第11話 大掃除
何やら襲撃があったらしい。
わざわざ俺のところに来たのは新人かな? つまり俺の産んだ世代と言うことになるわけだが、戦争の裁可を得るでもなく、避難を指示するでもなく去ってしまった。
「【テレパス】」
状況を確認しよう。6体の光蜂の安否を確認する。1体ブラックアウトか。こりゃ死んでるな。寝てるときは夢が見えることもあるし、瞼の裏側のデータ。
戦闘は既に始まっているということか。
「しかし、防音性能高めすぎるのも困りものだな。まったく聞こえない」
そんなに声でかいのかなあ、俺。
ちょっとショックを禁じえない。もちろん、兜武者の征叢に一刀両断されてしまった反省を踏まえて、もっと強固に作るのは分かるけれども。
「あ、1体交戦開始してるみたいだな」
光の明滅が激しくなる。あ、すげえ、光の槍を撃ちこんでクモを丸焼けにした。
とにかく非常事態だ。状況が悪化するようなら征叢からもらった太刀、伝家の宝刀の抜き時になるだろうから、一応佩いて前線にいく。
「といってもそりゃ普通のクモじゃねえよな」
俺たちと同じクモと人間の要素が入り交ざったやつらだ。
目は八つあると聞いたが、なんだか人間の顔が全周に4つ。シヴァ神の奥様ってああいう顔の付き方してるんじゃなかったか?
それに腕が6本ね。上腕2本にナタを持って、中両腕は指の間に糸を通してパチンコみたいなのにしてるな。で、下両腕で弾を飛ばすってわけか。
「しかし、火を点けて回ってんのか。厄介だな」
焼討ちは基本と言うが、火をかけたところに突入させるってなかなか野蛮だな。
あいつら炎の耐性が異常に高いとかあるのか?
なさそうだ。
「平均的な【ファイアーボール】4発でKOか。こっちがわも火を使い始めたよ。うわ⁉ 眩し!」
情報を送り届けてくれた光蜂の視界は機能しなくなってしまった。おそらく敵がいなくなって回復魔法に専念しているのだろう。以前俺にも使ってくれた【ハニムーンライト】で、周辺の働き蜂の回復を一気に行うつもりだ。
「で、俺は光蜂が一匹も居ない方向に来たわけだが、ビンゴかな」
「ぐげ? なぜここにいる。上の火事で手薄になったと思ったが?」
蜘蛛人が目の前にいた。5匹か?
もしかしてこいつら卵を持っていこうとしている?
「てめえ、それは俺の産んだ卵だぞ、きったねえ手で触れてんだ」
なんかこういう言葉遣いに違和感を感じなくなってきた。
母親の自覚ってやつですかあ、まあいいや。
「とりあえず死ぬなよ。【ダークランス】」
「なに? 投射でなく、手に持って? 闇魔法の実体化だと」
「ありえぬ。なんという練度」
「ここは逃げるぞ」
「逃がさねえよ」
「ぐほ!」
「無詠唱だと?」
「ほげえ!」
【ダークランス】が胴体を貫く。足元から槍が生えてくるなんて、顔が4つあっても見えねえからな。無詠唱ならなおさらだ。
これも過信しちゃいけねえはずだ。逃げに特化したために、俺の魔力変化を見逃したはずなので、臨戦態勢の敵相手にはぶつけられねえよなあ。
「ぐ、助からんか。われら魔蜘蛛人に、これほどのダメージを出すとはやりおるな」
「が、我らとて闇の眷属。闇魔法などやすやすと通さぬぞ」
「なるほどね。闇蜘蛛に撃ってもダメってことか【ホーリーランス】」
「ぎゃ……」
「よかった。悲鳴を上げられるほどぬるくなかったみたいだな。まあ安心しろ。殺しはしないさ、ってもう聞こえてねえんだった。」
親父ギャグという氷魔法威力絶大ですねとか言ったら殴る。
おじさんになって誰も傷つけずに笑いを取る方法は親父ギャグだけなの。
「陛下! なぜここに、ここは危険ですお早く脱出を」
「え? そんなにやばいか?」
詠唱破棄した【テレパス】でざっと戦況を確認。
残る4体も交戦を開始していたが、優勢では?
死体に念のための止めを刺しているか、負傷者の
「はい。一刻も早く脱出を」
「まあ、落ち着けとりあえず上にいくぞ、状況把握だ」
「えええ、へ、陛下ああああ、置いていかないでええ」
新兵かな。まあ最初はこんなもんだろ。一応俺についてきてるし、敵前逃亡ってわけでもなさそうだ。
「ああ、陛下、いないと思ったらこんなところに」
「おう、なんか大変だったな。死傷者、行方不明者の確認頼むな」
日本に居た時は、戦争なんてなかったわけだが、災害対応と同じでいいだろう。
被害を確認しないとどうしようもない。
「え? そんなもの分かるはずないじゃないですか」
「え? ああそうだったな。そうだった」
いけねえ、こいつら個体を識別しないんだ。人数でしか把握してない。
俺だけは女王蜂と認識できるみたいだからうっかり忘れてた。
これが座敷牢生活の代償だよな。
「とりあえず消火活動とパトロールしてくれ。異常ありと騒ぐものがなければ事態は収拾ってことでよろしく」
そう言って俺は自分の座敷牢に帰ってきた。
誰か侵入してきた形跡もあったが、もう逃げ出した後のようだった。
「はい、じゃあここを起点に指揮とるから、報告あったら持って来て」
これは長い生存競争の序幕に過ぎないのだろうなあ。
なんとなくそんな気がしたんだ。
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