第11話 暗躍勇者に休息はない

「———やぁやぁ元気にしてたかい、お転婆娘さん?」

「………私の情報を持った貴方が、王国最強の側にいるとなれば迂闊に動けはしません」


 無事1人の死者も出すことなく魔物討伐から帰還した俺達は、王の計らいで丸1日の自由な時間を与えられた。

 俺が与えられた自由な時間で1番にしたことと言えば———それは勿論、悩みの種の1つであるシエラに会いに行くことだ。


 一応縛ったりはしてないが……一介のメイドでしかない彼女に、勇者である俺の立場をどうこう出来る力はないので問題ない。

 その内誓約系の魔法があれば、是非とも覚えたいところだ。


「さて、と……それじゃ、教えてもらおうかな? ———この城に、スパイは何人くらいいる?」


 そう、俺は魔物討伐に行く前に、シエラにこの城に潜伏している各国のスパイがどれくらいいるのか調べるように命じたのだ。

 手を抜いたらどうなるかも告げて。

 

 余談だが、シエラが逃げる可能性も視野には入れていた。

 まぁ任務に失敗した諜報員は戻れば殺されるだろうが……祖国愛の強い者ならやりかねない。


 しかし、聖皇国も馬鹿ではない。

 

 メイドは、1人での王城外への外出の一切を禁じられており、首にはチョーカー型の魔導具をしている。

 この魔導具は王城から出たメイドの身体に電流を流し、失神させると言うもの。

 しかも下手すれば死にかねないレベルだと言うのだから恐ろしい。

 

 よって、俺からは特に制限はしていない。


「……私を合わせて3カ国、7人です」


 不服そうに告げるシエラ。

 最初の初そうな様子とは掛け離れており、一瞬でもときめいた俺の純情を返せと言ってやりたい衝動に駆られるも……まぁ大してときめいてないか、と1人で勝手に納得して口を開いた。


「意外に少ないなぁ……俺的にはスパイ天国かと思ったんだけど」

「この国は一応大国なんですよ? 弱小国家がスパイを送り込めるほどヌルくはないんです」

「ほえぇ……ま、少ないなら少ないで良いんだけど。んで、どこの国なん?」

「まず神霊国が2人、そして帝国が私を含めて3人、魔法国が2人ですね」


 うん、神霊国も魔法国も知らん。

 帝国だけは知っているが……3人も居るんかよ。


「ま、そいつらは全部シエラが何とかするとして……」

「え!? どうして私がやらないといけないのですか!?」

「だってお前の支配の魔眼があれば1発じゃん。俺がやるより効率的じゃん。まぁ嘘付いたり適当にやったらバラすか殺すけど」

「!?」


 まさか俺の口から『殺す』という言葉が出てくるとは思っていなかったのか、思いっ切り目を見開いた。


「……殺せるのですか? 人間の私を?」

「うん、多分殺せる。だって、柚月達に危害を加える奴は、ゴブリンと一緒で人型の魔物と考えれば余裕だしね」


 思った以上にゴブリンを殺した時に嫌悪感を感じなかったので、多分やろうと思えば殺せるだろう。

 勿論罪悪感もあるだろうけど……まぁその時はその時になって考えれば良い。

 

 ただ、支配の魔眼というチート能力を持っているこの女を殺すのは些か勿体ない。

 出来る限りのことをして、それでも制御不能だと分かれば……。


「んじゃ、スパイたちはよろしく〜。俺はちょっと用事があるんでね。頼んだぜ、シエラ」

「…………行ってらっしゃいませ、勇者様」


 







 

 ———さて、シエラは取り敢えず放っておくとして……次はレナだ。


 俺は豪奢な廊下を歩きながら、魔物討伐の帰りに騎士の方に聞いたレナの部屋の道のりを頭に思い浮かべる。


 確かレナの部屋は、俺達勇者にあてがわれた部屋とそれほど離れていないと言っていたはず……でもそもそも城の構造を把握してない俺が分かるわけ無いんだよなぁ。

 ああ、誰か城の構造が書かれてる地図でもくれよ。

 いや、その内建設当時の平面図とか模写するか。

 万能道具庫があれば色々と出来そうだし……って違う!


「俺はレナの部屋が知りたいんだよ。ねぇ誰か案内……あ、魔力感知ってヤツを使ってみるか」


 完全に思考が横道にヅレていた俺は、迷路のような廊下に頭を抱えたものの、たまたま1つのスキルの存在を思い出した。

 一応彼女の魔力の性質は覚えているのでいけるはずだ。


「……《魔力感知》」


 俺は少し恥ずかしいので小さな声で言い———思わず目を輝かせる。

 

 たった今、魔力感知というスキルを使ったわけだが……壁とか全く意味をなさないとばかりに半径50メートル前後にいる全ての人の魔力が可視化された。

 もはやこれは魔力感知というより魔力視に近い気がするが……まぁ何でも良い。



「さて、いっちょ始めるとしますかね」



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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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