第12話 組織的戦闘
滅茶苦茶なんだよなあ。実に滅茶苦茶だ。
「じゃあさすがにこの要塞に敵はいないんだな?」
「はい。そのはずでございます」
今俺は、自分の部屋でシープさんに詰問中だ。
この要塞の巡回、警邏、報告それらのルールや基準が滅茶苦茶だったのだ。
だから敵を掃討したのか否か、なかなか確認が取れなかった。
つまり、統制の取れた索敵ができてないということだ。
入り組んだ要塞の構造が、この部屋はクリアリング済みの部屋なのか否か、次はどの部屋にいくべきか、クリアリングしたという情報を誰が誰に伝えるのか、まったくはっきりしていなかった。
しかし詰問中でも産卵は止めないあたり、俺もすっかり女王蜂に慣れちまった。もはや呼吸みたいなものだ。
「侵入を許したのはなんで?」
「はい。近場で花畑が確認されたので、そちらの調査に向かっておりました。そこで手薄になったところを狙われたのかと」
「敵の目星はついてる? そもそも組織的な攻撃と見てよいのか?」
「はい。山蜘蛛の連中でしょう。我々とは食料を巡って争っております。今回の襲撃は食うに困っての攻撃でしょう」
「それは口減らしってことか?」
「ああ、それもあるでしょうねえ。ただ、主目的は我々を食うことでは?」
「え? あいつら俺たちを食うのか?」
「はい。我々も食いますけど」
あれ? 俺が今まで食べた物の中にあいつらの肉も入ってた可能性がある?
「陛下? 顔色が悪いようですがどうかされましたか?」
「いや、あいつらのこと食ってたのかなって思うと急にな」
「ああ、であれば杞憂ですな。陛下のお食事には使っていませんよ。雑兵のおやつみたいなものです」
「そっかあ」
それは一安心だ。安堵のため息が漏れた。
「で、報復の計画は?」
「報復?」
「え? 口減らしに送り込んできた親玉みたいなのが居るんじゃないのか?」
「……? おそらくいないのではないかと?」
「へ? けっこうな攻撃規模だったけど」
「せいぜい1氏族分くらいでは、そもそも山蜘蛛の連中は我らと違って社会性がありませんからな。子どもを食わせるためにやむなく親蜘蛛が強襲して来た、といったところでしょう」
「そうか。勘違いをしていた。しかし、やられっぱなしではじり貧にならないか?」
「うーんそうでしょうか? 今回外出に出ていた者には損耗なし。居残りの者に少々死傷者が出たという話ですからな。そもそも討つべき敵は全滅させてしまったのですよ」
「ふむ。食料事情が厳しいというなら、山蜘蛛どもの口減らしを手伝ってやろうと思ったんだがな」
「ほう、予防的に戦争しようということですか。いや、しかし現状に問題はありませんので、兵の徒な損耗は避けたいところですな」
「分かった。では山蜘蛛どもの動向には目を光らせておくってことでいいな」
「かしこまりました」
そう言ってシープさんは出ていった。
山蜘蛛ねえ。ということは近くに山があるんだろうなあ。ということしか分からない。
いや、しょうがねえだろ。光蜂ちゃんはまだ若いから内勤メインであまり外に出ていかないのだ。老兵が率先して外に出ていくのは日本にいた蜂と変わらないのかな。
蜂の学習能力が限界をすぐに迎えるなら、これは合理的なんだろう。
俺の頭脳が蜂のそれと違うんだ。
「よし、じゃあ今日はこれで終わりだな。飯の時間だ」
ちょうどそのとき「お食事の時間です」と働き蜂さんがやってきた。
「お、今日はシカ肉の煮込みか。要塞の上層は火事やらで大変だったのに、よく準備できたな」
「恐れ入ります……」
やや消え入りそうな声だったのは、今日はいつもより果物が多いせいだろうか。
スープはかろうじて作れたが、火を使う料理はあまりできなかったということか。
「あ、あの」
「ん? どうした」
「陛下はどうして戦われたのですか?」
あれ、こいつよく見たらパニックを起こしてた新兵だろうか?
別に怒りは感じない。初陣ってそんなもんだろ。生きて帰ってきただけ偉い。ましてや防衛側ならなおさらだ。
だがなんて言ってごまかそうか。前世の記憶があとか言ってもピンと来ねえよな。
ヤンキーとか言っても絶対通じないし、働き蜂さんズには怠けものとかドジは居てもグレてる奴は見かけないしな。
「あーまあ、なんだ。母は強しってやつよ」
こういうときは適当言ってごまかすに限る。子どもがいるいないと強さなんてなんの関係もないからな。
ひっでえ母親も居たし、認知すらしねえ父親未満も居たっけなあ。13、14でもガキを産めるんだ。強さなんて伴わねえよ。覚悟がキマってる奴とそうでない奴がいる。それだけだわな。
虫の魔物に転生した俺は、あらゆる手段を使って魔境を生き抜くことにした 戦徒 常時 @saint-joji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます