好きな子(オタク陰キャメガネっ娘)が喧嘩最強だったんだが…
草野蓮
青春だ!恋だ!チンピラだぁ!?
空が青く晴れ渡るある月曜日のこと、俺は軽やかな足取りで教室のドアを開け、自分の席に座り、すぐに体を後ろの席の丸メガネ、黒髪ボブカットの女子の方へ体を向け、手を軽く上げて挨拶をする。
「...あ、神村くんおはよう。」
メガネ少女こと、
「その本、面白い?」
「うん。1巻貸そうか?」
口数少なく、おすすめしてくる御厨。
「ありがたいんだけど、俺、本苦手だから、遠慮させてもらうよ。そうだ!話変わるけど昨日の『覆面バイカー』見た?」
御厨がおすすめする本をやんわりと断った事に若干の罪悪感を覚えながら、話題を変える。その瞬間、御厨は本をおすすめし、断られたことなど無かったかのように御厨はメガネをキラッと光らせ、得意げに言う。
「もちろん。『覆面バイカー』は今一番ハマってるから。」
彼女とは日曜朝にやっている『覆面バイカー』という特撮が好きという共通点がある。俺もそうだが、御厨も結構マニアで覆面バイカーのことで彼女と話が尽きることはない。
この日も例外でなく、そのまま俺らは昨日の覆面バイカーの話をする。覆面バイカーのコンセプトは魔法使いや探偵など毎年変わっていくのだが、今年の覆面バイカーのコンセプトは宇宙から来た宇宙人が覆面バイカーになるというもので、昨日の物語は主人公の星から送られた支援物資がようやく届いて一号バイカーが一段階パワーアップした、いわゆる物語の転換点だったから、余計話は盛り上がった。
次に覆面バイカーの話題が途切れたのはチャイムが鳴り、日直が号令をかけた時だった。前を向いて、礼で頭を下げた後、御厨がこそっと耳打ちしてきた。
「ありがとう。楽しかった。また話そう?」
俺は心底、御厨が後ろの方の席で良かったと思った。なぜなら、俺の顔は真正面で見られたらすぐさま気付かれるほどに真っ赤に染まっているからだ。
顔を真っ赤にしてる理由はただ一つ。それは俺、
惚れた理由は至って単純なものだった。高校生なのに子供っぽいと嘲笑われ続けてきた趣味を否定するどころか一緒に推してくれ、話も面白い。さらに、メガネで隠れてしまっているが、よく見ると童顔で可愛らしい顔だちをしている。
こんな悶々とした甘酸っぱい気持ちはおそらく学生の大半は味わったことがあるだろう。
人によっては告白する人もいるだろう。だが、俺はこのままでいいのだ。この心地よい関係が続けばそれでいいのだ。
それよりも告白をして断られた時、今までのこの楽しい思い出が一気に悲しい思い出に染まってしまうのが怖くて怖くてしょうがない。
だから俺はこのままの関係でいい。この心地良い関係が続けばそれでいいのだ。
学校が終わって放課後、入っているバスケ部の活動を終えて、家に帰ってきた。
「純!ごめん!」
玄関先に入った瞬間に唐突に母さんに謝られた。
「え?どうしたの?母さん?」
「今日オムライスを作ろうと思ってたのに、卵を買い忘れちゃったの!」
「オムライスの主戦力がごっそり抜けてんじゃん。何やってんの母さん。」
通学バッグを置きながらうちの母さんのポンコツっぷりにため息をついてあきれる。
「ごめんねぇ...私、いまチキンライス作っている最中で出られそうにないから買ってきてくれる?ほら、お駄賃。あ、お釣りは好きに使っていいわよぉ!」
「お駄賃ってもう子供じゃないんだから...はぁ、わかった。いつもの店でいい?」
「ありがとう!純!」
母さんの礼を受けて貰った500円玉を握りしめ、玄関先で回れ右をしてドアを開け、外に出る。
そして、歩きなれた道を歩く事数分、少しショートカットをしようと近道になる路地裏に入った。しかし、それが間違いだった。
「おい!そこの坊ちゃん!こんな夜に一人で危ないだろぉ?」
「そうそう!俺らみたいな人に見つかっちゃうからねぇ!?」
たばこ、バイク、改造学ラン、派手な髪色に、体の至る所についているピアス、さらに下卑た笑い。
路地裏にはチンピラの役満をそろえた3人組が俺の前に立ちふさがった。3人は俺が逃げられないようににやにやとしながら周りを囲んで行く。
あまりにも典型的すぎて逆に怖くないまである。
まったく、母さんから卵を買ってこいと言われただけなのに。
周りを見ても人気のない路地裏では当然、助けてくれそうな強い男の人は居ない。
「さぁて、もうわかるよねぇ?俺らが何を求めてるのか。」
「まさか...体ですか?」
「ちげぇよ!!気持ちわりぃな!なめてんのかおめぇ!野郎の裸なんて見たくねぇわ!」
どうやら渾身のジョークは伝わらなかったらしい。
「っち!察しわりぃな、金だよ!かーね!」
「とはいっても、卵代しかないですよ?ほら、500円。」
生憎自分の財布はバッグを玄関に置いた時に一緒に置いていってしまった。
「なんだよ!ガキの小遣いかよ!今時小学生のほうがもっともってるぞ!?」
「一度痛い目見なきゃわからない様だなぁ!?」
指をボキボキ鳴らしながらその目を光らせるチンピラ。持ってないものはしょうがないのに…
正直、喧嘩なんてやってこなかったから要領がわからないが、だからこそなのか、怖いもの知らずで3人をにらみつけた。
「お?いいぜ。骨のある奴は嫌いじゃないぜ?まぁ、お前はどのみち殺すけどなぁ!」
チンピラが威勢のいい言葉を放ったその刹那。鈍い打撃音と共に目の前の3人組は背を向けた1人の少女に変わっていた。
「は?え?」
少し奥の方を見ると、白目を向いて延びているチンピラ達が見えた。どうやら、この少女がチンピラを倒してしまったらしい。
「こいつでもなかったか。あぁ、そこの者。夜道を歩くのは危険だ。こんなことがあるからな。ほら、とっとと行った行った。」
芯のある声で少女が言う。普通なら少女が不気味に見える状況だろう。
しかし、俺はこの少女の声を知っている。何ならほぼ毎日話している。
「御厨...さん?」
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