第九話 聖女の旗 (前編)

 まばゆい光とともに浮遊感に包まれた。

 目を開けると


 空中にいた


「かんちょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「着地くらい余裕だろ?」

「あんたはな!!」

「しかたがないな、ほら」

 館長が俺のことをいわゆるお姫様抱っこして抱きかかえる。

 羞恥心より恐怖心が強くて体制はどうでもいい


「大丈夫かい?スグル」

「な、なんとか…。それより今回も同じようにすり替えるんですか?」

「できればそうしたいけど、今回は警備の者も訓練された兵士だ。できれば穏便に済ませたい」

「交渉するってことですか?でもこんな格好で交渉なんてしたらまた捕まるんじゃ」

「今回はこれがある」

「なんですか、この布切れ」

「相手に幻惑をかけて人に紛れる力を宿したローブだ。試しに羽織って人前に出るといい」

「え、いや心の準備とか」

「いってらっしゃい」

 そういうと館長は俺を突き飛ばした。

「鬼かあんた!?」

「人狼だよ」


「おいお前」

 早速兵士に見つかった

「ここでボーとしてないで早く持ち場に戻るんだ」

「え?」

「すみません、新参者でしてすぐ戻らせます」

「そうか、早くしろよ」

「はい、気を付けます。…ね、大丈夫だったでしょ?」

「あんた強引すぎるんだよ!?」

「素の君のほうが見てて面白いね。さぁ聖女様を探そう」

 館長はすたすたと天幕のあるほうへ颯爽と歩き始めた。

「待ってくださいよ館長!!」


「あそこの天幕に聖女様がいるみたいだね」

「あそこにジャンヌダルクが…」

「会ってみたいのかい?」

「そりゃまぁ…歴史上の偉人に会いたくないってのは噓になりますし」

「じゃあ行っておいで、いざとなったら力になるから」

「でもいくら紛れても人がいるでしょ?」

「大丈夫、聖女様に用がある兵士なんて山ほどいるだろうし」

「何なら背中を押してあげようか?」

「あんたのは物理だからいい」


「失礼します、聖女様にお伝えしたい事がございます」

「聖女様は今ご多忙だ、後にしろ」

「大事なお話なので」

「我々から伝えておく」

「えっと…]


「私に用があるのでしょう?お話くらい聞きますよ」


「あなたは」

「聖女様!!」

 この人がジャンヌダルク

 目の前にいるのは何所かに幼さを残した少女だった

 そして俺の元へ近寄りこういった


「あなた、此処のものではありませんね」


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