最終話 全裸旅の終わり

 意気揚々と扉をくぐったら、そこはなんと現実世界のわが家だった。

 慌てて戻るも時すでに遅し。出口は消えてて戻れない。


 異世界の大浴場だったはずなのに、どうして。

 あるのは懐かしいこじんまりとした湯船だけ。


 いやいや、ずっと帰ってきたかったのに、なんでまた行こうとしたんだよ。

 頭が混乱している。なにがなんだかわからない。

 とりあえず寒いので、まずはお風呂に入ろう。


 お湯は沸きたてのように熱々だ。簡単に体を洗い、すぐに飛び込む。

 じんわりと温まってくると、ようやく思考が整理できるようになった。


 たしかお風呂上がりに異世界へ転移して、大冒険したはずだ。

 旅を終えて帰還を待っていたけどダメで、諦めてお風呂に入ろうとした。

 うん、絶対に間違いない。あれは本当にあったことだ。


 ようやく戻ってこれたんだ、良かった良かった。

 ……でもせめて、お別れぐらいは言いたかったなぁ。

 みんな、本当にありがとう。破天荒だったけど、最高に楽しい冒険だったよ。


 お風呂から上がると、やっぱり懐かしのわが家だった。

 パジャマに袖を通すと、ほっとすると同時に、これで本当に戻ってきたんだと一抹の寂しさがよぎる。

 ぼんやりと髪をかわかし、湯冷めしないうちに布団へもぐり込む。


 暗闇の中、うっすらと見える懐かしい天井を眺めながら考えた。

 起きていたのに、まるで夢をみていたかのようだ。

 眠ったらまたあそこに行けるかな?

 本当はまだ戻りたくなかったような気もしてきて、あの世界を想いえがきながら目を閉じる。


 こうして僕は、ひょんなことから始まった異世界の旅を終えた。

 レンジでチンをするかのごとく、随分とお手軽だった。

 これも時代の流れってやつなのかな。

 ゆったりとまどろみながら、温かな幸せに包まれていく。

 おやすみ、全裸――。



 それからしばらくして、今度は逆に異世界の住人が風呂場から素っ裸で現れるのだが、それはまた別のお話……。

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異世界ネイキッド かぐろば衽 @kaguroba

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