その悲鳴は平穏の証
「私は周りにどう思われようと構わない。しかし、私が取り憑いたことにより、この女の評判が落ちるのを恐れて夜にしか行動をしなかっただけ。そして、神村。お前はこの女の事が好きなんだろう?この女はお前に対して悪印象を持っていない。むしろ逆、心の中で神に魂を売ってでも助ける気概だった。だから、私が躊躇いなく出てこれた。」
俺の前に立つ御厨、いや、宵夜はそう宣言した。
「でも…!」
「神村!」
俺はなにか理由をつけてこのケンカから宵夜を下がらせようとした。しかし、それを宵夜は大声で俺の名前を呼び、遮った。
「…この女が孤独になっても、責任、取ってくれるんだろう?」
「…!」
「この
殴ったチンピラとその仲間が宵夜を睨む。しかし、それをフンッと嘲笑で一蹴すると
「…下がってな。」
そういって宵夜は拳を構えた。
そこからの宵夜の蹂躙劇は語るまでもないだろう。宵夜はまるで覆面バイカーの如く華麗なキックとパンチでチンピラを30秒も掛からず倒すとチンピラのうちの一人の髪をつかんだ。
「もう、私やこの男に喧嘩売るなよ?」
「ご、ごべんなざぁい゛!!!」
宵夜がドスの利いた声で脅すとチンピラも穴という穴から水を垂れ流し、許しを請う。
その様子にそれでいいと掴んでいた髪をパッと離した宵夜はゆっくりと俺の方に近づいてきた。しかし、俺はあの言葉のせいでソワソワしていた。
「あ、ありがとう...えーと、宵夜さん?」
「呼び捨てでいい。あと、礼はこの女にも言っといてくれ。さっきも言ったが彼女が助けたかったから私が躊躇いなく出てこれたのだ。ん?そんなことよりどうした?なんか、顔が赤いようだが?まさか、殴られた拍子で何か体に異常が...!?」
宵夜がよく観察すると、神村の頬が赤くなっていた。頬を強く殴られた後なので心配し焦るが、神村はこれに慌てたように否定する。
「い、いや!そ、そうじゃなくて...だなぁ...えぇと...うぅん...ま、宵夜だからいっか。」
「ん?...ん?」
なぜそんなに躊躇うのだろうという疑問と若干のデジャヴと嫌な予感を感じた宵夜に構わず神村は口を開く。
「い、いやぁ、その、こんな時に思うことじゃないんだが、「責任取ってくれ」って言葉が御厨さんの声で言われたのがクるものがあるというか...お前は他所の星から来たから知らないだろうが、その言葉は...えーと...この星の物語ではそういうことをする前の男女が言うテンプレの言葉なんだが...」
「は?」
しばらく呆然としていたが、みるみるうちに顔を赤らめ、神村と同じくらい赤くなったところで下を向いて叫んだ。
「...ッ!!ば、ばか!!お前なんかたすけるんじゃなかった!!」
「へ?え?」
「もう帰るっ!」
そして、神村に背を向けてそのまま走り去っていってしまった。流石の身体能力で次の瞬間には御厨の姿が豆粒ほどの大きさにしか見えなくなった。
突然置いてけぼりにされた神村。いつの間にかチンピラも逃げていたようで、既にその周辺には神村しか居らず、一人になった道路で戸惑ったように呟く。
「...な、なんだったんだ?」
その呟きの問いは神村が宵夜が「男」だと勘違いしている限り、答えを出すことはできないのだろう。
あれから日が経ち、翌日。ただでさえ水曜日と折り返しで休みが遠く感じる日だというのに神村は頭を搔きむしりながら登校するほどストレスを感じていた。というのも、あれからどうなったかを御厨にどうやって説明をしようか良い具合の言い訳が思いつかないからである。
恐らく御厨は宵夜が出てきたときから記憶をなくしている。つまり、ちょうど神村があのチンピラに一発殴られた辺りから。
そこを上手い具合に説明しないと好きな人にあまりよろしくないイメージをつけられてしまうだろう。
そして一方、御厨もまたラノベのページ数が昨日から1ページも動いていないことを見てわかるように同じように憂鬱を感じていた。こちらもあれからどうなったかを神村に聞かないといけないからだ。
恐らく神村から見ると御厨明日香そのものは単なる被害者だと見えるはずだ。そんな私が昨日のことに何も触れなかったら神村は不信感を感じてしまうだろう。
あと、自分自身の「責任を取ってくれ」発言に対してもまだ、切り替えができていない状態なのだが、これこそ話題にしてはならない要素なのでその思いは隠し通すしかない。
そして、神村が教室の扉を開けて自分の席に向かう。その席の後ろには当然、御厨明日香も待っている。そして、神村を目に入れた瞬間、本を閉じて、不安そうな顔をして、質問をする。
「お、おはよう...あ、あ、あのー。か、神村君。あの怖い人たちは大丈夫だったんですか?わ、わたし、気づいたら、自分の部屋のベッドの上にいて...神村君大丈夫だったかなって...」
「あ、えーと、それは、えーと...あれはね...」
「あすかっ!?え?怖い人に襲われたの!?」
神村が必死に言い訳を考えていると2組のドアを開け、御厨の席に直行して会話にカットインしてきた人影がいた。
「と、友美!?」
「ごめん!話、聞こえちゃった!そんなことより怪我は?どうやって追い払ったの!?この人が追っ払ったの!?どうやって逃げたの!?」
その人影は御厨の友達の古瀬だった。昨日の御厨の様子を心配して2組の前の廊下で聞き耳を立てていたが聞き捨てならない言葉が聞こえてきて思わず飛び込んでしまったのだ。
もちろん古瀬は明日香を心配して言ってくれているため邪険に追い払うこともできない。しかし、より上手く誤魔化さなくてはならない状況に変わったことは間違いない。
((だ、誰かたすけてぇ!!!))
行き詰ってしまった二人はヒーローを呼ぶかのように同じ台詞を心の中で叫ぶが、その声は虚しくもだれの耳にも届かなかったのだった。
好きな子(オタク陰キャメガネっ娘)が喧嘩最強だったんだが… 草野蓮 @kusano71143
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます