第13話 劣化したエリナ

 エリナはアリアナを追い出し、自分が王太子妃の座に収まった。怠け者のエリナでも『アリアナ・スクプリタム』さえあれば、王太子妃として困ることはないのだ。さらに、魔界から美しさを倍増させる果実もたっぷりと送られてきた。


「何もかもが計画通りで笑っちゃう。『アリアナ・スクプリタム』がある限り、なんの勉強もしてこなかったこの私でも、王太子妃の仕事ができてしまうなんて、お姉様は本当に有能なおバカさんだったわね」

 エリナの高笑いが、王太子妃宮のサロンに響き渡る。


「魔法の果実を持ってきてちょうだい」

 

 エリナは恭しく果実を運んできた侍女から皿を奪い取り、勢いよくかぶりついた。


「すっごく、美味しい! こんなに美味しい果物は初めてよ。魔界から直接私宛に送られてくるなんて、魔王まで私に恋しているのかしら? うふふ。美しい私って罪な女よね」


 エリナは自分が誰からも愛されると信じて疑わない。幼い頃から容姿を褒め称えられ、蝶よ花よと育てられたのである。その軽い頭のなかには、勘違いと妄想しか閃かないのは仕方のないことだった。


 果実を食べ終わってから半刻ほど経ったアリアナの瞳は、星のように輝き、肌はしっとりと潤いなめらかになった。睫毛が一層長く濃く、鼻筋がいくぶん高くなり、唇は一層形良くピンクに染まる。


「素晴らしいわ! こんなにすぐに美貌が増して・・・・・・私ってば、女神様を超えたんじゃないかしら? 美神も嫉妬するほどの麗しさよ」


 その美貌は三日ほど続いた。ところが、四日目になると以前のような状態に戻り、五日目になると前よりも明らかに冴えない顔になっていた。顔自体がすさまじく変貌したわけではないが、ちょっとずつ不細工になった顔のパーツが気になる。

 眉毛がくっつくぐらい濃くなったのに、睫毛はまばらで短くなった。まぶたは腫れぼったく、鼻は存在感が増して横に広がったようだ。唇は少し厚みを増した気がするし、綺麗な歯並びだった自慢の歯は、いつもよりかなり黄ばんで見えた。


「気のせいかしら? 私、劣化した? 全然綺麗じゃないんだけど・・・・・・おかしいわ。きっと、もっと食べれば大丈夫なはず。そうよ、量が足りなかったのよ。もっと、もっと、もっと……」


 エリナは不安と焦りに押し潰されそうになりながら、次第に劣化していく自分の姿に絶望し、絶叫する。


「嘘よ、嘘だわ。こんなの私じゃないわよぉ。なんで、こんなに太っちゃったのぉ」


 魔法の果実をたっぷり食べれば食べるほど美しくなると思っていたエリナ。だが、魔法の果実は恐ろしいほどのカロリーだったのである。



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半刻:30分

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