第3話 排除の論理

「あ、てめえも2本かよ。ずりいぞ。しかも槍斧じゃねえか」


 2体目もどこからともなく槍を呼び出した。

 普段は槍斧って呼んでるが、ハルバードって言った方がドレスの雰囲気には合いそうだ。洋装の人間が持ってたらハルバードの方がいいだろう。


「下種め、やはり貴様魔法を使えないようだな。ことさら王など不向きだ。ここで死んだ方が良い」


「あ、優生思想発見。こいつ差別主義者だぜ、フクロだ!」


 俺はワルで、喧嘩が好きだ。口喧嘩だって負けたくねえ。使えるものはなんでも使う。その癖がつい出ちまった。ここに烏合の衆なんかいねえのに。

 烏合の衆はすげえぞ、俺は殺しはナンセンスだが、攻撃していい奴を見つけると死ぬまで攻撃を辞めないんだぜ。悪の自覚が無い奴ってのは程度ってもんを知らねえ。


「何が見えているのだ? お前やはり不良個体だろう。王の務めは果たせぬ。ここで死ね。万が一お前が勝つようなことがあっては、国が亡ぶわ」


「はー、ソレ、大言壮語ってやつじゃねえの? そんなんで滅ぶ程度の国、とっとと亡んじまえよ」


「く、やはりここで殺さねばなるまい。聞いたな皆の者、こいつは優先排除だ」


 ん? と思って辺りを見回す。

 よく見ると同じような服装の奴らがほかにも壁を透過しつつある。だんだんこちら側に出てくるようだ。

 耳はもう聞こえているらしく、なんだか壁の透過スピードを上げてきやがった。


「ああ、二人以上は死刑の可能性、バリバリ見えるんだよなあ」


 これはただの懐古ってやつだ。俺は、少なくとも俺の思っていた人間ではもはやなくなっちまったし、ここは日本じゃねえ。こうやって殺し合いをするのが当たり前の魔境みてえだ。


「腹ァ、括れ! ってんだなあ」


 俺も槍斧、ゲフンゲフン、ハルバードが欲しいなと思ってたら、なんか左手に握ってた。2本振り回したことはないから1本だけだけどな。

 ハルバードを触るのは初めてだが、まあだいたい十文字槍と一緒だろ。突くための穂先、切るための斧、引き倒すための鎌。多用途な槍だ。


「2本あっても意味ないんじゃねえの?」


 横に薙ぐと敵の槍2本を両方とも絡め取った。そのまま大繩跳びで縄を回すように巻く。そうすると槍に振り回されてバランスを失い、しかも♀は手前につんのめる。


「はい、お疲れ」


 敵の槍の柄の上を滑らせて、そのまま首を切り落とす。


「うーん、斧の切れ味悪いな。俺の使い方のせいか?」


 といっても、首は落とせた。なんか引っかかる程度だ。


「いや待て、首切り落とすのは普通苦労するか。むしろ切れ味はいい方なのか」


 危ねえ危ねえ。包丁で刺身を切る感覚で語っちまった。


「次は、せっかちだな。慌てて壁から出て来たのか?」


 3体目は槍を4本もっていた。学習能力があるのはいいことだ。喧嘩の勝率が上がる。まあ、これは喧嘩なんて平和なものじゃねえ。死合なんだけどな。


「うんうん、俺も打ち合いできないと思ったやつ相手に投擲攻撃を行うのは非常に効果的だと思うぜ」


 3体目は2体目の戦いを見ていたのだろう。白兵戦では敵わないとみて初めから物量で押し切ろうという戦術のようだ。投げては槍を呼び出しをくりかえしている。


「よ、ほ、はい」


 俺がすることは簡単だ。空中の1本を捕まえて軌道をずらし、残りの3本を弾く。そのままハルバードの鎌のところでで回転させて、スリングショットのように返す。


「はは、投げるスピードと違うスピードでモノが飛んで来ると避けられないよな」


 ニンゲンの意識は4までなら分割可能であることが多い。奴は4本の槍を制御するのに意識を割かれて、俺の投げ返した槍への反応が鈍ってしまったのだ。


 ああ、俺? 槍ってのは線の防御がひたすら強えから、くるくる回してりゃ勝手に弾けるのよ。だから飛んで来る槍なんざハナから見てねえのさ。

 向こうの意識は分散したが、俺は集中した。そりゃあ俺が勝つだろ。


「おっと、お前もヤル気満々じゃねえか。壁から出きっても居ねえのに」


「くそ、ふざけるな。なぜ私が遅いんだ、王になるのは私のはずなんだ。私は選ばれたんだぞ!」


「あー、現状無抵抗だからどうしようかと思ったけど、今のを聞いて確信したぜ。やっぱ死んどけお前」


 頭部をぐさり。ほかの奴らと違ったのか、運動神経を一発で破壊したらしい。微動だにしなくなった。


「お、後ろにも居たのか」


 ハルバードの刃にキラリと反射するものがあったのだ。気づかなかったら前世のように後頭部の痛みを感じながら死んでいただろう。


 でも、あいつが最後かな。あれあいつで何体目だっけ? まあいいや。恐怖に駆られたように一本ずつ槍を投げてきている。かわいそうに。すぐ楽にしてやる。


「しかし、槍の扱いがなってねえな」


 ギリギリで槍を避ける。というか、まっすぐ前に進んでるだけなのに俺の肩を飛び越してしまう、ところを逃さない。


 飛んで来た槍の柄を捕まえて力点に、肩を支点にして下に振り抜く。作用点は敵の頭だ。投げつけられてきたこの槍はハルバードでも何でもない普通の槍だが、兜割りに成功。頭をカチ割った。


「槍は叩くものってなあ」


 バトルロイヤル、こんなもんか。

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