虫の魔物に転生した俺は、あらゆる手段を使って魔境を生き抜くことにした

戦徒 常時

第1話 昔は良かったよな

 俺は外場とば 嶺慈れいじ


 親のネーミングセンスが終わってるだろ? 親父はアウトレイジって言葉が好きなんだってよ。実際、あちこちで喧嘩をしては警察の世話になってお説教食らってたっけな。


 親父が親父ならお袋もそうだった。そういう親父にほれ込んだ女だ。態度も声もでけえのなんの。その辺の中坊がオイタをしたくらいだったら、そのままのしたりして、これまた警察の世話になるタイプだった。


 時代が時代だったから、逮捕されるだけで、前科みたいなことにならなかったのは幸いだったな。相手もろくでなしだったからというのもあるが——


 ああ、俺? 遺伝って知ってるか? なら話が早い。俺も血は争えなかった。

 現に今も——


「おい、兄ちゃん、もっとあんだろ? 出せよ。」


「無いです、もう、やめて許してクダサイ」


「はあ? てめえが撒いた種だろう? 飛べよ、小銭ならあんだろ」


「俺は、俺はもう持ってないです」


「話になんねえな。おいそこのもやし。トータルいくら取られたんだ?」


「え、ひい、えお」


「声が小さくて聞こえねえよ!」


「にま、2万円です」


 地面に転がした野郎どものポケットを漁って財布を探す。


「お、あったあった。ほらよ。次から気をつけろよ。この街はクズのたまり場なんだからよ」


「あ、あ、ありがとうございましたー!」


「ったく、だらしねえあんちゃんだな。礼くらいびしっと止まってきちっと言ってきゃあいいのによお」


 そう悪態をつくが、まあ慣れたものだ。厳つい見た目、5対1に勝つ喧嘩の強さ、もやしが絡まれてるところにわざわざ絡みに行く異常性を考えたら、もやしの兄ちゃんの対応も無理はないだろうさ。


「おっと、お巡りさん。こいつらですよ」


「外場ああああ。まーた貴様か」


「あ。その声は勝俣巡査じゃないすか、お疲れ様でーす」


「はあ。あのな、もう何回目か忘れたけどな、俺の面を割ってんじゃねえよ。あれほど騒ぎを起こすなって言っただろ」


 勝俣巡査はこの春最寄りの交番に配属された巡査だ。あれ、巡査長だったかな?

 まあそれはいいや。とにかく俺は最近この人の世話になることが多いんだ。


「ことの顛末はそこの防犯カメラに写ってるはずなんで、そいつに聞いてください」


「相変わらず手慣れてやがるな」


「へへ、やむにやまれぬ正当な場合はセーフなんすよね」


「それはこれから確かめるけどな、もうちょっと穏便にできなかったのか? 最悪死んでしまう場合だってあり得るんだぞ」


「いやいや、なんともならないっすよ。ナイフと素手じゃ全力で行かないと死ぬのはこっちですぜ。それに、もっと穏便にできるんなら、正当防衛にならねえじゃないですか」


「はあ、まあとりあえずそこにいろ、今応援を呼ぶ。お、救急車ももう来たか。向こうさんも慣れちゃったのかな、誰かさんのせいでな」


「はんせいしてまーす」


「反省してるんなら、よそでやってくんねえかなあ」


 ははは、勝俣巡査、俺が戦わなくなることはもう諦めてらあ。

 先ほど血は争えねえとは言ったが、親父ほど野放図じゃねえし、お袋ほど教育熱心でもねえ。法には則ってるんだ。さすがに警察全部は相手したくねえ。ムショの中じゃ暴れらんねえしな。


 いや、昔はこんなこともなかったんだぜ。

 中学生の頃は部活の上下関係がだるいから、地元の槍術道場に通ってよ。

 そこじゃあそこそこいいとこまで行ったんだよな。でも問題起こしちまって破門。

 そっから喧嘩部に転部したってわけだ。


 しっかし、これも因果って奴かねえ。


「ぅあ」


 これが俺の断末魔なんて、まあ、お似合いか。


 後頭部に痛みを感じながら俺はぶっ倒れた。レンガか何か、硬いものが当たった。投石だな。こちらに向かって駆けてくる足音が聞こえる。いいコントロールじゃねえか。きちんと初弾を当てやがった。


 人数は3人か? じゃあこの間の件じゃねえし、あいつらはこんなことしないだろう。悪いな。雑魚はいちいち覚えてねえんだ。


 その後も何回か同じ場所に衝撃を感じた。まず光が無くなってだんだん痛みは無くなっていった。

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