第10話 VSレッドオーガ

 ———さて、どう戦おうか……。


 俺はレッドオーガと相対しながら、恐怖で固まりつつある思考を巡らせる。

 ラッキーなことにレッドオーガはレナのお陰で迂闊にこちらに手を出せず、低い唸り声を上げており、たっぷりと考える猶予があった。


 まずは、アイツのステータスでも拝見させてもらうか。


—————————

レッドオーガ(凶暴化)


◯ステータス

【魔力】D(D)【身体能力】A(C)

【知力】D(D)

—————————


 ふむふむなるほど、俺より強いことしか分からん。

 てか魔物だとスキルどころか詳細すらも見れねーのか。

 まぁ俺のスキルの熟練度的な問題もあるんだろうが……今はこれだけで何とかするしかねーな。

 

 俺は続いて自分のステータスを確認。

 

—————————

朝夢そら

◯職業

暗躍の勇者(成長補正、職業スキル獲得)


◯ステータス

【魔力】B(S)【身体能力】C(A)

【知力】S(S)


◯スキル

【EX】《万能道具庫》

【SS】《影使い》《鑑定》《看破》

【S】《魔力操作》《強化》《変装》《分身》

【A】《偽装》《器用》《奇術》《威圧》

【B】《交渉》《誘惑》《冷静》《魔力感知》

【C】《恐怖耐性》《状態異常耐性》

【D】《馴染》《柔和な雰囲気》

【E】《酒酔い耐性》《睡眠耐性》

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 ……何か1つスキルが増えてない?

 魔力感知とか始めは無かった気がするんだけど……いつの間に追加されたん?

 ……よし、余計なことを考えるのは止めてスキルの選定しよう。

 幾らその内取り込む予定であるレナであろうと……流石に全部を見せるわけにはいかないからな。

 おまけに意識を変えるのも……うん、止めておこう。


 そんな縛りの中で必要なのが……まずは強化と万能道具庫。

 これがないとそもそもアイツの動きについていけないし、支給された剣1本で対抗できるわけ無いので必須。

 《強化》は任意の能力値を1段階上げる、という能力なので大変使い勝手が良い。

 後は……《影使い》も使ってみるか。


「ふぅ……よしっ!」


 俺はバチンッと自らの頬を叩いて気合を入れると。



「———やってやろうじゃねーか」



 即座に全身と剣を《強化》し、力強く地面を踏み締める。

 身体が軽くなったかと思えば、弾丸の如き速度でレッドオーガへと接近していた。

 

 は、速っ!?

 1段階でこんなに……いや10倍なわけだからそりゃそうか。


 一瞬驚いたものの、直様動揺を押さえて腰の剣を抜き放ち、


「お……らッ!!」

「ア”ア”?」


 駆け抜けざまに渾身の力を持って足の腱を斬り付けた。

 しかし、俺の手に返ってきたのは肉を断つ感触ではなく……まるで金属にぶち当たったかのような痺れるほどの振動だった。


 いっつ〜〜硬すぎだろこんちくしょう!

 今のって俺の全力の攻撃なんだが!?

 

 内心の動揺を他所に、俺は背後から首筋に剣を突き立てようと飛び上がり、


「っ!? あっぶねぇ!?」


 まるで羽虫を払うかの如き鬱陶しさの篭められたレッドオーガの振り払いに、慌てて剣で防御する。

 その攻撃とも呼べない動作に大した力が篭められていなかったからか、剣も壊れず軽く吹き飛ばされるだけに済んだ。


 しかし、宙で何度も回転して地面に着地した俺はハッキリと理解してしまった。



 ———このバケモノに、俺は勝てないと。



「いやまぁ碌に戦い方も知らん俺が勝てるわけ無いよなー、分かってたけど結構悔しいもんだな」


 ならせめて。

 せめて1度だけでも良いから、レナしか警戒していないあのバケモノに俺が僅かながらも脅威であると意識させたい。

 1度で良いからギャフンと言わせてやりたい。


 俺はそう意気込むと、《万能道具庫》から幾つもの神経毒が塗られたクナイを取り出し、


「それっ!!」


 それら全てに《強化》を施すと同時にレッドオーガへと放つ。

 狙いは勿論、1番柔らかいであろう奴の目か口。

 風を切って空を駆ける何本ものクナイは寸分違わず目と口に近付くも、


「……ガア?」


 不審に思ったらしいレッドオーガが顔の前に手をやることによって全て弾かれ———



「———掛かったな、馬鹿め!!」



 ———ることはなく、超絶タイミングで使用した《影使い》のスキルによって影から影へと転移。

 この森は殆どの光が遮られているため、俺の視界内であればほぼ何処にでも転移させることが出来る。


 その特性を生かし、綺麗に手だけを影から影へと転移してすり抜けたクナイ達は、レッドオーガの目と口に全弾命中。

 最初こそ大して痛がりもしなかったレッドオーガだったが、



「アア? ……っ、ガアアアアアア!?」

 

 

 神経をギリギリと引っ張られる激痛を伴う神経毒によって、時間差で目を押さえながら絶叫した。

 これには、ずっと静観していたレナでさえも僅かに目を見開く。


「ははっ、ザマァねーな! 俺をいない者扱いしたテメェが悪いんだっ!」

「な、何をした……?」

「なーに、ちょっとした毒が塗られた武器を目ん玉にぶち当ててやっただけですよ。それと、もう俺の気は済んだので、ちゃっちゃと倒しちゃってください」


 俺じゃあコイツを殺すのは無理なの。

 今の俺じゃどう足掻いても精々逃げるので精一杯って気付いたからね。


 まぁ戦う意味はあった、と満足気に頷く俺を見ていたレナは、初めこそレッドオーガに一泡吹かせた俺に驚いていたものの、心底面白そうに笑みを浮かべると。





「———ハッ、随分と面白い勇者だ」

 

 



 閃光が走る。

 その光と僅かなタイムラグののち、目を押さえていたレッドオーガの首から頭と、手首から手がズレ……ボトッと地面に転がった。


 静寂が訪れる。


「…………ッ!?」 


 俺はあまりにも圧倒的な光景に、ただただ茫然と口を半開きにしたまま、その場で固まってしまう。


 ま、マジかよ……嘘だろ?


 あの女は。

 まるで何てことないかのように。

 今までの俺の苦労は何だったのかと思わず文句を垂れたくなるくらいに。


 それはもう一瞬にも満たない刹那の内に———未だ強化している俺の目ですら捉えられない速度で、レッドオーガの首と手を斬り落としていたのだ。


「よし、死体は自然が勝手に消してくれるから、さっさと戻るぞ」


 剣に付着したレッドオーガの血を振り払ったレナは、先程と全く変わらぬ表情、呼吸、声色で俺に言う。

 その姿は、まるで路傍に落ちた石を蹴っ飛ばしたかのようだった。

 そんな彼女に、


「…………うっす」


 俺は、何とか一言絞り出すことしかできなかった。 

 しかし同時に、





 …………あぁ、是が非でも欲しい……。





 そんな感情が俺の胸中を支配した。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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