ドキドキ!?帰宅デート

「...案外変わらなかったな。」


放課後のバスケ部の活動後、一人で帰りながら今日のことを振り返る。そのフィードバックの内容は当然、御厨さんとの接し方である。


朝練であれほど悩んでいたのが馬鹿馬鹿しく思えるほどに御厨さんを前にしたらいつも通りの会話ができた。


もちろん、人が大勢いる中なので、「昨日のあのチンピラを瞬殺したやつどうやったのー?」なんてことを口走ってしまえば最後、周りの人だけでなく、御厨さんにもドン引きされ、さらには御厨さんの中にいる宵夜に口止めで殺されるので、それは大いに気を付けたがあまり憂うことなく御厨さんとの会話を楽しむことができた。


しばらく歩いていると見たことがある背中が目に映った。


「…ん?あれって…」




「やっばい!めっちゃ動揺したぁ...」


御厨宅の明日香の部屋。そのベッドに寝転がる御厨明日香。


「なんで神村君に違和感を気づかれなかったんだろう、ってレベルで顔に出てたはずなのに...」


今日の私は神村君が違和感を覚えなかったというのが奇跡的なレベルで動揺しており、たくさんの人に違和感を覚えられてしまった。


一発で察した古瀬には幼馴染パワーってことで納得できるし、朝、顔を合わせた瞬間に違和感に気づいた弟にも弟パワーってことで納得できるのだが、今日の家庭科の授業で家庭科のおばあちゃん先生にも気づかれたのは何で??


私、あの人と本当に家庭科の授業でしか会ってないんだが??


「...やっぱり年の功ってやつなのか?」


ちなみに、朝早くに外出してしまった両親とはまだ顔を合わせていないがほぼ確実に違和感を覚えられるだろう。


はぁ、どう言い訳しようかな...


「...いや、うだうだ悩んでいても仕方ない。少し早いけど散歩がてら宵夜になりましょうか。」


大方、今を時めくJKから出てくるストレス発散方法ではないのだが、御厨の中ではこの思考は常識なのだ。家を飛び出して15分ほど歩いていつもの狩場に来た。この辺りは何故か治安が悪いのだ。


その周辺で路地裏などの人目のないところを通りながら散歩する御厨。


「…やっぱり時間がちょっと早かったかな?」


人間の正常な構造で、24時間働ける人がいないように、24時間オラつけるようなチンピラもいない。さらに彼らは労働のように強制されている訳ではなく、自らチンピラになってるために暴れたくない時は暴れないという選択が出来る。そんなわけでこんな夕方から暴れる人は滅多にいない。


しかし、ゼロではないということとせっかく来たのにっていう感情とこのモヤモヤをぶっ飛ばしたいっていう気持ちが御厨に家に帰って夜まで待つ選択肢を消す。


そして、御厨は帰っておけば良かったと思うことになる。


「御厨さんじゃん!」


御厨がギョッとして振り返ると笑顔の神村がいた。悪意はないのはわかっているが、その姿が悪魔のように思えてくる。


「…あ、あぁ!神村くん、奇遇だね!」


「なんか最近、学校外でよく会うね!」


「そうだ…いやいやいやいや!これが初めてでしょ?何を言ってるのかなぁ?」


「…あ!そっか。いやぁ、べ、別の人と間違えていたみたいだなぁ!」


...白々しすぎる二人の会話にツッコミたい気持ちもわからなく無いが、お互いが自分のことにいっぱいいっぱいでお互いの違和感に気づかない。


「ところで、御厨さんは家はこの辺なの?」


「ううん、こっから少し歩いたとこ。」


「へぇー、じゃあどうしてここら辺来たの?」


「アッ」


鋭いのかそうでないのか分からない神村の核心をつく質問が飛んできた御厨の口から短い悲鳴が漏れる。


「えぇーと、その、あれだよほら、あのー…そう!ただの散歩!歩かないと運動不足になっちゃうから!」


「え、御厨さん偉っ!」


「アッ」


今度の悲鳴は純粋すぎる神村の返答と、そんな人に嘘をついているという罪悪感のダブルアタックを食らった時の悲鳴である。


「御厨さんはこっちに行くの?」


「ア、ソウデス。」


「じゃ、ちょっと一緒に歩こうよ!僕もこっちだからさ!」


「アッ…スーーッ」


本当なら一緒に帰るなどというリスキーな選択肢は取りたくはない。ないのだが、即興で誤魔化すのが下手だと自覚している御厨はここで不自然に離れるか、自然に一緒に行くかという二択を突きつけられ、


「…うんいいよー!一緒に行こう」


結果、後者を選んだ。表面上は笑顔だが、よく見るとその顔は引きつっており、心臓に至っては神村にもその心音が聞こえるのではないかというレベルでバクバクいっている。


(私はただのJKの御厨明日香!私はただのJKの御厨明日香!)


(御厨さんと一緒に帰れるなんて!どうしよう!なに話そう?)


二つの想いが交差する。二者二様の焦りを持つ彼らは二人はそれぞれ帰路につく。


だが、この帰り道のハプニングはこんなところでは終わらなかった。

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