第12話 開始
「———おお……やっぱ総騎士団長様の部屋は広いなぁ」
無事レナの部屋へと辿り着いた俺は、今の俺の部屋の数倍はありそうな広い部屋に思わず感嘆の声を漏らした。
それに広いだけでなく、家具や食器1つとっても高級そうだ。
特にキッチンが部屋に付いている……レナって料理出来ないんじゃなかったか?
「……コレ、使うの?」
「…………使わない」
「……そっか……」
「……ああ……」
俺がキッチンを指差して尋ねれば、フイッと目を逸らしてボソッと呟いた。
2人の間に何とも言えない気まずい空気が流れる。
正直聞くんじゃなかったと俺が後悔していると。
「と、ところで、お前は私に何か用でもあるのか?」
この空気に耐えられなくなったらしいレナが話題提供をしてくれる。
俺もこの空気はとっとと払拭したいので早速乗ることにした。
「まぁ用っていう用は無いんだけど……まぁ強いて言うなら、アンタと親睦を深めたくて?」
「……お前は私を揶揄っているのか? つい数時間前まで私のことをやれ凶暴女やら、やれおっかない女などと言っていたくせに」
全く信じられないと言わんばかりにジト目で俺を睨んでくるレナ。
ただ、ほんの少しソワソワしているので、決して嫌なわけではないと思う。
「いやいや全部事実じゃん? でも、ウチの家族にはアンタより凶暴で短気で喧嘩っ早くて怖い『姉』っていう生き物がいてな? アイツに比べたらアンタなんかもう比べることすら出来んくらいマシなんだわ」
ホント、良く耐えてきたよな、俺。
でもアイツ、柚月にベタ惚れしてたお陰で柚月連れてけば超絶大人しくなるから、それだけが唯一の救いだったな。
俺が地球に居るであろう姉のことを思い出して身震いをしていると。
「そ、そんな家族が居るのか……?」
この世界の凶暴女ことレナはドン引きした様子で、俺に同情の瞳を向けていた。
「勿論。毎日少しでも気に触れないようものならフルボッコだぜ? マジで帰還したら覚えとけよ、絶対今までやられたことを何十倍にもして返してやる!」
俺はギュッと拳を握り、瞳にドロドロと復讐の光を宿し……チラッとレナに視線を移した。
レナは完全に俺に感情移入している様で、全身から同情が滲み出ているが……何と声を掛ければいいか分からない、といった感じか。
ま、同情を誘うのはこのくらいでいっか。
思った以上に効果覿面だな。
俺はレナの様子に内心ほくそ笑む。
そう———姉の話をしたのは全部計算ずくだ。
人間というのは大抵、同情した相手には対応も優しくなるし自分が救ってあげたいと思う生き物である。
多分自分が今の話で言う姉の立場だから、それプラス今まで俺にキツく当たっていた罪悪感もあるかもしれない。
———俺はそれを逆手に取る。
早速怒りを引っ込めて誤魔化すように笑い、
「ま、そういうことだから、アンタに言ってたことは事実っちゃ事実だけど、本気で思ってるわけじゃないんだよ。ただ、アンタを不快にさせただろうから謝る。てか女性に凶暴とかおっかないとかいけないよな。本当にごめん、レナ」
今度は笑みを引っ込めて真面目な顔して頭を下げる。
まさか謝られるとは思っていなかったらしいレナは、慌てて口を開いた。
「あ、頭は下げなくていい! 元を辿れば私がお前にキツく当たっていたのが原因だからな! 私こそ、キツく当たって済まなかった!」
「……許してくれるのか?」
「も、勿論だ! さっきお前が言ったことを疑ったことも謝る!」
これで一旦レナの認識を変えることに成功したかな?
今までは生意気だけどビビらない変な奴だったのが……自分と嫌いな姉を重ねてつい生意気に当たっていただけで実は心優しい奴、くらいにはなってくれたか?
流石にそれは行き過ぎか。
まぁ何にせよ……多少は好印象になっただろう。
「あぁ、良かったぁ……。嫌われてたらって思って焦ったんだよ」
「……っ!?」
俺が敢えて僅かにはにかんで安堵に胸を撫で下ろせば、レナが驚いた様子で目を大きく見開いた。
そんな中、俺は興味本位にレナのステータスを覗き見る。
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レナ・エリアス・ソード・バルムンク
◯ステータス
【魔力】S(A)【身体能力】SSS(SS)
【知力】B(B)
◯詳細
24歳女、ベインゼルク聖皇国の総騎士団長であり世界5大超越者の1人。聖剣ミスティルテインの所有者。ベインゼルク聖皇国の公爵家に生まれ、3歳の頃から剣を振るい始めた。7歳の頃、本職の騎士を倒し、15歳で当時聖皇国最強だった総騎士団長に勝って総騎士団長に就任。周りからは『決して触れられない高嶺過ぎる花』との愛称で呼ばれていることに不満を持っており、彼氏が欲しいと思っている。桐ヶ原柚月を弟子にしたいと思っている。朝夢天に同情と罪悪感を感じていると同時に、大嫌いな姉と似た自分にも積極的に接してくれることに嬉しく思っている。また、今まで一度もされたことのない女性扱いしてくれる朝夢天の言葉に舞い上がっている。
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…………あの、ちょっとチョロすぎませんか?
俺の理想値通りすぎて逆に怖いんだけど……てか一度も女性扱いされたことないって流石に可哀想すぎるって。
このスキル……ホントのこと書いてるよな?
盛って書いてないよな?
そんな考えが頭を過るも、俺にとっては全て良いことなので、軽く頭を振って余計な思考を霧散させる。
突然頭を振る俺を不思議そうに見つめるレナに『なんでもない』と笑って、
「———それじゃあ折角だし……レナのこと、色々と教えてくれないか?」
自然な感じでそう提案した。
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