そうはならんやろ!なっとるやろがい!
「御厨さんはよく散歩するの?」
神村が口を開く。ほんの雑談話ではあるが御厨にはどれも宵夜という名の地雷に思えてくるが答えないわけにはいかないので、御厨は恐る恐る返答する。
「い、いやぁ実はそこまで定期的じゃないんだよね...不定期で少しストレスの発散に...」
「へぇ。でも良いストレス発散法だと思うよ!俺なんて部活で運動は精一杯なんだよね。まだ1年だから慣れてなくて...」
「それは大変だね。でも、私は帰宅部だからちょっとは運動しないとね。」
「あー、御厨さん、あんまり運動神経が良くないイメージかも。体力テストのハンドボール投げの様子をちらっと見たけど、10mも飛んでなかったし、20mシャトルランも早いうちからいなくなっていた...」
「み、見てたの!?...は、恥ずかしいなー」
「あはは。ごめんごめん。でも、他の奴は見てないから。」
「あ、あはは...」
御厨はその言葉を聞いて心の中で安堵する。
体力テスト。御厨にとってはあまり思い出したくない思い出だ。
長座体前屈、上体起こし、20mシャトルラン、ハンドボール投げは、普通の運動できない女子が叩きだす記録としてふさわしい物だった。
しかし、問題は握力、反復横跳び、50m走だ。中学からここまで成長すると思ってなくてつい運動部女子と並べても遜色ない記録を叩きだしてしまった。そして立ち幅跳びに至っては着地する寸前に真下に見えた数字は3mだった。後で調べてみると女子の中ではトップレベルの記録だと知った。
これは流石にやばいと本能的に感じ、着地すると同時に後ろに豪快に倒れこむことで記録をごまかすことができた。記録してくれたクラスメイトに不信感を持たれたが、持ち前の影の薄さと3組の大西っていう女の子がすべての種目で10点を叩きだし、握力と反復横跳びは純粋な記録で男子を入れても学校トップになるという暴れっぷりのおかげで有耶無耶にできた。
その日から体育の陸上、器械体操、柔道などは物凄く手を抜いている。特に柔道に至ってはうっかり本気を出してしまわないように細心の注意を払っている。対照的に球技は単純な運動能力では測れない、また違うセンスが必要なので、下手に実力を隠す必要はない。というのが今の御厨の体育事情なのである。
と長々と説明したが要するに御厨はクラスの中で一般的には運動ができない人として通っている。まず、丸メガネのラノベを読む少女といういつもの姿からして普通の人はそう判断するし、体育も目立った活躍はしていない。そして、それは神村も決して例外ではない。
運よく全力を出しても平均以下しか出なかった2種目しか見られなかったのも神村がそう誤認する原因だろう。
「た、体力テストといえば...えーと、か、神村君はなんでバスケ部に入ったの?」
一刻も早く体力テストの話を終わらせたい思いから御厨は流石に彼の部活の話にする。この話題なら地雷は無いと判断して強引に話を逸らす。
「ん?あぁ、実は父さんが元々バスケのプロ選手で。ちっちゃいころからバスケに触れてたからその影響でね。」
「へー!お父さんすごい人なんだね!」
「いやいや。B2...下の方のリーグのチームでスタメンを数年やっていたレベルだし、去年引退したばっかだから、そんなスター選手ではないけどね...でも、それでも、バスケやっている父さんはかっこよかった。」
「...いいお父さんなんだね。」
「うん...そういえば御厨さんの親御さんの職業は?」
「ママはパートで、パパは警察官。いまは確か警備部って所にいるんじゃなかったかな?」
「警察官かぁ!なんかこんなことを言うのもあれだけど意外だなぁ。」
「え?なんで?」
「だって御厨さんから警察っていうイメージが沸きづらいっていうか...こんなこと言うのもあれだけど守るっていうより守られるイメージの方が強いんだよね。」
「え?そんなこと...い、いやぁ、ママに似ちゃったんだよね!」
またしても焦る御厨。そうなってしまうのも無理はない。なぜならこれも間接的にではあるが宵夜のルーツとなった話であるからだ。
あれは明日香がまだ中1だったころ。オタクになりたてほやほやの明日香が心を奪われたのは児童向けとは思えないストーリーの奥深さとかっこいいアクションシーンのある覆面バイカーだった。そして、心を奪われた結果、中1女子ながらファイトスピリットを持ったのだ。
これだけならまだそのファイトスピリットが表に出ることはなかった。しかし、そのファイトスピリットを燃え上がらせ、表に引き摺り出した人物がいる。その男こそ明日香の父、御厨隆なのである。
当然、父親自身に娘のファイトスピリットを焚きつける意図は一切なかった。ただ、可愛い娘が襲われても対処できるように自分の警察官としての経験を生かして基本的な護身術を教えただけだ。
そして、明日香はこれに大興奮。基本を教えた父からの護身術講座が終わった後もひっそりと鍛錬し、基本を踏まえたうえで自分が敵を効率よく無力化できるように試行錯誤して、それを我流とする、という武道上達のステップ、守破離を確実に踏んでいった。これを踏まえてる時点ですごいのだが、彼女は幼馴染の古瀬が言っていた通り、こだわりが強く、好きなものに対しての向き合い方がオーバー気味なのだ。
父親から教わった護身術という火種に覆面ライダーで燃え上がったファイトスピリット。そこに御厨の好きなものへの対応は限界という油をちょろっと注げばあら不思議。夜な夜なチンピラを瞬殺している化け物ファイターが誕生するのである。
「あぁ!お母さんに似ているんだね!だったら納得だ!」
本当はパパのようにフィジカル強いです。バリバリに守ってる方です。なんて言えるはずもなく、愛想笑いしかできなくなった御厨なのだった。
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