第一話 Begegnen−邂逅−
「大丈夫ですか?」
俺はその人に呼び掛けるも返事はない。
息をしているか確認しようと顔を見た時、明確にこの人物が女性であることが分かった。
息こそしているが、力なく、ただ屍のようにコンクリートに横倒しになっている。
このままでは命が危ない。そう思った俺は彼女の体の下側に手を入れ、持ち上げようとした。それほど重くはなく、むしろ軽いと感じるほどだった。
家に着くと、彼女をそっと畳の上に下ろす。持ち上げた時と比べて想像以上に大きな負荷に立て膝の体勢を崩しかけたが、何とか寝かせることに成功するとすぐ冷凍庫へ向かった。
氷枕と保冷剤を幾つか取り出し、早歩きて彼女の元へと向かう。
頭を持ち上げて氷枕を入れ、妙に袖の長い上着を脱がし、脇や首に保冷剤を当てる。
それから三十分程経過したが、意識の回復は見られない。悪寒が走り、時間の流れが遅くなる。もしかして、彼女は死に瀕しているのではないか?
こんな時に必要な物と言えば......水だ。俺は、直ぐ様立ち上がり、台所へと駆けていった。
水の入ったグラスを片手に戻ると、彼女の元へと駆け寄る。畳の上に染みができる。
水面の揺れるグラスを彼女の口へ近づけようとした瞬間、思わずその水で自分の手を濡らしてしまった。そのまま手が制止する。
そう、彼女の目が開いたのだ。
「よかった.......」
俺は嬉しさに包まれつつも、やつれた声で小さく呟いた。
「Hmm? Wo ist das?」
目を覚ました彼女が最初に発した言葉は、日本語では無かった。
そう言えば、ずっと気にしていなかったが、彼女は顔立ちからしても明らかに日本人ではない。アジア人とすらも考えにくい。ヨーロッパ人だろうか?
彼女がこちらを向いた。目が合い、再び手を制止してしまう。
「あ、あなたは........誰ですか?」
彼女が発した言葉は、今度は日本語だった。
「え?日本語話せるの?」
「はい。話せますけど?」
それも、ある程度流暢だった。彼女は、周囲を見渡し、俺に聞いてきた。
「すみません、状況を説明していただけますか?」
「帰宅中に君が倒れてて、熱中症かと思って家に運んで涼ませて寝かせてたんだけど......」
彼女はハッとして、俺の答えに続ける様に言った。
「そうでした。暑い中を歩いていたら、急にフラッとしたんです。まさか日本に来て早々、こんな目に遭うとは思っていませんでしたありがとうございます。」
彼女は軽く頭を下げた。その姿を見て少し緊張が和らぐ。
「その.........俺からも質問していい?」
「はい。良いですよ。」
「君って一体何者なの?」
彼女はしばし沈黙した後にこう答えた。
「簡潔に言うとですね、コミュニストです。つまり共産主義者、最も大きく言えば社会主義者ですね。」
こいつは何を言っているのだ?俺はそう思ったが、口には出さないでおいた。
「それが日本に来たことと何か関係があるのか?」
「やはりそう聞いて来ましたか........」
深呼吸をし、立ち上がると彼女は宣誓した。
「私の目的はズバリ、この国に革命を起こす事です!」
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