第8話 魔物討伐③

 ———さて、あの女を籠絡させるなんていう結構高難易度なことをしようとしたわけだが……今は別にすることがある。


「———ふっ!!」

「グギャアアアアアッ!?」


 ———戦闘経験を積むことだ。

 てか魔物討伐に来たくせに一体も倒せないとか流石に情けなすぎるし、勿体ない。

 

 因みに今戦っているゴブリンで5匹目。

 一応クラスメイトの中では俺が1番斃しているらしい。


「グギャギャ!!」

「いや腕斬り飛ばしましたよね? 何でそんな元気なんすか……」


 俺は、左手を斬り飛ばされたはずなのにピンピンしているゴブリンの姿に、思わずため息を吐く———と同時に、懐から取り出した短剣を隙を突いて投げた。

 不意を付いた短剣の飛翔にゴブリンは対処できず、


「———ゴガッ!?」


 左目にクリーンヒット。

 この世界に来て強化された肉体から放たれたこともあり、相当深く突き刺さっている様だ。


「ナイスショット! 今日は冴えてますねー、天選手」

「グギャッッッ!!」


 おどける俺に、舐められているとでも思ったのか……怒り狂ったゴブリンが棍棒を振り上げて駆ける。

 成人男性並みの図体なだけありすばしっこい。

 すばしっこいが……。



「———悪いね、計算済みなんだよ」



 死角の方向に避ければ全く問題ない。

 そのためにわざわざ斬り飛ばした腕側の視界を潰したのだから。

 俺の姿を見失ったゴブリンは驚愕に目を見開き———左側から首をブスッと突き刺されて、断末魔を上げることも叶わず絶命した。


「ふぅ……。やっぱ血の臭いは結構くるな……」


 俺はゴブリンの首から突き刺した剣を抜き、顔を顰める。

 殺すときの感触も光景も慣れたが……このむせ返るような鉄っぽい血の臭いだけはまだまだ慣れそうにない。

 

「ふむ、中々やるな。向こうでもしていたのか?」

「いや俺を殺人者扱いしないで? 俺も皆んなと同じ生粋の平和を享受した高校生なんですけど」


 あのレナから珍しくお褒めの言葉を賜るも……何か俺を暗殺者か殺人鬼か何かだと思ってないか?

 普通に人型の生き物を傷付けたのは初めてなんですけど。

 そもそも生き物を故意に殺すのだって今回が初めてなんですけど。


 余談だが、俺に付くことになった騎士がレナである。

 俺的には茉莉奈ちゃんに付いて欲しいんだけど……茉莉奈ちゃんがこの凶暴女を前にすると固まっちゃうの。

 まぁ庇護欲の塊たる最かわな茉莉奈ちゃんと最強脳筋の凶暴女は、誰が見ようと正しく真反対の立ち位置なので仕方ない。

 

 何て考える俺に、レナがジロジロと露骨に視線を向けて言った。


「それにしては……随分と躊躇がないじゃないか。私でさえ最初はもっと躊躇したものだ」

「割り切ってるだけですって。俺、静と動が出来る人間って有名なんです」

「…………」

「おっと、全く信じていない目をしていますね、何でよ」


 俺って制御が効かない暴れ馬か何かだと思われてる?

 それなら不服以外の何物でもないんだが……てかこの女が躊躇する姿なんか考えられないんだけど。

 

 そう懐疑的なジト目を向ける俺だったが、



「———敵が来たぞ、さっさと片付けろ」

「いや初陣の奴にどれだけ働かせるねん、アンタも手伝えよ!」



 レナが指差す方向から来た3匹のゴブリン達に、凶暴女への不満を吠えながら突っ込んだ。









「———休憩だ。1時間後、再び戦闘を開始する」


 そんなレナの言葉と共に、クラスメイト達は騎士の作った飯にがっつく。

 まぁ正確には半分くらいのクラスメイトは食欲がないと言って食べていないのだが。


 ん、俺か?

 勿論沢山食べてるよ?

 運動した後はお腹が空くだろ?

 

「うん、上手い。騎士って飯も作れないとやっていけないんだなぁ……」

「確かに遠征とかもあるんだろうし、料理スキルは必須なのかもね」


 飯をつっつきながらそんな話をしている俺と柚月の会話に聞き耳を立てていたらしいレナが、スッと目を逸らして、落ち着きなさげにさわさわと剣の柄を触りだした。

 

 …………料理、出来ないんだね。

 まぁ寧ろそれがイメージ通りなわけではあるんだけど。


「天、どうしたんだい?」

「ん? いんや、何でもねーよ。あ、茉莉奈ちゃんは食べなくていいの?」

「わ、私は大丈夫でしゅっ! あっ、大丈夫ですっ!」


 うへへ、相変わらず茉莉奈ちゃんはキャワイイなぁぁ……こんな殺伐とした場所にメルヘンなお花畑が見えてきそうだよ。

 おっと、キモい笑い声が漏れるとこだった、危ない危ない。


 噛んで顔を真っ赤にして恥ずかしがる茉莉奈ちゃんの姿に、思わずオタク笑いが漏れ出そうになる俺だったが……少し真面目な表情を作った。


「でも食わなきゃダメだよ、茉莉奈ちゃん。食べないと力出ないんだから。ほら、あーんして。あ、あーんは柚月にしてもらった方が良かった?」

「あわわわ……そ、天さんっ!!」

「あははははは、超可愛———いてっ!?」


 もう茉莉奈ちゃん推しを隠せてない俺だったが、柚月から頭を小突かれる。


「天、あまり揶揄わないの。でも茉莉奈、僕も天と同じ意見だよ。これから僕達はもっと凄惨な光景を見ることになるし、食べないと元気になれないよ?」


 そう言ってスープを掬い、茉莉奈ちゃんの口に近付ける柚月。

 対する茉莉奈ちゃんは、恥ずかしそうにしながらも、小さく口を開けてスープを飲んだ。

 所謂『あーん』である。


「どう?」

「お、おいひいでしゅ……」


 優しく笑いかける柚月に見惚れ、照れながらもコクンっと頷く茉莉奈ちゃん。

 何か物凄く目の保養になる光景だが、その中の俺が邪魔なので退散するとしよう。


 

 ———ちょっと気になることもあるし。



 俺は食べさせ合いっこする2人をギリギリまで視界に収めたのち……近くの木に寄り掛かっていたレナへと近づき、




「———何で、ずっと一方向を見て警戒してるんです?」

「……ッ!?」

 



 驚いた様子で俺へと視線を移した彼女にそう告げた。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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