、君は泥棒か何かだったのかい?」

「あっ!!レポート!!違います!!俺レポートを取りに」

「知ってる、ちょっとした冗談だ」

「館長が言うと冗談に聞こえません」

「本当に知りたかったのは君の名前だよ、これからいろいろ世話になるだろうしね」

「あ、旭川…旭川スグルです」

「そうか、よろしくねスグル」


 こうして俺の非日常的な日々が始まるのだった。

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