第7話 魔物討伐②

 ———魔物。

 過去の魔王の力によって生まれた邪気を持つ生き物。

 今代の魔王によって力を増したそれらは、今の人類にとって危険極まりない存在。


 そんな魔物の中でも俺等の世界ですらメジャーな魔物が今、俺達の目の前にいる。

 居るのだが……。



「———なぁ、ゴブリンって人間の子供くらいの大きさじゃないの?」



 ちょっと想像と違いすぎるんですが。


 目の前にいるゴブリンの見た目は。

 皮膚の色は濃い緑、大きさは170センチ程度が平均で全体的に筋肉質であり、手には棍棒や錆びた剣を携えている。

 腰に布を巻いている以外に服は着ておらず、肌は汚くて荒れており、口からは鋭い犬歯が剥き出しになっていた。


 まぁ何かと言うと。


「……キモいな」

「キモいわね」

「キモいね」

「気色わりーな」

「き、気持ち悪いですっ……」


 この一言に尽きる。


 そんなゴブリン数十体が、俺達勇者と騎士団をぐるっと囲んでいた。

 レナが未だ剣を抜かないまま、険しい顔をしつつ口を開く。


「気を付けろ。コイツはゴブリン、少し前までは初心者でも狩りやすいE級の魔物だったが……今ではD級上位の力を得ている。お前ら勇者でも下手すれば死ぬ」

「ゴブリンに殺されるのはヤだな……」


 ちょっと引き気味に発した俺の呟きに、クラスメイトの何人もが頻りに頷く。

 すると、レナがやっと腰に携えた剣を鞘から引き抜いた。

 鞘から抜かれた白銀の剣の刀身が輝く。



「……見ていろ。これが———戦いだ」



 そう告げると同時、レナの身体がブレ、一筋の白銀の光がゴブリンの間を一瞬にも満たない速度で駆ける。

 そして光が消えると共に元いた場所にレナが戻ってきて———。


 ———ブシャァアアアアアア!!


 数十体もいたゴブリンの頭が一匹残らず首からズレ落ちて地面に転がり、大量の鮮血が首の断面から噴き出した。


「キャアアアアアア!?!?」

「イヤああああああっっ!!」

「お、おい血が……ウエッ……」

「き、気持ち悪い……俺無理かも……」


 平和な日本では見ることのできない凄惨な光景に、クラスメイト達が次々と悲鳴を上げ、吐瀉物を吐き出す。

 そして悲鳴を上げず嘔吐しないまでも、誰もが顔を真っ青にして目の前の光景から目を背けようとしていた。

 しかし———レナはそれを許さない。



「目を背けるな、目に焼き付けろ。これからお前たちはこれより酷い光景を目の当たりにすることになる。自分で殺したわけでもないくせに怯むな」



 レナは剣に付いた血を振り払って鞘に収め、頬に付いた血を拭いつつ言った。

 ド正論でしかない彼女の言葉に、やっと自分達がこれからしようとしていることへの重大さに気付き、誰もが押し黙った。

 それは柚月達も変わらず、恭平でさえも眉間にシワを寄せて黙っている。



 そんな中———俺は血ではなく、首の断面を注視していた。

 


 ……いやバケモンだなあの女……。

 断面が綺麗に切断されてるじゃねーかよ。

 骨すら豆腐のように綺麗に斬りやがって……まぁあんな大口を叩く程度には卓越した力を持ってるってわけか。

 確かに今の俺じゃ美琴が言った通り、逆立ちしてジャンプしても勝てねーな。


 しかしどうやら、血を見ても俺は何とも思わないらしい。

 寧ろより強くなれなければアイツ等を護れない、と危機感が増した。


 この世界にレベルアップとかあればなぁ……もっと楽だった気がするんだが。


 俺はそんなことを思いつつ、興味本位にレナのステータスを覗き見たのだが。


—————————

レナ・エリアス・ソード・バルムンク


◯ステータス

【魔力】S(A)【身体能力】SSS(SS)

【知力】B(B)


◯詳細

24歳女、ベインゼルク聖皇国の総騎士団長であり世界5大超越者の1人。聖剣ミスティルテインの所有者。ベインゼルク聖皇国の公爵家に生まれ、3歳の頃から剣を振るい始めた。7歳の頃、本職の騎士を倒し、15歳で当時聖皇国最強だった総騎士団長に勝って総騎士団長に就任。周りからは『決して触れられない高嶺過ぎる花』との愛称で呼ばれていることに不満を持っており、彼氏が欲しいと思っている。桐ヶ原柚月を弟子にしたいと思っている。自分に臆さない朝夢天に興味を抱いている。

—————————


 ………………おっふ、とんでもねーですやん。

 それに俺が絶対に仲間にしようとしていた勇者をも越える人間なのかよアンタ。

 確かに成長限界突破して強くなってるみたいだし……てかコイツ、こんな気が強いくせに彼氏は欲しいのかよ。


「? おい、私を見てどうした?」

「いえ、アンタの評価が、『おっかない女』から『超強えバケモンみたいな女』にランクアップしただけですよ」

「殺されたいのか?」

「殺されたいと思う奴なんざそうそういませんよ?」


 そんな軽口を叩き合いながら……密かに決心する。




 ———この女を籠絡する。 



 

 この女は、俺が活動するにあたって絶対に必要な存在だ。

 それに有り難いことに、コイツは彼氏が欲しいらしいし……漬け込む隙があって俺は嬉しいよ。

 更にラッキーなことに他の奴らがビビって手を出せないようだし、国を裏切ってでも俺に付いてくれるくらいには籠絡したいな。

 何、今まで柚月の敵になりそうな奴を何人も籠絡して来たわけだし……何とかなるだろ。

 人間、恋や愛ほど人を狂わせるモノはないからな。

 

 俺は内心笑みを浮かべつつ、思考を巡らせて計画を組み立て始めた。


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 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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