第3話 取り引き
「———明日から戦闘訓練を始めたいと思っている。朝8時に中庭の訓練場に集合。遅れたらより訓練がキツくなると思え」
「俺を見ながら言わないで? もしかして俺だけ遅れなくても訓練がキツくなるパターン?」
レナ騎士団長様のちっとも有り難くないお言葉を頂戴したのち、それぞれ男にはメイド、女には執事が1人ずつ付いて部屋に案内される。
めちゃくちゃ作為しか感じない。
勿論嬉しいんですけどね。
「初めまして、ソラ様。私めはシエラと申します。ソラ様が良いと思って下されば、専属使用人としてこの皇居内でのお世話をさせていただきます」
俺に当てがわれたメイドは、流石皇居のメイドなだけあり美少女だった。
しかしその見た目は世にも珍しい純白の髪に、常に目を瞑っているという何とも個性的なメイドである。
「……目は見えるん?」
「見えます。ですが……目を開くと魔眼が発動してしまいますので、魔法で開かない様に封印してもらっているのです。勿論この状態でも目は見えています」
「魔眼に封印」
何だよそれ、クソかっこいいじゃん。
ズルい、俺も欲しい。
封印とか魔眼とかってどれも厨二心をくすぐってくるよな。
あの日の恥ずかしい思い出が鮮明に蘇ってくるよ……ぐふっ。
「……ソラ様?」
「ん? あ、ごめん。ちょっと過去の痛い自分にアイアンクロー食らわせてた」
「あ、あいあんくろー?」
「あら可愛い」
「っ!?」
舌足らずな感じで話すもんだから、つい本音が漏れたのだが……シエラは驚いた様子でビクッと肩を震わせた。
同時に、俺の頭が隣の柚月によって小突かれる。
「痛っ、何すんだよ柚月」
「こらっ、天。初対面の子にそんな軽々しく可愛いなんて言っちゃだめだよ」
「マジ? 取り敢えず女の子は褒めろって姉ちゃんから言われてんだけど」
「間違っては無いけど……初対面だと引かれやすいよ? ごめんね、シエラさん。ウチの天が。何かあったら何でも僕に言ってね?」
「い、いえ、構いませんが……は、はい、そうさせてもらいます……」
柚月が苦笑しながらシエラに謝罪をすると、ポーッと柚月の顔を見て若干顔を朱くしたシエラ。
ふと柚月の専属メイドである赤髪の美少女を見ると……少し羨ましそうにシエラを見ていた。
これは間違いなく2人とも柚月に好意を抱いたな。
いや初対面で美少女を2人も落とすってどんだけモテるのよ。
そりゃ俺のイケメン具合も霞むわ……けッ、羨ましいったらありゃしない!
「ゆ、ユズキ! 貴方の部屋はここよっ! ほら、私と来てっ!」
「あははっ、そんなに引っ張らないでよ。それじゃあ天、また後でね。シエラさんもさようなら」
「おうよ。また後でな〜」
「あっ……さ、さようなら」
赤髪の美少女に腕を引かれて部屋に消えてった柚月に適当に手を振る俺とは裏腹に、シエラは少し名残惜しそうに頭を下げた。
もうここで格差現れてますがな。
悲しいけど……まぁ柚月が相手なら見る目があると褒めてやろう。(誰目線?)
「どうよ、ウチの柚月は? いい男だろ? 惚れたなら言えよ、俺が出来るだけ2人を会わせてやっから」
「い、いえ! そのようなことは……! こ、ここがソラ様のお部屋です……っ」
ワタワタしたまま俺の部屋の扉を開けて、俺から顔を背けるシエラ。
その照れ隠しにしか見えない挙動に、俺は開けてもらった部屋に入りながら小さく笑みを浮かべた。
シエラは扉を閉めると共にそんな俺の姿に、涙目のままジト目を向けてくる。
「……ソラ様は、イジワルですね……」
「ご褒美です」
美少女からイジワルって言われるとか、俺からすればご褒美でしかない。
寧ろ感謝すら伝えなければならないレベル。
ニヤニヤする俺に、小さく咳払いをしたシエラが口を開いた。
「んんっ、それでは、今からこの部屋の機能を説明いたします。まず、このお部屋は勇者様専用のお部屋です。基本的に、勇者様と専属メイドである私達のみしか立ち入れない結界が張ってあります」
「暗殺防止的な?」
「……っ、良くご存知ですね……正しくソラ様のおっしゃる通りです。勇者様はこの国にも世界にとっても大事なお方。しかし、今の情勢ではそんな貴方達に安全とは胸を張って言い難いのです。よって、この部屋には何人たりとも入れぬよう、強力な結界が張られているのです」
なるほどな……まぁ今の俺達じゃ、暗殺者の気配に気付くどころか気付いても余裕で殺されそうだもんな。
平和な国で暮らしてた子供だし。
どうやらこの国は、結構勇者に対して手厚いサポートをしてくれているらしい。
これなら皆んなを気にしなくても済みそうだ。
「他にも、疲れを癒やす結界や防音の効果のある結界も張られております」
「あ、そうなん? なら、今の俺達の会話って誰にも聞こえてないってこと?」
シエラが頷く。
「そうです。聞こえていないどころか、どんな魔導具もこの結界内では効果を発揮しません」
「あ、そう。なら1つ質問」
「どうぞ」
徐々に自らの身体の熱が冷め、冷静になっていく感覚を感じ取りながら……俺は問いかけた。
「メイドに敵側の人が入ってた場合は? 例えば———君のように」
シエラの顔が驚愕に染まった。
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ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
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