第2話 バトルロイヤル
「痛ええ、頭が痛ええ!」
死んだはずじゃなかったか? でも痛い。
なんだあの世にも痛みってのがあるのかい?
「くそ、硬いな。死ね! 死ね! 私が、私こそが王座に相応しいのよ!」
「あ?」
なんか目の前の奴に槍で叩かれてるのか。だから頭が痛いのか。
ああ、なるほどね。お前が地獄の獄卒かな?
でもよ俺、死ぬ前には法に触れたことはねえよ。こう見えて前科はねえ。
あ、ガキの時のはノーカンにしてくれよな。
「おい、てめえ、人違いじゃねえか? 地獄に落ちるほどの悪党ちゃうぞ」
「くそ! 生意気なやつだ、なんで死なない」
いや、俺はもう死んでるんだからそりゃ死なないだろ?
ん? 獄卒が死者を殺そうとするものだろうか?
「ああ、転生ね。はいよ」
まあここでも喧嘩していいんだろう。こいつは得物持ち、で、正中線をめがけて攻撃してるから殺意はマックス。ここ、試験に出るからな。
殺意があったかなかったかはお前の意思なんて関係ないんだよ。どこを狙ったいたか、という客観的な要素で決まる。つまりこいつは殺人未遂までは確定なわけ。
「槍の使い方がなってねえぞ、姉ちゃん」
目の前の犯罪者は女だ。まあ俺より20㎝くらいでけえ女だ。
あれ、本当に女でいいんだよな。胸と腰が張り出してるから♀でいいと思うんだが、心は男かもしれないから一応♀って呼んでおこう。
不良の割に詳しいだろ。ワル仲間にいたんだよ。居場所のなかった奴がな。
それと染色体の話はしないでくれ。授業を聞いてもよくわからなかったんだから。
「槍ってのはなこう使うんだよ」
突いてきた槍を回避。柄を掴んで思いっきり引く。♀の態勢が崩れたところで今度は押す。石突と呼ばれる持ち手の方の先端を相手の腹にシュート。
「ぐほえ」
「お前、いくら何でも軽すぎないか? うっかり死んでくれるなよ」
予想外にダメージが入った。♀はけっこうぶっ飛んだし、なんか黄色い液体を吐き出してる。
「待て、なんだお前?」
ここにきてやっと気づいた。
この♀、腕が4本ある。今まで脳が受け付けて無かったが、腕が4本ある。
「腕が、4本ある⁉」
あまりにショックだった。3回も繰り返してしまった。天丼もなしに。
あ、天丼というのは笑いの技術な。おもんないことでも3回目に変化球を投げるとオチがつくんだ。
「馬鹿め、当たり前だろう。それよりも死ね。私の王位のために」
その♀は再び立ち上がった。
しかし、ダメージが堪えたのか、動きは緩慢だ。
この隙にちょっと姿をよく見てみる。顔は人間だ。
4本腕はいいとして、服装はドレスみたいなやつだな。コルセットをぎゅっと締めたようなくびれが胸と腰のふくらみを強調してやがる。
ドレスは黒地に黄色のライン。これだけ言うと蜂みたいな色合いだが、ボーダーじゃなくて縦に黄色が入っている。ぱっと見た限り黒の面積の方が多いから、黄色がジグザグに走っていることも合わせて夜の稲妻を思わせる。
「ケツがでかいだけでそこまでスカートが膨らむこたあないだろうから、なにか詰めてるんだろう。はっ、俺の大嫌いなお貴族様じゃねえか。ちょっと痛い目あってけよ」
「何をたわけたことを。私が王になるのだ。おとなしく死ね!」
突如として槍の形をした光が2本現れる。目の前の♀はその光を掴むと、あら不思議、どこからともなく槍が姿を現した。槍を取ると光は消えてしまった。
「なんだてめえ⁉ ずりいぞ」
「ふん、笑止千万。お前も使えることくらいは肌身で知っておろう。それとも使えないのか? ならばますます私が王となろうではないか。さっさと死ね」
「あー、よく分かんねえけど、こいつ殺してもいいだろう。どうせ現世じゃねえんだし」
よくわからないことだらけで頭がおかしくなりそうだ。
「キイキイ鳴いてんじゃねえぞ、雑魚。うるせえ」
「ぅぁ」
奥義、槍投げだ。両手で構えたままのふりをして、左手の位置はそのままに右手で槍を投げる。
体が動いていないように見せながら槍を投げた。不意打ちの技法だ。
♀の脳天に命中し、そのまま意味ある動作をしなくなった。膝をついて4本の腕を痙攣させている。死んだな。
「あー後味が悪いな。まあ。こっちは1本、お前は2本だ。俺の方が不利だから正当防衛だよな」
にしても後味は悪い。俺は喧嘩は好きだが、殺しは嫌いなんだ。
じっと手を見る。汚れちまった悲しみをじっと見るのさ。
「腕が、4本ある⁉」
俺もか。そして俺も変なドレスを着せられている。
見た目はあいつそっくりだ。
「なんじゃ、なんじゃこれはああ⁉」
太陽も見えない黄金の密室の中で、俺は吠えた。
「ほう。生誕が遅くなったが、妾にもチャンスがあったか」
愕然としている暇も無え、センチメンタルは前世どころか前前世にさえ置いてきた。
「お前もバトルロイヤルか?」
「無論じゃ。王は一人のみで十分じゃ」
「やれやれだ。出口も無いしな。正当防衛はもう気にしなくていいか」
壁を見ると、薄く同じ顔をしたような奴があとまだ2、3体いる。
だんだんと壁をすり抜けて? こちら側にやってきている。
「ふふふ。死んだアホには感謝せねばなるまい。妾の誕生まで時を稼いでくれたのだからな」
2体目の♀はそう言い放った。どこまでも自分勝手な奴らだ。
まあ、これも血がって話なら俺が咎める話でもねえ。
「しょうがねえよなあ。血は争ねえからなあ」
俺も「覚悟」が決まった。
「じゃ、始めようか、修羅の時間だ」
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