第9話 B級

「———そんで、どうしたんですか? 何かヤバい敵でも居るんです?」

「…………」


 俺の問い掛けに、直ぐ視線を戻して沈黙を貫くレナ。

 その周りには、何処か張り詰めた緊張感が漂っていた。


 うーん、このまま普通に聞いてても埒が明かなそうだな。

 まぁでもどうせその内この女は手に入れるんだし……少し本性を見せても良いか。


 俺は小さくため息を吐きつつ、仕方なく意識を切り替え、



「———レナ、教えろ」

「———ッッ!?」



 少し荒く、殺気立ちながら告げる。

 突然の豹変具合に、レナは今度こそ驚愕に表情を染め、俺から少し距離を取った。

 やっとコッチを向いてくれたことに僅かながら安堵し、再び意識を元に戻す。

 いきなり元に戻った俺に、レナが警戒心を露わにして、


「き、貴様……何者だ……?」

「いや何者でもねーよ。別にアンタと敵対する気もないし。それに悪かったって、アンタが全然こっちを向いてくんないからさ。でもアンタだけ知っているのもズルいだろ?」

「ず、ズルという話では……」

「いやいや俺ら勇者ですよ? その内魔王だって倒さねーといけないんだし……教えてくれても良いんじゃないっすか?」


 情報はあるだけあればいい。

 嘘でもそうでなくても、後で擦り合わせれば全く問題なし。


 それに……これを期に、もっと俺に興味を持ってもらうのも1つの狙いだ。

 ミステリアスな男はモテるとまでは行かずとも、興味の対象にはなる。

 『興味』というのは恋愛においても重要だからな。


「さて、俺にも教えてもらおうっ! あ、勿論誰にも言わねーですよ?」

「……はぁ。どうせ何しても引き下がってくるのだろう?」

「御名答、俺が分かってきたね」

「……ふんっ」


 忌々しげに俺を睨むレナは、



「———B級の魔物が現れた」



 D級の100倍強いとされる、今の俺達では到底敵いそうもない強大な敵を示唆した。








「いやぁ、まさか転移2日目にしてそんな強敵と相対するとはなぁ」

「無駄口を叩くな。誰にも気付かれずに倒すのには骨が折れるんだ、それがお荷物を抱えていれば尚更だ」

「へいへい、ありがとうございます」


 まぁ彼女の言うお荷物は事実なのだろう。

 俺が着いていけるように速度を落としてくれているし、何よりチラチラこっちを見て確認しているのが何よりの証左だ。

 

「これが所謂ツンデレ……いや、ツンツンツンツンデレか……」

「何頭のおかしいことを言っている? そろそろ着くぞ」


 僅かに声を低くして告げるレナ。

 その声に、俺もおふざけモードを止める。

 止めざるを得なかった。



「……おいおいマジか。この世界はこんなバケモンがうじゃうじゃいんのかよ……」



 ———身長5、6メートルにもなりそうな程巨大な人型の魔物で……簡単にいえば赤鬼のような見た目だった。


 額に30センチ程の魔力が篭った2本の角が生え、肌は真っ赤に染まり、筋骨隆々な肉体は強靭さと頑強さを一目で表している。

 服はゴブリンと同様に腰に巨大なボロボロの布を巻いている以外にないが、武器すら持っていない。


 いや当たり前か。

 あの図体で武器なんか要らんだろうし。


 冷静に魔物を観察する傍ら、意識に逆らって震える身体を見たらしいレナが、呆れた様子で口を開いた。


「おい、何をビビっている? 私の方がこいつより遥かに強いぞ」

「いやあんたは幾ら強くても見た目は超絶美女じゃん」


 俺は何気なくそう返し……即座に反応がないことに疑問を感じる。

 何事かとレナの方を見れば、



「……何照れてるんですか」

「…………うるさい」



 僅かに頬を赤く染めて、何故か憎らしげに俺を睨んでいた。

 こちらとしては問われたことに素直に返しただけなのだが……やはり男子と女子とでは考え方が違うことに起因するのだろう。


 まぁ、この女が容姿を褒められ慣れていないことが分かったのはいい収穫かな。


「ところでコイツ、もしかしなくもオーガって名前ですか?」

「ん? あぁ、惜しいな、レッドオーガだ」


 まんまやん、まんま赤鬼やん。

 しかも、その他に何かしらのオーガが更にいると……つくづく化け物だなこの世界。


 あまりのイカレ具合に辟易する俺だったが、


「ガァアアアアアア!!」

「!?」


 レッドオーガの咆哮で否応なしに思考を遮られる。

 同時にレッドオーガより鬼のような女ことレナが剣を引き抜き、光によって輝く白銀の刀身が姿を現した。

 そして地面を踏みしめ……。


「……おい、何をしている?」

「いえ……ちょっと俺も戦わせてくださいよ」

「……分かっているのか? B級はさっき貴様が戦っていた相手とは比べ物にならない強敵なんだぞ?」

 

 彼女の前に立った俺に、レナが鋭く低い声で警告する。

 ただ俺は、小さく息を吐いて肩を竦めると。


「勝てるだなんて思ってませんよ。ただ……知っておきたいんです、この世界での自分の立ち位置を。大事でしょう? 今はアンタがいるから死ぬ心配はないし……絶好のお試し日和だと思うんですよ、俺は」


 ニヤッと犬歯を剥き出しにして獰猛な笑みを浮かべる。

 そんな俺の姿にレナは僅かに瞠目すると……ハッと鼻で笑いつつも、面白そうなモノを見るような瞳を此方に向けて言った。



「———良いだろう、やってみろ。私が貴様を絶対に死なせはしない」

「———そうこなくっちゃ。アンタとは気が合いそうだよ」

 

 


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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