第2話 アリアナの発明

 前クレスウエル公爵夫人ケリーが亡くなると、クレスウエル家はエリナ中心の生活になっていった。可愛がられて褒められるのはエリナだが、叱られてけなされるのはアリアナだった。


「アリアナはお義母様ケリーにそっくりなのだから、なんでもできて当たり前よね?」

 クレスウエル公爵夫人バーバラ前クレスウエル公爵夫人ケリーに対するうっぷんを、娘のアリアナにぶつけた。すでに前クレスウエル公爵夫人ケリーはいないので、アリアナを庇う人はいない。クレスウエル公爵夫人バーバラは厳しすぎる家庭教師を、幾人もアリアナにつけ、遊ぶ時間や眠る時間まで削らせた。

 マナーや教養を叩き込まれたアリアナは、結果的に七歳にして完璧なレディとなり、難しい本も大人顔負けで理解できるような賢い女の子になった。それは結果として悪いことではなかったのだがーー


 しかし、そのせいでレオナルドの婚約者に選ばれたのは、不運としかいえなかった。レオナルド・ハーヴェイ=ジンキンズ、彼はジンキンズ王国の我が儘で怠惰な王太子である。その瞬間からアリアナは、レオナルドの影としての生活を強いられることになったのだから。

 レオナルドは国王夫妻にとって遅くに授かった唯一の子供であるため、甘やかされ放題に育ったのだ。彼の無能さをカバーするために選ばれたのが、完璧に厳しく育てられた優秀なアリアナだった。


「いずれ王太子妃になる身なのだから、全力でレオナルドを支えるのです」

 

 王妃は当然のようにアリアナに命令し、成長したアリアナは朝から晩までレオナルドが署名すべき書類に埋もれた。幼い頃から、寝る時間は5時間ほどだった。だが、レオナルドの婚約者に決まった途端に、3時間に短縮された。レオナルドが遊び呆ける間、アリアナは国の法律、経済、外交について学び、側近たちや大臣たちと議論し、レオナルドがするべき決裁を代わりにさせられたのだ。


 それは報われない過酷な労働で、奴隷のようなものだった。なぜなら、素晴らしい成果を出してもレオナルドの手柄になるだけだったし、失敗したり思うような結果が得られないと、アリアナの落ち度ということになるからだ。アリアナは何度も激務のために高熱をだし倒れた。だが、心から心配する者はひとりもいなかった。


(自分の身は自分で守るしかなさそうね。仕事量を物理的に減らさないと、病気になってしまうわ)


 アリアナはレオナルドの仕事をしながらも、多くの研究を重ねてきた。やがて、アリアナは画期的な装置を発明する。それは複雑な政務文書の処理、高度な政策決定のサポートの手助けができる画期的な物で、『アリアナ・スクプリタム』と名付けられた。


 これによってアリアナは国王からお褒められ、大臣たちからも賞賛された。なぜなら、『アリアナ・スクプリタム』は彼らの仕事をも楽にし、その効率を革新的に飛躍させたからだ。




 

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