第9話 光ファイバー

「ぁ、ん?」


「おおう、また起こしてしまったか」


「あれ、征叢様? お出かけですか?」


「うむ。部下を待たせておるでな。出ねばなるまい」


「あ、でしたらハチミツをっと」


 まだ足腰が回復していないのだ。立とうと思ったが立てなかった。


「いや、それなら既に頂戴したぞ。これは実にいい。戦場の疲れが吹っ飛ぶからの」


 見れば扉の所には働き蜂がいて、サムズアップを決めている。

 問題なくお弁当は渡せたようだ。


「そうでしたか。武運長久を祈ります」


「ああ、では行ってくる」


 そう言うと征叢様は旅立った。どこかで戦闘中らしい。どこも大変だな。

 十度枕を共にしたが、寝起きが出立に間に合ったのはこれが二度目だった。


「お母さま、あ、陛下お目覚めですか」


 そのままがらがらとワゴンを押してきた。会心の出来ですと言いながら。

 俺の子が調理場担当になっていたことを確認できたのも初めてだった。


「そっか、そこに置いておいてくれるか。体が動くようになったら食べる」


「え? そんなに激しかったんですか? 【ハニムーンライト】」


 キャピ、って感じだった。働き蜂は軽々と大規模魔法じみた魔法を使った。

 俺の足元だけじゃなく、部屋全体が黄金の輝きを放ったからだ。


「え?」

「あれ? 強すぎた?」


 しかし、身体がみるみる元気になっていく。


「ああ、今のは光魔法?」


 光魔法は2系統に分かれる。神々しい光を放つタイプと肉体や精神に影響を与えるタイプの魔法だ。


「はい……。ちょっと気付けのつもりだったんですが。すみません強すぎましたか?」


「いや、問題ない」


 クツクツと笑いがこみあげてくる。さすがに不審者が過ぎるからこらえているが、いやこれがこらえずにいられようか。下地が完成したではないか。

 一応聞いてみよう。


「お前さん。光魔法以外の適性あるか?」


「いいえ、それがその、無いです」


 急にしょぼんとなった。そうか羽化の時点で適性検査的な何かがあるんだな。

 それで普通は適性が6属性あるのに、光属性しか適性が無かったと。


「いや、お前が気にすることではない。そもそも働き蜂さんの魔法は出力が弱い。全属性使えてもじり貧になると予測していたのだ」


「ん? では、おかあさ、ゲフン。陛下のご意向で属性を偏らせたということですか?」


 お、こいつ察しがいいな。


「ああ。そうだ。こうやって私の目となり、耳となってもらうためにな。【テレパス】」


 瞬間、光の糸が2者間を結んで消えた。


「え? あれ、なんでもない」


「うん。よし。上手く行った」


「え? 今のでなにか?」 


「ああ。魔法は成功した。あなたは普通に生活してくれて構わない。それとこのことは他言無用な」


「はい」


 突如として気を付けの姿勢になり返事を行う。

 これではワーカーと言うよりソルジャーだ。ちょっと目立ってしまうな。


「応答は普通にしてくれ。悪目立ちしていじめられかねない。それと、君と同様に光属性しか使えない子を見つけたら、ここに来るように伝えてくれ。一人ずつでいいぞ」


「かしこまりました」


 そういうと光の働き蜂ちゃんは出ていった。

 これは俺の革命計画の記念すべき第一歩だ。


 光魔法は生物の肉体・精神に干渉する魔法である。光魔法である【テレパス】を使って、働き蜂の視覚情報を俺に送り込み、俺はこの部屋に居ながら、この巣の全容と外界の様子を知るという作戦だ。


 これには2点の問題点があった。

 1つは、魔蜂人は地水火風光闇の6属性に適性と耐性を持つのだが、光以外の適性及び耐性が【テレパス】の送信機能を阻害してしまうこと。

 もうひとつは、6属性の耐性が揃うことで耐性が増してしまうようで、【テレパス】による洗脳を弾かれてしまうのだ。


 前者は分厚いコンクリで電波が届きにくくなる点、後者は洗脳が効かないので悟られてしまう点に問題があったのだが、適性属性を1つにすることで解決できたというわけだ。


「どれどれ、ちょっと見てみるか」


 そう思って【テレパス】を起動。


「おうおう。そうなってるのか。光、というか視覚情報しか送られてこないのか」


 さっきの働き蜂は厨房に戻っていく最中だったようだ。

 何人もの働き蜂とすれ違っていく。

 しかし、送られてくる映像イメージは鮮明だ。4Kだってここまで鮮明じゃないだろう。


 これは思った通り光魔法は自分の光魔法に対しては耐性を発揮しない可能性が高いな。もっとノイズだらけだと思ってた。

 子どもくらい近縁なら、光属性耐性をおおむね無視できるのだろう。適性とともに耐性が上昇したら、自分に回復魔法がかけられないからだ。

 逆に言えば、光属性のみの働き蜂は、戦場で回復できる者が少ないはずなので、前線には出せなくなる。運用を考えねばな。


「うお、これ、脳内イメージは送れるんだな。この巣の間取りは全部見なくてもおおむね分かるかもしれない」


 光の情報といいつつ、頭の視覚野を使って処理する情報も遅れるので、イメージ図とか文字情報とかも送れるということか。

 あれ、俺らに文字ってあったっけ? 見たことないな。

 それはおいおい考えよう。


「失礼します、陛下がお呼びになっていたと聞きまして」


 あれ? と思ったが【テレパス】を使う前に声かけしてくれていたのか。


「ちょっと、そこにいてくれ【テレパス】」


 こうして順次俺の目となれる働き蜂を増やしていく。これを古参の働き蜂に知られるとまずいかもしれない。俺は、いや俺に限らず、女王は子を産む機械としか思っていないと思われるからだ。

 対策を講じられないうちに、この巣を俺の手中に収めたい。


 結局この日6人ほどの働き蜂を捕まえて、【テレパス】を仕込んだ。

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