第8話 リオンに認められるアリアナ

 魔王はアリアナがメイド服を着て夕食の席に現れたので内心ギョッとしていたが、ニコニコと嬉しそうに給仕をし始めたので、なんと声をかけていいものか悩んでしまう。

 リオン軍団長ゼイン魔王の参謀カイル魔界警察の長も、まさか、アリアナが給仕をするなど、想像もしていなかった。

 だが、イジワルーイだけは楽しそうに口角をあげていた。

(人間の女なんかメイドで充分よ)

 



 魔力のないアリアナがたくさんの皿を運ぶのは大変だ。しかし、アリアナは銀のお盆を両手に持ち、そのお盆の上にはぎっしりと料理を盛った皿を乗せていた。


(あんなに細い腕で、あれだけの重量を持ち上げるとは・・・・・・)


 リオン軍団長は魔王軍の長である。そして、自分の限界に挑む根性をもつ者たちを重用していた。アリアナの表情はにこやかではあるが、かなり無理をしてお盆を腕で支えているに違いない。

(自分の限界に挑む勇者アリアナがここにもいたか)

 優しい気持ちになったリオンは、アリアナの持っているお盆を、ひとつ代わりに持とうと申し出る。


「いいえ。これは私の仕事ですから、お気遣いなく。このようなお皿など、どうということはありません」

 アリアナは重い書類を抱えて、大臣たちの執務室まで1日に何度も往復させられた日々を思い出していた。紙の束は驚くほど重くて、持つ際にも気をつけないと指を切ることもあった。思いのほか、紙は凶器になることがあるのだ。アリアナはそれらを思い出し、瞳が涙で潤んだ。


 リオン軍団長はアリアナの涙を見て、彼女が皿を運ぶのが重くて辛いのだと勘違いした。そして、彼女がその限界に挑戦している姿に、自分の戦場での勇姿を重ね合わせた。


「素晴らしい根性である! 俺はアリアナ嬢を見直したぞ」

「まぁ、ありがとうございます。こんなことで認められるなんて恐縮ですわ。王宮やクレスウエル公爵家にいた時も、褒められたことなどありませんから、こちらに来られて幸運だと思います」


 冷たい印象を与えるアリアナが、花のように微笑むのをリオン軍団長は満足げに見つめた。リオン軍団長の中で、アリアナは地下牢に入れられた嘘つき女から、健気に自分の限界に挑戦する立派な女性へと変わったのである。


 




 



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